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GANG×HERO!
ゴミ組へ

「よォ、ゴミ組とやら」

「挨拶に来てやったぜ」






球技大会のメンバーを無事決めて、次の授業が始まるより前に紅也は教室を出た。

萌川たちは口うるさく引き止めたりしない。こういうところが気に入っている。

目指すは、中村のいるG組だ。どの程度荒れているのか知らないが、期待でニヤニヤしてしまう。

すれ違う生徒が頬を染めたり、青ざめたりしているが気にならない。

あぁ…喧嘩、喧嘩だ。

いくら萌川がキラキラした眼差しを向けてきても、自分は所詮スポーツに熱を入れられるような真っ当な人間ではないのだ。

強い奴、いるかな。紅也は弱い輩には興味が持てなかった。強い、できれば自分や弟よりも強い相手と闘いたい。

中村に用事があるだけなのだが、紅也の期待通りであれば、おそらくすんなり教室まで通してくれないだろう。

───なよっちいホモまみれで窮屈だったんだ。ちょっと遊んでもらうぜ。

校舎の配置はぼんやりとは覚えた。

基本的に一つの学年は一つの棟にあるが、G組だけは反対側の棟にある。

始業のチャイムも気にせず足をG棟に運んだ。

「………。」

側まで来ると、G棟だけ他と空気が違った。

紅也が前にいた学校のように、酷い落書きや血の跡、蹴った靴の跡などが残っている。

教室に続く階段のところに、煙草をふかしている二人組がいた。

二人は紅也を見ると、柄の悪い形相を歪めて紅也を睨んでくる。

「お゙い、何だテメェ。見ねえ顔だな?」

「何年だァ!?G組に何の用だ!」

二人共、善良な一般人ならば竦み上がってしまいそうなドスのきいた声だったが、相模紅也は善良な一般人ではない。

養子といえど、ヤクザの息子だ。

「よォ、ゴミ組とやら」

不敵に笑う。

「挨拶に来てやったぜ」






紅也は笑っていた。

楽しそうに、つまらなそうに、行く手を阻む生徒達を笑いながら吹っ飛ばしていく。

「オ゛ォイ!弱ェぞテメエら!!所詮はお坊ちゃま学校ってかァ!?」

「ぐっ…!!な、なんなんだコイツ!?」

「追いつけねェ…幹部レベルだ…!」

「弱ェ、弱ェ…!俺は弱い奴には興味ねぇんだ、よっ!!」

左右から同時に殴りかかってきたのを、ちょうど良いタイミングで身を屈めて脚払いする。体勢を崩したところにすかさず肘を入れ込み、ブンと反対の手を水平に振って背後から襲いかかる生徒を横に薙いだ。

「もっと骨のある奴はいねぇのかよ……、っとと」 

勢いのまま先へ進みそうになって、慌てて急ブレーキをかける。

本来の目的を素通りするところだった。

「邪魔するぜ…っと!」

教室のドアを開けた途端襲いかかってきた生徒を避けて、弁慶に一発くれてやる。なんだこいつ。

「おい中村ー。いねぇの?」

教室内をざっと見渡すが、見慣れない紅也にガンを飛ばしたり睨みを効かせて襲いかかってくる生徒ばかりで、中村の姿は見えない。さらに言うと、授業中のはずだが教師の姿さえ見えなかった。

紅也はちょうど殴りかかってきた生徒の腕を掴み引き寄せた。

「なぁ、中村の居場所知んね?」

「はっ、誰が知るかよそんなこと!!」

足を振り上げて蹴りを入れようとした生徒の靴を、逆に容赦ない力で紅也は踏みにじった。

「ぅぐっ…!」

「じゃあさ、お前らっていつもどこでサボってるワケ?」

「言わ、ね…!」

「ふぅーん、あっそ」

掴んでいた腕に力を込めてねじり上げると、相手は呻き声を上げてうずくまる。

紅也は手を離して、つまらなそうに見やった。

「………な、何してんだ、お前」

「お?」

声に振り向けば、予想通り中村が顰めっ面で立っていた。

「廊下が酷ぇ有様だ…」

「誰もそんなに重傷じゃねぇよ」

弱かったからな、とふてぶてしく言い放つ紅也に、中村は溜め息をついた。

「それで、俺に何の用だ」

「ああ、そうだったな。お前、今日何時頃部屋戻る?」

「…なんでだよ」

「いや、カードキー忘れてよ。お前が帰った後なら鍵開いてンだろ?」

「寮監に言えば、別にいつでも開けてくれるぞ…」

「誰があんなカマホモ野郎に頼むかってんだ!」

「そ、そうかよ」

寮監とのいざこざを知らない中村は少し気圧されたように答える。

「…遅くとも、6時過ぎには帰ってると思う」

「りょーかい。…ところでよォ、」

ニタ、と笑う紅也に、中村は背筋がすうっと冷えていくのを感じた。

「今日は幹部とやら、いねェの…?」

ひくり、と中村の頬が引きつった。

「…その顔は、知ってるな?言えよ、強ぇ奴はどこにいる?」

「…今はいねえ。ヒラは知らない場所で会合、してる」

「…………。」

「…………。」

「………仕方ねぇな、信じてやるよ。」


紅也はくるりと踵を返すと、もう何の未練も無いかのようにスタスタと元来た道を帰って行った。

その後ろ姿を見送りながら、中村はまた一つ溜め息をつく。

「───どうして帰らせちゃったの?勿体なぁい。」

「ッ!!」

唐突に肩に重みがかかり、耳元でねっとりとした色気のある声が聞こえて、中村は勢いよく跳ね上がった。

「や、柳瀬先輩!?」

「うふふ、こんにちはー、ヒラ生徒くぅん。」

両耳はもちろん、唇にも瞼にもピアスを飾った綺麗な顔が近づく。

「すっ、すんません!先輩は幹部の会合に出ているものとばっかり…!」

……というより何で、三年の柳瀬先輩が2年G組の教室にちゃっかりいるんだ。

「今日はねぇ、二年の教室にいるとおもしろいかもって聞いてさぁ」

「はぁ……。」

「ふふ、やっぱり情報は、高くついても信憑性のあるのが良いよねぇ。面白いもの、見れちゃったぁ。……で、さ。君、あいつの何?」

「…る、ルームメイトです。昨日から…。」

「ふぅん?まぁいいや、行こうか。」

行こうか、と言って柳瀬は中村の腕を掴み歩き出した。

「ちょっ、柳瀬先輩!?」

柳瀬の中性的な外見と細腕からは予想もできない程の馬鹿力で、中村は引っ張られていく。

もとより、G組のナンバー2と謳われている柳瀬に抵抗する気など無かったのだが。

「面白いことは、ダーリンに教えてあげなくっちゃ、ねぇ?んふふ。」

「……ッ!」

柳瀬の言う『ダーリン』は、一人しかいない。


G組トップ、鬼ヶ崎景近。

最強だ。


…俺、生きて6時過ぎまで帰れるかな、とただの不良Aの中村は思ったのだった。



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あきゅろす。
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