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GANG×HERO!
部屋
悶絶している二ノ宮からカードキーをひったくって、紅也たちは部屋へと辿り着いた。 

そういや同室者は誰なんだろうか。部屋の前にかかっていた名札を見て、萌川は首を傾げた。


「うーん、僕は知らない人だなぁ。二年生だとは思うけど」

「まぁいいや、たいして興味ねえし。…じゃあ俺は荷物整理すっから、またな」

「うん。暇だったら、いつでも僕と芳誠の部屋に遊びに来ていいからね!紅也の話もっと聞かせてよ。あっそうだ、連絡先」


名残惜しそうな萌川とようやく解放されたという様子の幸村と別れ、紅也はカードをドアの横の機械にスライドして鍵を開ける。

同室者の名前はもう既に忘れたが、……まぁいいや。


部屋はそれなりに広く、ドアを開ければ共同スペース、左右に一つずつ固有スペースがある。右の方のドアが開いていてダンボールがいくつか置いてあるから、紅也のスペースはそちらなのだろう。

共同スペースはソファとテーブル、簡易キッチンの横には冷蔵庫と電子レンジ、奥にトイレや風呂など生活に必要なものはあらかた揃っていた。ここにあるいくつかは同室者の私物かもしれない。

冷蔵庫には、飲み物以外はろくに入っていなかったが。


自分の部屋に入り、既に置かれてあったベッドに横になる。ほどよいスプリングが心地好い。


「あー……。」

荷物、出さねぇとなー……。


それほど多いわけではない。

大きな荷物くらいは出しとくかとも思うが、面倒くさい。

とりあえず一番近いところにあったダンボールを開ければ、使い慣れた灰皿が見えた。

制服のポケットからジッポとお気に入りの煙草を一本取り出し、火をつける。

同室者が真面目でうるさい奴じゃなければいい、なんて勝手なことを考えた。

煙を吐き出して、やっと人心地ついた気がする。煙草がないとどうにも落ち着かない。ストレスで本数が増えそうだ。

腕時計を見れば、四時半過ぎだ。そろそろ授業が終わる頃合だろうか。夕飯にはまだまだ時間がある。

……寝よう。

体力は有り余っている。ガリガリ削られたのは、精神力…もとい、常識だ。

ついこの間まで、お世辞にも治安がいいとは言えないの共学校の不良の溜まり場で息をしていたのに、気付けばホモの巣窟みたいな閉鎖されたお坊ちゃん学園にいる。

油断していたとはいえ、野郎に出会い頭にキスされるなんて冗談じゃない。思い出したらまた腹が立ってきて唇を手の甲でゴシゴシと擦る。だいぶ残っていた煙草もイライラして揉み消してしまった。


「あぁクソ、ソータに会いてえ…。」


ここにはいない、愛しの相棒である弟の名前を呼んで。

紅也は静かに眠りについた。





───兄貴。俺の兄貴。


……蒼汰が呼んでる、気がする。


なぁ、聞いてくれよ蒼汰。

親父の奴、明後日には山奥の男子校に転入しろとか言ってきたんだぜ。

急に言い出すし、相変わらずめちゃくちゃだよなァ。


───ハァ!?俺そんなの聞いてねえぞ!?


やっぱり、お前と一緒じゃねぇんだな。

親父、それが目的なのかもな。最近蒼汰、俺にべったりだから……。


───ふざけんじゃねえ!!俺は兄貴も俺と一緒に……!!


ん?お前はどこ行くんだ?

あぁ、″仕事″の勉強か。

大変だな、時期若頭は。辛かったらいつでも俺に甘えていいからな。

俺はお前の兄ちゃんだからな、蒼汰……。


───兄貴が男子校なんて、俺はぜってぇ認めねェ!!どこにいる、クソ親父!!


はは。まぁ、孕ませる心配はねぇけどな。……ああもう、怒るなよ、心配すんな、大丈夫だから。

俺は染まったりしねぇよ、蒼汰。

だから落ち着けって。まったく……お前キレると手に負えねえんだからよ。

蒼汰、蒼汰……ほら、こっち来い……。





「ん…。」

ドアの開く音に目が覚める。

なんか夢を見てた気がするけど覚えてない。

(同室者…顔と名前くらい知っておくか。)

立ち上がって伸びをする。状況は何も変わっちゃいないが、だいぶスッキリした。

携帯とカードキーを尻ポケットに無造作に突っ込み、紅也は共同スペースへと出た。


「よォ」

靴を脱いでいる同室者に声をかける。

痛んだ金髪、いくつものピアス、ダボダボに着崩した制服、振り返った顔は目つきが悪くしかめっ面で眉毛が無い。愛想も無い。

言ってしまえば「不良」のテンプレートみたいな出で立ちだった。

その姿は紅也にとって非常に馴染み深く、かつ今後の学園生活にいろんな意味での不安を抱え始めていた今、非常に安心感を覚えさせるものであった。


…不良なのに。


クク、と紅也は唇の端を上げて笑ってみせた。

「アンタが俺の同室者か。あーまともそうでホッとしたわ。俺は相模紅也。アンタの私生活に関わる気はねぇけど、一応挨拶しとくぜ」

「………は?」

「ン?なんだよ。まさか聞いてねえとかじゃねえだろうな?」

「……っいや、そうじゃねえ。……俺は中村武。……見ての通りG組だ」

「あ?見ての通りって何だよ」

「は…?ああ、外部生だったか…」


気怠げな喋り方の男だ。中村が部屋に上がり、ソファに座る。細身で身長は紅也より低いが、平均よりは高いほうだろう。

意外と親切なこの同室者は続けた。

「だから……G組っつーのは、各学年の不良とか、問題児とか、どーしよーもねー馬鹿とか、そういう教師とかの手に負えない奴らの寄せ集めだ。クラスがABCって続いてて、ようは7クラス目がG組なんだけど……通称、ゴミ組」

「へぇ……いいなァ、そこ」

「…は?」


思わず漏れた紅也の言葉に、中村が呆けたように目を合わせた。

紅也は相変わらず楽しそうに笑っている。

「じゃあ、派手に喧嘩したくなったらG組行きゃあいいんだな?」

「ッ!」

中村が驚いたように目を瞠った。

「何だよ、そんなに不良っぽく見えねぇか?」

「え、いや…。アンタ、体格いいし……腕に自信あんのかもしんねえけど、…どっちかっていうと生徒会の連中みたいな顔だからな……」

「生徒会、ねえ…?」


紅也は一瞬考えるようにして、それからクツクツと笑い出した。


「俺は生憎、そういうキラキラしたようなモンとは無縁でね」

喧嘩しか能がねえんだよ。


そう言って、紅也はドアに向かう。


あー腹減った、と靴を履きつぶしている紅也の背中に、中村は思わず声をかけた。

「───おい」

ん?と紅也が振り返る。橙色の髪が揺れた。


「G組に……特に幹部には、手を出さないほうがいい。ヒラでさえ一般クラスに敵意を持ってる奴ばっかだし、トップは、尋常じゃねぇくらい……強い」

「……マジか。」

低く呟いて背を向けた紅也の表情を、中村が見ることはできなかった。


その、獰猛な獣のような、楽しそうな表情を。


「マジか。」


繰り返して、紅也はドアを開けて廊下へと出た。





─────side:中村武


自分の部屋へと向かう足取りは重い。

今日からルームメイトができるからだ。

進級に伴ってあてがわれた一人部屋を気に入っていたのに。余ってただけだが。

俺はどうもこの学園が、この学園のやつらが嫌いだ。

実家は割と金持ちだ。まぁ、この学園に通えるくらいには。けどこの学園の中じゃ下っ端もいいほうで、しかも素行の悪い、ガラも悪い俺みたいな不良を、やつらは蔑んだような可哀想な目で見下す。

自分はコイツなんかとは違うっていう、そんな優越感の塊なんだ……ここのやつら、一般クラスのやつらなんか。

転入生、どんな奴だろう。ウザいくらいにビビる奴だったら嫌だな、鬱陶しいから。そんな奴ならシめてやろう。地位や権力を鼻にかけるやつだったら?……俺は手を出せないだろう。下手に暴力をふるえば家に迷惑がかかる。俺にそんな度胸はない。クソ、こんなんだったらいっそ、普通の学校でよかったのに。


転入生は、相模紅也と名乗った。

俺は『外』に出ることがほとんどないから、チームとか族とかは接点がない。自信家のこの男の力量もいまいち分からない。


ただ、不良のくせによく笑う奴だと思った。

爽やかな笑顔とは程遠いものだったが。


ゴミ組の幹部には手を出すなと忠告すれば、分かったのか分かってないのか、曖昧な返事が返ってきた。マジか、ってなんだ。どういう意味だ。


相模が出て行ったドアを、なんとなく見てしまう。

相模紅也の第一印象、変な奴。関わりたくは、ない。


「腹減ったな…。」

大抵は購買で済ますが、今日は食堂に行ってみるか。


と、ちょうどその時。ドアがガチャリと開いて、さっき出て行ったはずの相模がひょっこりと顔を出した。


「…忘れモンか?」

思わず声をかけてしまう。らしくない。関わりたくないのに。

「あぁいや、えーっと……」

相模が頭を掻いて困った顔をする。


「食堂って、どこ。」

「……。」


相模紅也の第二印象、意外と抜けてる。




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あきゅろす。
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