GANG×HERO!
因縁
「ダーリン、遅れてごめんねぇ。」
ギィ、と屋上のドアが開く。幹部の会合の場所はトップの気分でころころ変わるのだが、今日は屋上だったらしい。
常であれば多くの不良がサボタージュしている屋上は、今は幹部しかいなかった。
その中央に座っている、一際体格のいい大きな男。ライオンのたてがみのように白銀の髪を逆立てている。ただそこに居るだけなのに、圧倒的な王者の威圧感を醸し出していた。
生徒会長とはまた違う、『力』の強さの威圧。
「…ちっす、鬼ヶ崎先輩」
「あ゙ぁ゙?何だてめぇ?何で下っ端がここに来た?」
「…っ」
中村に視線が集まる。ただの不良集団とは到底言い難い強い睨みに、思わず後ずさりしそうになった。
「んふふ、おれのお土産だよぉ、ダーリン。」
語尾にハートマークが付きそうな甘えた声で柳瀬が言い、鬼ヶ崎にしなだれかかる。
「土産だと?」
「うーんと、正確にはぁ、その子の同室者についての情報がおみやげ。ふふ、さっきねぇ、二年の教室に乗り込んで来たんだよぉ。」
「なんだってっ…!!」
思わず立ち上がったのは、二年の幹部だ。
「結構派手にやってくれたみたいだよぉ?一二年の下っ端は相変わらず弱いんだもぉん!っふふ…。」
「…っ!す、すんません!自分の教育不足っす!!」
二年の幹部がバッと頭を下げる。
「…で?お前がわざわざ張ってたってこたぁ、見たことある奴なんだろ、柳瀬?」
「はぁい、ダーリン。その通り。…でも確信が持てないからぁ、そこの哀れなヒラちゃんを連れてきたのぉ。」
柳瀬が、鬼ヶ崎にもたれたまま探るような目つきを中村に寄越す。
重そうな装飾のピアスがしゃらりと揺れた。
「ね、あいつの名前は?」
「……。」
少し、躊躇した。
ただの同室者だ、隠蔽する必要なんか無いし、庇ってやることも守ってやることも、紅也ならば願い下げだと鼻で笑うだろう。
……それでも、一瞬だけ躊躇った。
「…相模、紅也っす。昨日転入してきた二年生っす」
「ビンゴォ!」
名前を聞くと、嬉しそうにキャッキャと柳瀬ははしゃいだ。
「やぁっぱり『相模兄弟』の片割れだよダーリン!あのむっかつく奴等だよぉ!」
「『相模兄弟』…?」
柳瀬の言葉が、中村にはいまいち理解できない。
外の世界をほとんど知らないからだ。
「ねぇねぇダーリン、覚えてるでしょお?」
「…ああ、当然だ」
普段よりさらに低く、ドスのきいた声で鬼ヶ崎は続ける。
「俺は顔を直接見たことはねェが…。そうか、相模兄弟の片割れか」
「俺もちゃんと見たのは今日が初めてだったけどぉ。聞いてた特徴と一致するしぃ。」
「ククッ、あいつらじゃあ、二年の下っ端じゃ歯が立たねえだろうよ。」
歪んだ笑いを浮かべるトップ二人に、中村はとんでもないことに巻き込まれたような嫌な予感がしていた。
「……にしても、片割れだと?兄か弟はどうした?あのブラコンのやつらが1人で動くか?」
「さぁ?でも一緒じゃないってことはぁ、うちの学園に来てるのは一人だけってことじゃないのぉ?」
まぁでもぉ、と柳瀬はクスクス笑う。
「どっちか潰したら、地球の反対側からでもすっ飛んで来るでしょ。それが『相模兄弟』なんだから、ねぇ?」
「はっ、そうだったな」
鬼ヶ崎が立ち上がる。
「ん?もう会いに行くのぉ?」
「いや、まだだ。最高のもてなしをしてやらねぇとな」
獰猛に笑って、煙草を取り出した。
中村は、五体満足で帰ることを諦めて、意を決して尋ねてみた。
「あ、あの…。相模は、一体何者なんですか?」
柳瀬の目が鬼ヶ崎に向き、鬼ヶ崎が頷いたのを確認すると中村に向き直った。
「あいつは…っていうかぁ、『相模兄弟』はねぇ。どこにも属さず、舎弟もとらず、二人ぼっちで成り立ってるチームなのさぁ。」
「二人ぼっちで…?」
「そー。まぁバックにアブない怖ぁい人達がついてるって話も聞くけどぉ。…相模兄弟はねぇ、」
「……。」
「俺とダーリンがいない間にぃ、俺達のつくったチームを全滅させちゃったのぉ。」
「……ッ!?」
鬼ヶ崎と柳瀬が昔チームを率いていたことは中村も知っている。
それが、たった二人がかりで全滅…!?
「ふふ、全滅って言ってもぉ、死人は出てなかったけどねぇ。みーんな病院送り。でもみぃんな、何が怖いんだかガタガタ震えておしゃべりできなくなっちゃってさぁ?」
「………。」
「久し振りに、ダーリンの本気モードが見られるかなぁ。…んふふ、興奮してきちゃった。」
目をいやらしく細めると、柳瀬は鬼ヶ崎に纏わりつく。
「ダーリン〜。エッチぃことしようよぉ。」
「あ゙?ったく、我慢のできねぇ変態野郎だな、テメェは」
辺りもはばからず、濃密なキスを交わす。このままおっぱじめる気かと、中村も他の幹部もそそくさと屋上を後にした。
あの二人の関係は、よくわからない。恋愛感情は互いに微塵もないのだと、なぜかやたらと嬉しそうに言っている柳瀬を目撃した者はいるらしいが。
「相模…。」
相模は、どうやら名の知れた不良らしい。どこか他人事のように中村は考えていた。
「うわ、なんだこれ。マジかよ」
廊下の有様を見て、思わず幹部たちが声を漏らす。
片付けを手伝うべく、中村は重い足取りを進めた。
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