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GANG×HERO!
曲がり角

G組から帰ってきた紅也は、いまいち消化不良のまま廊下を歩いていた。

幹部レベルなら、もっと強い奴がいるだろうか。自分と対等に渡り合える相手が紅也は欲しかった。なんならどっかの親衛隊とやらでもいい。

まあそんなことを萌川が聞きでもしたら、「じゃあスポーツで発散しようよ!」とにこにこしてバスケットボールでも持たされてしまうに違いない。爽やかなスポーツ選手……駄目だ、どう考えても自分には似合わない。でもあの笑顔にはちょっと絆されてしまう。

どうでもいい相手ならともかく、紅也はお気に入りにはとことん弱いのだった。

「あー…動いたら腹減ったな」

ぼやく。食堂では現金は使えないんだったか。なら購買に行くかと思ったところで、そういえば場所を知らないことに思い当たる。

G棟は把握しているのに、肝心なところは知らなかった。

「あぁクソ、無駄に広いから…適当にフラつけば見つかんだろ」

なんとなくで歩きだした。誰もいない廊下を進む。

「───っと!」

「!!」

と、曲がり角で一人の生徒にぶつかった。

おいおいベタすぎんだろーが、と先程からの苛々も相まって、紅也は舌打ちして相手を睨みつけ……

「…あ゙?お前……。」

「ッ!」

その生徒の顔を、一度見たら忘れる筈がない。

「……よォ、会長サン、だったか?」

嫌みな程に男前な顔つき、黒い髪に黒い目。

脇に何やら書類を抱えていた。

「あ、あぁ…悪いな、ぶつかってしまって。怪我はないか?」

「怪我はねぇが、詫びは欲しいな」

「は…?」

生徒会長、百瀬瀧斗がきょとんとした顔をする。というか、さっきからやけに緊張しているような気がするのはなんなんだ。

「昨日、足止めされたのもあるしな。カード忘れたんだ、アンタ昼飯奢れよ」

「…はぁ。まあ、いいだろう。……ただし、」

百瀬が、呆れたため息をついて一度目を伏せると、今度は王者らしい不敵な笑みを浮かべて紅也を見る。

奇しくもその表情は、紅也がよく見せるそれにどこか似ていた。

「ただし、俺といると目立つぞ?覚悟しておくんだな」

「ハッ、ナルシストめ。上等だ、見られて恥ずかしいようなツラじゃねぇしな」

「あーそうかよ」

百瀬が笑う。なんだ、素直な顔もできんじゃねーか…と思うが、かといってムカつくことに変わりはない。

「で?購買でいいか?」

「いや、食堂だ」

「…おい、それは目立つってレベルじゃねえぞ?変な噂にまでなりかねない」

「あ?テメーの地位も信頼も、見知らない奴と飯食っただけで無くなるようなモンなのかよ?」

「いや、俺の話じゃなく、お前の…」

「話がある」

きっぱりと、紅也は百瀬の目を見て言った。

黒に緑がかったその瞳にじっと射抜かれ、百瀬はハッと金縛りにあったように動けなくなる。

(この目は……苦手だ)

お互いに同じことを感じたとは知る由もなく、百瀬は数拍置いてため息をつき、交差した視線を逸らした。

「なら尚更、人の多い食堂じゃ無理だろうが」

「チッ。じゃあとっとと購買連れてけよ。今なら人も少ねえだろ」

「ああ、授業中だしな……っておい。なんで授業中にこんなところフラついてんだ相模」

「今更かよ、バカ。用事済ませてただけだ」

「バカ……?」

百瀬の眉間がぴく、と寄る。

「おいどういう意味だ、相模…」

「そうそう」

「あ?」

「アンタ俺の名前、知ってんだな」

「……!」

百瀬がハッと目を見開き、ばつが悪そうに「それは…」と続ける。

紅也はじーっと同じ高さにある百瀬の顔を見つめていて、百瀬としては居心地が悪いことこの上ない。

(忙しいカオだな)

不敵にニヤリと笑ったかと思えば真剣な眼差しになり、バカなんて言っただけでイラッとした表情を見せ、今度は焦ったように目を泳がせる。

(見てて飽きないヤツ…)

「…それは、転入生の書類が生徒会に回ってきたからだ。つい最近だし、なんならもう1人の転入生の名前だって……」

もう1人の転入生。そこまで言って百瀬は頭痛と目眩を感じて思わず頭を押さえようとし、結果、脇に抱えていた書類をバサバサと落とした。

「……はあー……。」

「1人で何やってんだよ。アホか」

「……。」

バカの次はアホ。屈んで書類を拾い集める百瀬をよそに紅也は手伝う素振りも見せない。

「もう1人の、ってアレだろ。モジャモジャカツラのチビ」

「……ああ、そうだが。モジャモジャ……うん?カツラ?」

「アレが本物に見えるかよ、バカちん。眼鏡も伊達だし、なんかワケありだぜアイツ。ま、興味ねーけどよ」

「面識があったのか」

「お前昨日の話聞いてねーのか?誰があのチビ運んでやったと思ってんだよ」

実際、桜田を運んだのは幸村だったのだが。

「そうだったな」

書類を揃えた百瀬は立ち上がって、今度はしっかりと紅也と目を合わせる。

「昨日はまともに案内できずすまなかった。それと……感謝する。たか……うちの副会長も保健室に運んでくれただろう」

心から感謝しているようで、フッと微笑まれる。

「……あ、ああ」

今更、面と向かって感謝されても気持ちが悪い。

(けどまあ、ホントによく表情の変わるヤツ……)

「さ、行くか。購買はそう遠くない。よっぽど方向音痴じゃなきゃ場所もすぐに覚えられるだろう」

「……なあ、生徒会長さんよ」

「なんだ?」

「お前の名前、なんつったっけ」

「……百瀬。百瀬瀧斗」

「ん……、よし。じゃーお前今日からモモな」

「はッ!?」

先を歩いていた百瀬がバッと振り向いて驚愕の表情を見せる。それを見て紅也はぶふっと吹き出しそうになるのを堪えてニヤッと笑ってみせた。

「ももせだから、モモ。っくく、カワイくていーじゃねーかよ」

「おい、ふざけんな」

「ちなみに、今まで俺にあだ名を付けられたやつらは、」

「おい…」

それはもう、凶悪に笑って。

「みーんな、俺のオモチャだ」




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