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GANG×HERO!
一方
紅也の去った食堂では、ざわめきが勢いを増していた。

その主なものは転入生───もとい桜田春への罵声がほとんどである。ただし、生徒会長の親衛隊の多くは、先程の百瀬と紅也のやりとりに意識がいっていた。


「困りましたねぇ」


相変わらず柔らかな笑みを浮かべている葵の声に、皆がハッと静まって聞き耳を立てる。


「確かに私はいつも笑っていますが、私が瀧斗のようにしかめっ面で仕事をしていた日には、きっとみんな生徒会室から逃げてしまいますよ。それは寂しいですから」


ふふ、と葵が笑う。

桜田がムキになったように答えた。


「そんなことない!それはみんな、貴裕のことちゃんと知らないからだろ!!俺は本当の貴裕と仲良くなりたいし、みんなが分からず屋でも、俺は貴裕のこと寂しくさせないから!!」

「はぁ…そうですか……。」


葵がほのかに苦笑する。どうも手応えの無い感触に桜田は更に続けようとするが、その時、桜田の分厚い丸眼鏡の奥の瞳がもう一人の友人候補を捉えた。


「なあ!!お前も生徒会のメンバーなんだろ!?俺、桜田春!春でいいぞ、よろしくな!!」

「……ん?…俺?」

「そう!そこの、眼鏡のお前!名前は!?」

「…あー……。」


端正な顔をした眼鏡の男子生徒は面倒くさそうに声を漏らした。一度桜田を見てその姿にぎょっとするが、すぐに興味を失った様子でふい、と目をそらして答える。

「……篠宮。俺のことは名前で呼ばないでくれ。それに面倒だからオトモダチとかいらない」

「はぁ?なんでだよ!?友達ってのは、困ってるときに助け合える、すっげーいいもんなんだぞ!!…あっ、照れてるんだな?だーいじょぶだって!俺が友達になってやるから!!ううん、親友にだって!!」

「……いらないよ。親衛隊とかうるさいし…。」

「俺は親衛隊なんか気にしない!!」


高らかに発されたその一言に、場が一瞬、静止した。


「親衛隊を…気にしない?」


眠たげだった目を身開いて、篠宮がひどく驚いた表情をする。

他の役員も同様の表情だが、百瀬だけは一連の会話を全く聞いていないようで、食堂の出入り口をジッと見つめていた。


「あったりめーだろ!聡から聞いたぞ、親衛隊ってやつ!お前らに近づいたら制裁があるなんて、そんなの俺は気にしないから!!」

だから、俺とお前は親友な!!


そうビシッと桜田に指差され、篠宮は呆けたようにポカンと桜田を見ていたが。


「…変な奴。でも、嬉しい」


と言うと、その怜悧な印象の顔をフッと緩め、右手を桜田に差し出した。

桜田が篠宮の手を強く握り、きらきらとした笑みを浮かべている──のはその変装のせいで伺えないが。


「なあなあ!篠宮って呼び方じゃ、やっぱよそよそしいって!どうしても名前で呼んじゃダメなのか?だったら、そうだなー……シノ!おまえのこと、シノって呼ぶからな!!」

「……好きにしたらいい」





「うそ…!あの篠宮様が生徒会以外の誰かになびいたなんて…!?」

「いやーっ!そんな不潔な男から離れてください葵様ーっ!!」

「夏野様…!そんな奴に笑いかけないでください…!!」


親衛隊の面々は悲愴な表情で口々に悲鳴や罵声をあげている。


「かいちょーは、自己紹介しないのー?」

夏野が首を傾げて百瀬に問い掛ける。

百瀬は呆れ顔で返した。

「いらねえだろ、いち生徒に」

「えー、でもぉ…。」

「なんでそんな冷たいこと言うんだよ!」

声を荒げたのは、やはり桜田だった。

しかし百瀬は聞く耳を持たない。桜田ではなく、夏野に向かって言った。

「生徒会の影響力は、俺達が一番よく分かってるだろうが。風紀のトップが留守の今、秩序である俺たちが面倒を起こすな」

「……っ。」

強い目線に、夏野が怯んだ。

だがそのまま去って行こうとする百瀬にくい下がった。


「オレが誰と仲良くしても、オレの勝手でしょ!?」


言うやいなや、夏野は桜田の顎を掴み、その場の全員に見せつけるようにキスをした。


「「「!?!?」」」

「キャァアア!!!」

「イヤァアア!!夏野様ぁ!!」


桜田、百瀬、篠宮は驚いて目を瞠り、夏野の親衛隊の面々は悲鳴を上げたりその場に崩れ落ちたりしていた。

もしここに紅也がいたら、その大仰すぎるショックの受け様に腹を抱えて爆笑していたかもしれない。相模紅也はどこまでも学園の外の人間だった。

「なっ!?いきなり何すんだよ聡!!」

「何ってー…、キス?」

「ばっ…ばかぁ!!そういうのは、す、好きな人としかしちゃいけないんだぞ!!」

「んー、俺、春のこと好きだよー?」

「…っ、離れてください、夏野先輩!」

「わわっ!シノ!?」

真っ赤な顔でまくしたてる桜田を、篠宮が夏野から奪い取る。

そのまま桜田を抱き締めて夏野を睨み付けていた。

「やだなぁ篠宮ー、そんな怖いカオしないで〜!」

「…は、破廉恥ですっ。春にもう触らないでください!」

「えー、どうしよっかなー?」

「おい!俺を置いてけぼりにして話進めんなよなッ!!キ、キスされたのは俺なんだし!」

「おやおや…楽しそうですねぇ。是非私も混ぜてください」

「あ、葵先輩まで…!」

「ふふ、楽しいですねぇ」



「………………どこがだ」

一歩離れたところでこめかみを押さえるのは無論、百瀬瀧斗である。

これからの学園生活がめちゃくちゃなものになりそうな予感がひしひしとして、彼は深い溜め息をつくのだった。



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