GANG×HERO!
学校行事
結局、紅也は窓際の一番後ろ、その前に萌川、紅也の隣に幸村という席になった。ちなみに萌川の隣は学級委員長だ。
明らかにくじ引きの結果ではないが、誰も異論を唱えられる者はいなかった。
「………お前、ノートも何も持ってきてないのか…」
「馬鹿にすんな、シャーペンくらい持ってきてるっつうの」
「…いや……もういい」
「時間割ももらってなかったもんね、仕方ないよ」
「だよな。で、次なに?」
「次っていうか、うん、もう数学が始まってるんだ紅也」
「おー、マジか」
「うん」
萌川が前に向き直る。
神経質そうな数学教師が、目元をひくつかせながら紅也たちの方を凝視していた。
しかし紅也は相変わらず、欠伸をして、頬杖をついて窓の外を眺めている。
(あいつの目…知ってる気がする。)
(ムカつくぐらい真っ直ぐで、……やっぱりムカつく。)
(喧嘩ふっかけてみたら、何か分かるかもしれねぇな…。)
頭を占領しているのは、昨夜の食堂での一件だ。
腕を掴まれて、引き止められた。
目が合ったら、なんか居心地が悪かった。
…だから、ムカついた。それだけだ。
そう自分に言い聞かせて、紅也は緩やかな眠りに落ちて行く───。
「相模!!転校初日から寝るんじゃない!!」
…としたところで、教師の喝が飛ぶ。
紅也は面倒くさそうに視線だけを返した。
「…っ。」
威圧感のある紅也の睨みに教師はたじろぎ、もごもごと口ごもりながら授業を再開した。
さて、どうしようか。
G組に挨拶に行くのが先か、生徒会長に探りを入れるのが先か。
「ま、G組だな…。」
中村の連絡先を知らないため、放課後より前に会いに行って、帰る時間を聞く。それまではどこかで時間を潰せばいいだけだ。
得体の知れないモヤモヤはあるが、まあまだ5月だ。急ぐことはない。
「幸村ー」
「…………。」
鬱陶しげに視線だけが向けられる。
「次サボっていいやつ?」
「………………。」
幸村が机からファイルを引き出し、確認してから首を横に振る。
紅也にも見えるノートの端に、
『HRだ。球技大会の。』
とだけ走り書きしてくれる。
喋ればいいのに真面目な奴だ、と紅也は苦笑した。
授業が終わり、休み時間になる。すると、他のクラスからも話題の紅也を一目見ようと多くの生徒がドアの外に集まったり、勇気のある生徒は紅也に直接話しかけたりしていた。
何気ない話題であれば紅也も普通に返したが、何よりも彼を辟易させたのは、
『あのっ!ぼ、僕を…抱いてくださいっ!!』
という唐突なお誘いであった。
もちろん一蹴したが。
「いや、マジで意味わからん。俺の知ってる軽い女達でももうちょっとマシな台詞吐いてたぞ…?ここの奴らってみんなこうなワケ?頭沸いてんのか?」
「いやぁ…なんとも言えないなあ。否定はしないよ。皆が皆、そうとは言えないけどね」
それでも紅也に直接話しかける生徒は少ない。
その理由の大部分には、この学園の生徒に染み着いている『憧れの方々とは馴れ馴れしく接してはいけない』という、親衛隊気質がある。
さらに、普段はお互い以外と打ち解けることのない萌川と幸村が一緒にいることも近づけない要因の一つだった。
一般の生徒は紅也と二人がどうやって知り合ったのかを知らない。知ろうと躍起になる者は決して少なくなかった。
「ねぇ、紅也は球技大会、何にでる?」
「あー…行事ごとはめんどくせぇな。何あるかもわかんねえし。…翔と幸村は?」
ギャラリーがざわつく。名前、下の名前を、という囁きがちらほら聞こえてきた。
幸村のことは名字で呼んでいるため、余計に萌川への名前呼びが際立つのだろう。
紅也としては別段こだわりはなく、もう翔は翔、幸村は幸村で覚えてしまっただけの話なのだが。
「僕は、その…運動が、あんまり……得意じゃなくて…。」
「だろうな」
「えっ」
「…………。」
「……悪い」
「……いいけどさ……。」
「あれは?卓球とか。校内でやるレベルならそんなに体力いらねえだろ。一応球技だし、あるんじゃねえの?」
「卓球かあ…。授業以外でやったことないけど、大丈夫かな?」
「さぁ?練習次第じゃねぇの?」
「練習、か…。そうだね!卓球、やってみようかな。…やってみたい。ねぇ芳誠、一緒にダブルス組んでくれる?」
「ああ…勿論だ」
幸村が優しい顔つきで萌川を見る。我が子の成長を喜ぶ母親のような表情に、紅也は思わず吹き出してしまった。
「……なんだ」
「どうしたの?」
「いや、お前らって…。親子みてえ。っつーか、幸村がオカンみてえ!」
「えぇーっ!?ちょっと、子供扱いしないでよ!」
「……………。」
「っくく悪ィ悪ィ…。いや、昨日は主人と忠犬だと思ってたんだけどな」
「それもおかしいよ!せめて兄弟にしてよ!…ねぇ、それより。紅也はどうする?」
「あー…サボってもバレねえやつ」
「無いよ?」
チャイムが鳴り、授業の始まりを告げる。
三人を見ていた生徒たちも、自分のクラスや席にちゃんと戻った。
A組はいわゆるかなりのお坊ちゃんクラスで、基本的に皆真面目だ。
「えー、ではこれから球技大会のメンバー決めを行います」
学級委員長が進める。奇しくも紅也に慌てて席を譲ろうとした男子だ。
「黒板に書いてある種目から、一人二つまで参加したいものに手を上げていってください。あっ、必ず何か一つには出場してくださいね!」
委員長が種目を読み上げていく。
バスケット、バレー、サッカー、ソフトボール、卓球、バドミントン、けん玉、オセロ、将棋。
「最後の三つなんなんだよ…。」
「ふふ、あれはね。運動音痴のための救済措置。僕も去年はオセロだったなぁ」
「へぇ。今年はいいのか?」
「うん。今年は卓球一本にするよ。初めてのこと、やるならちゃんと集中したいから」
笑って言う。それに、と続けた。
「それに、うちは結構やりたがる人多いと思うからね」
言われて、紅也はクラスを見渡してみた。
萌川のような小柄、というか文化部系の生徒。幸村のようなスポーツマンタイプの生徒。A組にはおおよそ半分ずついるようだった。
「んじゃ、余ったのでいいや。なんならオセロでも──」
「えっ駄目駄目!紅也は絶対運動できるでしょ!活躍してるとこ見たいもん!」
「あ、じゃあよ、翔決めて」
「へ?」
きょとんとした顔をして、それからわくわくした表情になる。
「ホントに!?何でもいいの?」
「ああ。ただし一つだけな、面倒くせぇ」
「サボらないでね?ね?応援しに行くから!」
「わかったわかった。で?」
萌川が迷いなく答える。
「バスケ!」
球技大会まで、あと二週間。
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