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GANG×HERO!
さて

「ん……。」


聞き慣れた携帯のアラーム音に、紅也は目を覚ました。

寝起きは悪くは無いが、すこぶるいいという訳でもない。緊急事態でもなければ、ぐずぐずと心地よい微睡みにまだ潜っていたかった。

そうは言っても、起きなければ始まらない。


「……くぁ。」


寝ぼけ眼のまま顔を洗って、制服を適当に着る。早速ネクタイが見当たらない。鞄を取り出したところで、今日持って行くべき物さえ知らないことに気付いた。

「…財布と携帯あればいいだろ」

結局、鞄にはほとんど何も入れずに、鏡に向かう。

髪も適当にセットし、いくつかのアクセサリーを身につける。

弟の蒼汰に短いメールを送り、自室を出た。

共同スペースを素通りし部屋を後にしたちょうどその時、一通のメールが届いた。蒼汰からではない。


『おはよう、紅也!もう起きてるかな?

 よかったら、一緒に朝ご飯食べない?』






「紅也!」

駆け足で寄って来た人物に、紅也は「よぉ」と返す。

「おはよう。昨日はよく眠れた?」

「ああ。つーか腹減った。早く行こうぜ、翔、幸村」

「うん!」

「………。」

食堂まで、会話しながら(といっても幸村は発言しないのだが)ダラダラと歩いた。

「昨日は結局、職員室にも理事長室にも行ってないんだよね。ごめんね、気付かなくて」

「別に、翔が謝ることじゃねえだろ。案内役がブッ倒れたんだし、元はといえばあいつが……」

そこまで言って、紅也はククッと笑ってしまう。昨日の小学生のようなやりとりが頭をよぎった。

「あーあ、あんな頭の沸いた奴、拾うんじゃなかったな」

食堂に着くと、それなりにいた生徒たちが三人を見て歓声とも雄叫びともつかぬものをあげた。

野太い声をだしている連中は、熱に浮かされたように萌川を凝視している。その大半が素性の知れない紅也を睨み付け、敵意を剥き出しにしていた。

小柄な生徒や、やや中性的な生徒たちは、初めて見る紅也の姿にざわついていた。中には、昨夜中川と一緒にいたところを見ていた者もいたが、何一つ彼についての情報を持たないのは同じだった。

さらに、萌川と幸村という学園でも相当注目を集める二人といることで、昨日よりも目立っていたのだった。

二人はそんな喧騒は気にもせず、ちょうどいい席を探している。

「………あの、窓際でいいだろう。」

「あ、そうだね!周りもすいてるし」

「ねみぃ…。」

周囲を気にしないのは、紅也もであった。

「あ、カード忘れた」

料理を注文しようとしたところで、紅也が気づく。

「あはは、早速かぁ。慣れないとそうだよね。ん、僕の使っていいよ」

「悪ィな、借りるわ」

「で、どうする?寮監に言えば部屋あけてもらえるけど」

「あー…。面倒くせえ。いいや、帰るときにアイツのクラス寄ってく……。」

「あはは、もう、しょうがないなあ。アイツってルームメイト?何組かわかるの?」

「G組」

「え…っ!あ、危ないよ!G組に乗り込むなんてっ」

萌川が顔を蒼白にして言う。確かに、萌川みたいなタイプとは最も相性の悪い場所だろう。

逆に言えば、G組と最高に相性のいい自分がこうして萌川たちといるのが変なんだよな、と紅也は思わず笑った。

料理が運ばれてくる。焼きたてのパンとコーヒーがうまい。

「ああ?大丈夫だって。翔たちには迷惑かけねえし、第一、喧嘩なら俺のほうが強い」

「でも…」

「………放っておけ。よっぽど腕に自信があるんだろう」

「ああ、あるな。今度遊んでやろうか?幸村」

「結構だ。お前に付き合っている暇はない」

「ククッ、そうかよ」

「もう、二人して…」


萌川は呆れて溜め息をついた。


「でも、本当に気をつけてね。荒っぽいだけじゃなく、話が通じない人も少なくないから…」

「はいはい。つーか、俺がG組に入る可能性だってあるんだからな」

「えっ。…あ、そうか。まだクラスもわからないのか」

うーん、と萌川は考える。幸村は特に興味が無さそうだ。声を若干ひそめて、萌川は続けた。

「…昨日、紅也の家って、その…ちょっと特殊な職種だって聞いたけどさ。それって、公にしていいことじゃないよね?」

「さあな。俺はともかく、親父にはなーんも言われてねえけど。まぁ、一応はSagamiの会社のほうで名乗っていくつもりだけどよ」

「Sagamiって…製薬会社の?あの有名な…。そっか、紅也のところだったんだ」

じゃあ大丈夫だよ、と笑顔を見せる。

「そういう大きな企業の家の人はね、大抵A組かB組なんだ。だいたい、家柄と成績で振り分けされちゃうからね。同じA組だといいなぁ」

「ああ、そうだな。…なあ、話は変わるが、学校内だと現金って使えねえの?」

「えっと…どこでもメインはカードだけど、購買では確か使えたはずだよ」

「ん、わかった」

じゃあ昼は購買でいいか、と紅也は欠伸をする。


その後、二人に職員室まで案内してもらった。そろそろ朝のホームルームが始まる時間だったため、二人とはそこで別れた。

「面倒くせえな…」

職員室のドアをノックも無しにガラリと開ける。

朝の慌ただしそうな空気の中、多くの教師が紅也を振り返った。

「おー、相模!こっちだこっち!」

職員室の真ん中のあたりで、腕を伸ばして手招きする白衣の男性がいた。

中肉中背の中年、といった風体だ。顔も身長も平均的な、言ってしまえば印象の薄い見た目である。

俺こいつの顔覚えられる自信ねえや、と紅也は考えながら歩み寄って行った。

「相模、よく来たな。ああ、昨日のことは当事者から聞いてるから大丈夫だ。…えっと。今日から相模の担任になる、白河だ。よろしくな」

「……。」

差し出された手を無視して、紅也はふわぁと欠伸をする。

よろしくしてもらわなくて結構だ。

白河は気にした様子もなく、「時間割とか、細かいことを書いた書類はこれにまとまってるからな」とファイルを紅也に渡す。

少し化学薬品の匂いがした。

「じゃあ、ホームルームも始まるし、早速教室行くか!」

ついてこーい、と白河はとっとと歩き出してしまう。

「…おい」

「うん?何だ?」

歩みは止めずに、白河が紅也を振り返る。

「そもそも、俺のクラスってどこだよ」

「あれ…?あはは、言ってなかったっけか!」

あははじゃねぇよ。

「相模のクラスはA組。2年A組だ」

「…あいつらと同じか」

つくづく、変な縁だ。

「お?もう知り合いがいるのか。そりゃあよかったなあ」

よかったよかった、と笑って紅也の尻をパシパシ叩いてきた。

「ケツ触んな、気持ち悪ィ」

手を払い落とす。やけに距離感の近い男だった。

「…そういや、A組に転入してきたのは俺だけだよな?」

「ああ、そうだ。桜…井だっけ、桜木だっけ?はB組にいる。といっても隣だから、会いたきゃいつでも会えるぞ」

「…冗談じゃねぇよ…」

正解は桜田なのだが、紅也も名前なんか知らなかったので訂正のしようがなかった。

そうこうしているうちに、教室へ着く。

隣の教室がざわついている気配がした。おそらく、もう桜田がいるのだろう。

「じゃあ、合図したら入れよー。」

「……。」

先に白河が中に入る。

ちらほらと挨拶が聞こえた。

「……。」

合図したら入れよ。

それに頷いてはいない。

というわけで、白河の前振りも待たずに紅也は教室へ入った。

ガラララッ。

教室中の視線が紅也に向く。白河はちょっと呆れた顔をしていた。

誰も何も話さず、教室がしんと静まり返った。

その中を、紅也はつかつかと歩いていく。

窓際の一番後ろの席で、紅也は足を止めた。

「俺の席、ここな。」

その声が発せられた瞬間、呪縛が解けたように周囲がわっと騒ぎ出した。

「どっ、どどど、どうぞっ!!」

その席に座っていた線の細い生徒は、顔を真っ赤にして机の中の物を大慌てで片づけようとする。

「やばい、超かっこいい!」

「ほら、食堂で見かけた人だよ!!」

「背たっかーい!」

「やだぁ、僕近くに座りたぁい!」

「お名前はなんていうのかな!?」

「でも、G組なんかと一緒にいたんだろ?」

「いや、俺は萌様といたところを…」




「紅也!」

「……A組だったか」

すでにお馴染みの声に振り返る。

「よォ。お前らもこっち来いよ」

「いや、それは…」

萌川が申し訳なさそうに白河を見る。白河は溜め息をついて手を振った。

「ああ、わかったわかった。相模も入ってきたことだし席替えするか。その前に相模!一応自己紹介くらいしてくれ。」

全員の視線が紅也に集中する。萌川も幸村も、机を綺麗にしていた生徒も、じっと紅也の言葉を待っている。

「……相模紅也、」

不敵にニッと笑った。

「面白ェこと、期待してる」



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あきゅろす。
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