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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第250話 呪いの声





そしてルール通り、交代するごとに1メートル後退して矢を放っていく。
既に10射目。
右目を塞いでいるのにも関わらず、全て中心に命中させている勇人を、古式や綾子、桜や他の部員達は信じられないものを観るような目で見ており、慎二にいたっては舌打ちしていた。
だが、内心はとても焦っており、既に的からは40メートル近く離れている。
実際、的から距離を離れるごとに、命中率はドンドン落ちていって、今は当てるのが精一杯なのだ。

そしてその焦りが、放った矢に影響した。


「あ」


と、誰かが言った。
間桐慎二が、放った矢を的から外したのだ。


慎二「くっ………」


疲れたような声を洩らし、慎二は床に膝をつき、顔を俯かせる。
これで11射目。
距離は本来射つ場所から11メートルも離れているのだ。
外してしまっても無理はない。
だが、これは勝負。
この11射目で勇人が外せば引き分けに終わるが、もしこれで勇人が矢を的に命中させれば、


古式「え?」


と、古式がそんな声を上げる。
何だ?と、慎二は顔を上げた。
見ると、勇人がドンドン後ろへ歩いていき、一番後ろ…つまり壁まで下がっていた。
そして、その場で弓を構える。


慎二「………まさか」


慎二が思わず呟いたその言葉は、この勝負を観ていた皆が思ったことだ。
そして、そのまさか。
勇人は一番後ろの壁際から、矢を放とうとしている。
だが、とても当てられるとは思えない。
大きめに作られているこの道場、一番後ろまで下がった勇人と的の距離は、50メートルを越えている。
当たるはずがない、皆そう思っている。
「ゴクリ」と、固唾を呑む音が鳴る。
そして…………



――――カンッ!



その結果に全員が唖然とし、声を失った。
矢は、的の中心、ど真ん中に刺さっていた。
これだけの距離がある射で真中を射抜くなど、見た事がない。


勇人「ま、こんなもんだろ」


眼帯を外し、コキッと首を鳴らしながらマイペースな気の抜けた声を出す勇人。


桜「凄いです勇人さん! 真ん中に当てるなんて」

綾子「ホントホント!」


盛り上がっている二人の言う事には、この勝負を観ていた皆が同意だった。
この距離で真ん中に当てるなんて、そうそう出来るような事じゃない。


勇人「さて、と。賭けは俺の勝ちだな」

慎二「っ!?」

勇人「約束は守れよ、じゃねぇと……殺すぜ」


約束を破ったら殺す。
その意を込めた殺気は慎二にだけ向けられていた。


慎二「っ………く、くそっ!」


その殺気に耐え切れなくなり、慎二は道場から出ていってしまう。
時間も時間だし、ここでやることはもう何もだろう。
そろそろ戻らないといけない。


勇人「じゃあ、俺そろそろ行くわ」


と部長に言って踵を返す。
一歩足を進め、古式とすれ違った。
相変わらずの無表情。
古式の横に並び、一度足を止める。


勇人「どうだ? 片目を塞いでいてもやれるもんだろ?」

古式「……………!」


その言葉に、古式は何か言いたそうにしていたが、その言葉を発する前に出口へと向かっていく。
まだ少し、弓道を続けることに迷いがあったように見えたが、片目だけでもやるのは決して不可能ではないという可能性を見せた。
少しは迷いが晴れればいいのだが。



◆◆◆



勇人「あー………ダリ」


携帯を取り出して時間を確認する。
今から生徒会室に戻れば、大体五時ちょうどに着く時間だ。
そろそろ今日の職務を終える事にしよう。



◆◆◆


《鳳凰学園‐林‐》


慎二「くそっ!! くそっ!!」


木に拳を叩きつける。
何度も何度も拳を叩きつける。
木に叩きつける拳の痛みが響いてくるが、そんな拳の痛みよりも、プライドが傷つけられた事への怒りが何倍も大きいのだ。
殺意の込められた瞳が、夕日の光でギラギラと妖しく輝いて見える。
殺意を向けた相手は当然神爪勇人。
そして唐突に、制服の内側から一冊の本を取り出した。
それは彼の唯一の力。
才能のなかった彼が、魔術を使うために必要なものだった。


慎二「ライダー!」

ライダー「………………」


木の間を響き渡る呼び声に呼応するように、慎二の前に一人の女性が音もなく現れた。
長身で紫の長い髪、スレンダーでスタイルの良いその身体は、露出の高い服装で包まれている。
顔には目隠しのようなものが着けられ、僅かも表情を表す事を彼女はしなかった。
何を言うでもなく、ただ無言で次に続く言葉を待っている。
慎二は呪いのようにその命令を叫んだ。


慎二「あの男を……神爪勇人を殺せぇっ!! 惨めに! 無残に! 残酷にっ、! 惨たらしく殺してしまえっ!!!」


声はどこまで響いただろうか、誰かに聞かれたかもしれない。
しかし、今はそんなことどうでもよかった。
ライダーと呼ばれた女性は、小さく頷くとまた霧のように消えていく。


慎二「ククク…フフフハハ……クハハハハハハハハハハッ!!!」

誰もいなくなった後、その場には不気味な笑い声が鳴っていた。



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