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GANG×HERO!
足並みが揃わない
───side:夏野聡

かいちょーが桃のタルトと幾分濃く淹れ直したコーヒーを孤独に味わっている同時刻、オレらは食堂の中心にいた。

「あーっこら聡!!またニンジン残してるー!好き嫌いしちゃだめだぞっ!!」

「春ぅーごめんねぇ!でも、どーしてもダメなんだよお」

「ほんっと、子供みたいだよな、聡は!ほら、くち開けろよ!」

「なに?あーん、ってしてくれんのお?」

「ばっ、ばか!そういうんじゃ……!!」

真っ赤になる王道転校生くんこと、桜田春きゅん。

もー、これで、相手してるのがオレじゃなかったら最高なんだけどなあ!!

オレはあくまで腐男子であって、当事者になりたいワケじゃあなかったんだけど……。うん、成り行きっていうか、勢いでこうなっちゃったけどね。

「ふふ、私にも食べさせてくれますか。桜田くん」

「春って呼んでって言っただろ!貴裕!!」

「だめです、これは私のポリシーですから。それよりもほら、あーん」

「…ッ!葵先輩は、好き嫌い無いでしょう……!!」

いつも冷静な篠宮が、がたりと席を立つ。

「ふふふ、そう言わずに篠宮くんも食べさせてもらったらどうですか?」

「お、俺は……っ」

「あーもう、貴裕もシノも仕方ねーなあ!おれはひとりしかいないんだから、順番な!!」

「オレも忘れないでよね、春ぅー」

「分かってるっての!もう、聡は甘えんぼだなあ!!ま、おれがずっとついててやるけど!!」


一般生徒の席から甲高い歓声……違うな、悲鳴が聞こえてくる。

俺の親衛隊、だろうなあー。自分がすっかりオタク気質な腐男子だから忘れちゃいそうになるけど、そうでしたオレも華の生徒会メンバーなのでした。

顔なんて、たまたま両親が美男美女で、たまたまその遺伝子を受け継いだってだけなんだけどね。

生徒会に入ったのは、ランキング上位に選んでもらったのももちろん嬉しかったんだけど、特権がいろいろ使えて、レベルの高いBLをこの目で拝める機会が格段に増えるから!

そしてあわよくば王道をこの身で体感してみたかったから……!!なんだけども、只今キャストが不足している。

常時笑顔の敬語美人の葵に、真面目でツンデレ眼鏡の篠宮。きゅるるんはわわマスコットな双子ちゃんや、やたら喋るのが苦手なワンコ系は今期の生徒会にはそう都合よくはいないけれど。あとチャラ男のオレ…は、まあ置いといて。


(かいちょーが、来てくれればなあ……。)


今は生徒会メンバーだけだけど、既に春が2年B組の爽やか陸上部くんと不良一匹狼くんのハートを掴んだことは情報入手住みなのだっ!!我らが暴君、生徒かいちょー様がいればそれでキャストは勢揃いだ。

(ほんとは、欲張って風紀委員長とかも虜にしてほしいんだけど……もー、せっかくのタイミングでいないんだもん。仕方ないけどさ。ケガ、だいじょーぶかなあ……。)


「おい聡!聞いてんのかよ!!」

「ぅえっ!?あっなにごめもごっっっ!!」

ヤバい聞いてなかった、と焦って開いたオレの口の中にアイツが突っ込まれた。

アイツ。ニンジンだ。

「ンンンンんんんむむむ」

ど、どうしよ……オレほんっっとにニンジンだめなんだよう。

春は何故かドヤ顔でオレを見てて、何考えてるかよく分からない。

口に入れたものを出すなんて行儀の悪いことはしたくないんだけど、これ、咀嚼したくない。

「お前なら食えるって、聡!!」

「んんんんん」

食えないよおおお!!

「夏野くん、頑張ってください」

声をかけられて葵のほうを見たら、愛すべき超絶清楚系美人さんが聖母の笑みを浮かべていた。

「頑張れたら、あとで御褒美あげますよ」

(ほああああ綺麗だあああああああ御褒美ってなにいいいいああああああ)

ごくん。

「あああああ葵っっっ!!!綺麗だよおおお女神さま天使さまだよおお嫁さんにしたいよおおおおおっ!!………………あ。」

「よく食べられました。頑張りましたね、夏野くん」

葵がぱちぱち、とお母さんみたいに手を叩く。

「そ、そんな子供扱いしないでよぉー!恥ずかしー!」

葵の美しさをどうしても喋りたくて、思わず口の中の邪魔者を飲み込んじゃった。

「やったな聡!!ほらもう一口!!」

「わ、わ、もういいよ春!!あ、そうだっ、篠宮がニンジンすっごく好きなんだってっ!ニンジンもオレより篠宮に食べてもらうほうが嬉しいと思うよー!!」

「そうなのかっ!?よーしシノ、ほら、あーん!」

「……っ!」


あ、篠宮顔まっか。かわいい!かわいい!!後輩が可愛くて鼻血出ちゃいそう!!!おまわりさんオレでーす!!

篠宮は、本当に春のことを気に入ったみたい。もともと完璧人間みたいになんでもスマートにこなす篠宮、もちろん嫌いじゃなかったけど…ちょっと近寄りがたい雰囲気だったんだよね。でも王道君のおかげで、今まで知らなかった篠宮のいろんな表情を新たに知った。

これってすごく楽しいんだ。腐男子としての萌えだけじゃなく、ひとりの先輩としてもなんだか嬉しい。

篠宮の恋、報われるといいなあー!

恥ずかしそうに、だけど素直に口を開いてニンジンを受け取る篠宮を見てニタニタしていると、葵の視線を感じる。

「……なあに?」

春の注意を引かないように、小声で問いかける。

「楽しそうですね、夏野くん」

「うん、すっごく楽しい」

「君が楽しそうな様子を見るのも、私の楽しみの1つなんですよ」

「あ、葵ぃ……!」

くすくすと上品に笑いながら言う葵。なんだ、やっぱり天使か!?!?

「ただ、はめを外しすぎないように……ね?」

にっこりとした笑みに一瞬不穏な表情が混じったように見えて、オレは高速まばたきをした。

えっと、えっと……?

「ふふふ……。ああ、桜田くんすみません。急用が入ってしまって……。申し訳ありませんが、今はこれで失礼しますね」

「えっ、どこ行くんだよ貴裕!おれも行く!!」

「だーめ。内緒です」

「んむっ」

葵が立ち上がって、追いかけて来ようとする春のうるさい唇に人差し指を当ててにっこり王子様みたいに微笑んだ。

当然、食堂は悲鳴の嵐だ。葵のとこの親衛隊は、攻めと受けが確か半々くらいでいたはずだから……。いや、どっちにしろ、大好きな葵が春に触れるのが耐えられないんだろう。あ、チワワ系のカワイイ子が食堂を飛び出して行っちゃった。

「……。」

罪悪感が、ないわけじゃないんだけど。それは春に対してもそうで、本気で春のことを好きでもないのに軽い調子で口説くのは、春にも篠宮たちにも不誠実だと思ってはいる……んだけど。

「いい子で待っていられますね…?」

「!!」

「ぶっっっは!!!」

超絶セクシースマイルに春が顔を赤らめる向かいで、オレは赤らめるどころかもう真っ赤だ。吹き出した鼻血で。

「お、おう……。おれ、ちゃんと待ってる!」

「はい、そうしてください。……ほら夏野くん、大丈夫ですか」

「……やっぱり、萌えには……勝てないよねえ…………!」

葵はオレの鼻血をティッシュで拭いてくれると(天使だ)、人差し指をオレの制服に擦り付けた。

……?べつに、鼻血が付いてるわけでもないし……?

「あお、い……?」

ゴシゴシ、と拭くように指を擦る。それ、さっき春の唇に当ててた指……?

「…………。」

そのままふいっと踵を返して、葵は急用とやらに席を立ってしまう。

(も、もしかして葵……、王道君のこと、好きじゃない?)

だとしたら、なんで春と仲良くしてくれるんだろう。すごく目の保養でありがたいんだけどさ。

オレの遊びに付き合ってくれるほど、葵はオレに甘くないはず……。

「……???」

「聡!大丈夫かっ!?」

「あ、う、うん!もう大丈夫!もう止まったし!鼻血コントロールは任せて!!」

「聡、鼻血コントロールできんのか!?すっげー!!」

「あはは、まあ突発的に出るのは抑えられないけど」

「大変だよなあ、ほら、ティッシュ!」

「あぃがとおーーはぅー」

「いいっていいって!!……ん?」

「どうした?春」

突然、何かをじーっと見つめる春に、篠宮が不思議そうに声をかける。

「……かわいい」

「「えっ」」

俺と篠宮ががたんと同時に席を立って(思考は全然違うだろうけど)、春の視線の先を凝視する。

誰だ、誰に対してかわいいって───!

「わっ、春!?」

ハッと気付いた時にはもう手遅れで、春は軽々と生徒会役員専用席からジャンプして降り立って、目標に向かって猛ダッシュしていた。

は、早っっっ!!ってそうじゃない!!萌えは見逃せないっっ!!!

「「春!」」

オレと篠宮も階段を降りて、慌てて後を追う。

一般生徒は春を嫌っている子が多いから、自然と人垣が割れて追うのは簡単だった。途中、黄色い声をあげてベタベタ触られたりするのは仕方ない。もう、なんのために生徒会席があるんだか……!!

「お前、すっげーーかわいいな!!ほんとに男子かっ!?女の子みてー!!ほっせー!!名前は何ていうんだ!?クラスは!?」

「…………。」

「それ以上近づくな」

「あっ……!!」

春の猛突進を遮る重低音の声で、俺は相手が……春がかわいいかわいいと騒ぐ子が分かってしまった。

「萌ちゃ……萌川に、幸村……。」


なんてことだ。最悪だ。

ただでさえ、萌ちゃんたちが生徒会を苦手としていることは裏では有名だっていうのに、よりによって春が接触してしまうなんて。

「なんだよお前!?……って、お前もすっげーカッコイイな!!名前はなんていうんだ!?なあもう友達だろ!!」

「……失せろ」

獣のような鋭い眼光が幸村から発されて、オレなんかビビリだから思わず「ヒッ」って言っちゃった。

駆けつけてきた篠宮も状況を理解した様子で、どう出るべきか考えているみたいだった。

周囲のギャラリーはしんと静まり返って、ほとんどの生徒がオレたちに注目している中、興味のない生徒の食器の音が微かに聞こえてきて、すっごく気まずい。

「なっ、なんてこと言うんだよっ!!お前、サイテーだぞっ!!初対面なのに、失礼だっ!!」

春だけが周りが見えていないようにぷんぷんと怒って幸村に食ってかかる。

萌ちゃんは激昴している春を見て、それから後ろにいるオレたちをチラ、と見て、一刻も早くこの場から立ち去りたいのか目を伏せて幸村の制服の裾をキュッと握った。

かわいいいいいい幸萌主従すっごい萌ええええ……と叫べる空気じゃないことぐらい、流石のオレも分かる。

「……戻ろう、芳誠」

鈴の転がる声を聞いた春が、ハッとした表情で萌ちゃんを見てまた大声を出す。

「お、お前もなんなんだよ!無視すんなよ!!かわいいって褒めただけじゃねーか!!おれはお前らと友達になりたいって……!あっ!お前が、お前が束縛してるからこいつは自由になれねーんだなっ!!こいつを解放しろよっ!!かわいいからってワガママ───」

春の台詞は、最後まで言えなかった。

いや、言わせてもらえなかった。

幸村の目にも止まらないスピードの拳が春に真っ直ぐに向かって来て、春の鼻先すれすれで静止した。

全員が、息を飲んだ。

「…………やめなさい、芳誠。力で黙らせるのは幼稚だ」

静寂を破ったのは他でもない萌ちゃんの透き通った、冷めきった声だった。

やめなさい、と言われてから3拍ほど置いて、幸村が拳を戻して萌ちゃんの斜め前の定位置につく。

「なっ……なんなんだよ!!」

春が爆発した。

今にも突っかかりそうな勢いの春を篠宮となんとか押さえる。

だめ、今暴力事件起こしちゃダメ!!!

オレがかいちょーに殺されちゃう!!!!!

「おっ、おおおお、おっお、お、おちつつついてっっ、はりゅ、は、はるっっっ」

ダメだオレが落ち着けてない。

「なんだよお前いきなり!!いきなり殴りかかってくるなんて、お前まさかチーム所属かっ!?どこのやつだっ!?」

「…………君は、失礼な人だね」

ざわついていたギャラリーも、水を打ったように静まり返る。

不思議なことに萌ちゃんの声は大きくないのに人を従える、黙らせる威厳があって、春だけがキャンキャンと吠えている。

「失礼なのはどっちだよっ!!おれはただ、こいつと友達になりたかっただけなのにっ!!なんでこんな酷いことすんだよお!!」

「…………お互い、関わらないようにしましょう。芳誠」

「ああ」

「おいっ、待てよっ!!逃げるなっ!!」

馬鹿力の春を押さえるのも大変で、もう限界かもしれない。

「しっ、篠宮っ、オレもう無理っ!」

「しっかりしてくださいよ、夏野先輩…。」

篠宮が呆れたような表情をして、少し悩んだ結果、春をふわっと抱き上げた。

そう、お姫様だっこ、だ。

ふおおあおおおおおおおおおおお!!

「わっ、こらシノ!!何するんだよ!!」

「あんな人たち、もう放っておけばいいだろう。俺は……もっと春といたいのに。せっかく、春と一緒にいられるのに」

「シ、シノ……。」

至近距離で切なげに囁かれた吐息に、春が思わず赤面する。

そうしているうちに萌ちゃんと幸村の姿はもう見えず、篠宮なりに気を使ったのかも、なーんて。

(……久しぶりに見たな、萌ちゃんの帝王オーラ……。)

中等部ぶり、だろうか。

(…………こんなことで見たかったわけじゃないのに)

周囲の生徒はもう口々に今の出来事を喋ったり友達に連絡したりして、情報が全校に広がるのもすぐだろう。篠宮の親衛隊はすごい形相で春を睨んでいる。ああ、マズイ、制裁が……そうだ、萌ちゃんの親衛隊も過激派が……。

「はあ……どうしよ」

オレが求めてた王道の展開なのに、なんで胸がチクッと痛むのかな。

「……かいちょーのせいだもん」

俺様かいちょーがいれば、お前は俺のものだ、俺だけ見てろって春の心を鷲掴みなのに、な。なーんて。

「さっ、聡!!お前からもなんか言ってくれよ!!」

「へっ?」

「お、降ろしてくれって頼んでるのに!」

「ええー別にいいんじゃない?オレ非力だからお姫様だっこしてあげらんないしぃー」

「もー!!してくれなくていいんだっつの!!シノー!おーろーせー!」

「あはは、春まっか!かわいいー!」

とりあえず、オレは篠宮の恋を応援しよう。

オレが王道君に恋するには……ちょっと相性がよくないみたいだから。



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