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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第248話 間桐 慎二




勇人「じゃあ、早速頼んでいいか桜。生徒会の仕事やらで他の部も回らなくてはならんのでな、そう長くもいられん」


言いながら、立てかけてある弓を手に持つ。
軽く一振り、風を切る音が小さく聞こえる。
今度は弦を指で軽く引き、構えた。
随分長いこと弓なんて握ってなかったが、それでも身体は覚えているようで、矢を放つのも然程問題無さそうだった。


勇人「………………?」


不意に、雑音が聞こえてきた。
声は二つ、男女のものだ。
言い争っている、というよりも男のほうが一方的に詰め寄ってる感じだった。
上げていた弓を下げ入り口を見る勇人を、二人は不思議そうな目で見る。
音の出所は遠くもなく近くもない場所。
この弓道場のすぐ外。
ただの痴話喧嘩なら口を挟むつもりはないのだが、僅かに聴こえてくる女の声が知っている者で、そういうわけにもいかない。


勇人「悪ぃ、桜、これ持っててくれ」


弓を桜に押しつけるように渡して、弓道場から外に出る。
綾子と桜に呼ばれたが、背中越しに手を振りながら「すぐに戻る」とだけ伝えた。



◆◆◆



「――――だからっ、お前は僕の言うとおりにしていればいいんだよっ!」


怒声が響く。
男の声だ。
どうやら、状況はあまりよろしくないらしい。
急ぎ足で弓道場の裏手に回る。
そこに、その二人はいた。
逃げられないようにするためか、女子の顔の横から壁に手を伸ばしている男子生徒。
眉間を歪ませ、見開いている目は変質者のそれだ。


「ん? 誰だお前は? せっかく楽しんでいるのにいきなり現れないでくれるかな、空気読めないの?」


乱入者に驚きをみせながらもすぐに平静な顔で、女子から離れ、笑みを浮かべながらそう言う。
人が現れただけで変わる態度を見て、この男子の人柄が容易に想像できる。


勇人「騒ぐんならもう少し静かにしろよ、そのどうしようもない正確を隠したいのならな」

「何だと?」


吊り上っていた口の端がヒクッと動いた。
よほど気に障ったのか、一瞬で怒気が殺気に変わっていく。が、大したことはない。
殺気とは言ったが、怒気に毛の生えたようなもので怯むことなどありはしない。
離れて見えた女子の顔は、やはり知っている者だった。
右目には、白い眼帯をしているという特徴のある女生徒、古式みゆきだった。
見える左目をこちらに向けて見てくる。
さっきまで強引に詰め寄られていたというのに、怯えた様子はない。

……まぁ、常日頃リトルバスターズと関わってたら当然かもしれんが。


勇人「意味が分かってないなら、ガキでも分かるように言ってやるよ。四の五の言ってねぇで失せろ、間桐家のお坊ちゃん」

「っ!?」


桜と再会したことで、目の前の男が誰なのかは容易に分かった。

間桐 慎二。

第四次聖杯戦争に参加した、間桐家の面影がある故に、直ぐにその家の者だと理解出来る。
殺気が消え、間桐慎二の表情が変化した。
驚愕、そして恐怖………つまりは怯え。
勇人の言葉に従うように、古式から離れ、後ずさる。


勇人「大丈夫…そうだな。余計なお世話だったか?」

古式「いえ……ありがとうございます」

勇人「つーか、鬱陶しい奴に絡まれたらのなら適当にブッ飛ばしていいんだぜ? 今のお前は生徒会の一員でもあるんだし、そのくらいの権限はあるぞ」

古式「さすがにそれは………」



慎二「―――ちょっと待てよ神爪っ!!」



勇人「あ? なんだ、まだいたのか?」


肩を乱暴に掴んできた慎二を軽く一瞥する。
このまま無視してもよかったのだが、話が長くなりそうなので、仕方なしに相手してやることにした。


勇人「で? 何か用か?」

慎二「用だと? 僕に用があるのはお前の方だろう? だからここまで来たんだろ?」


………いったい何を勘違いしてるのだろうか。


勇人「別にお前なんかに用はねぇよ」

慎二「な!?」


またもや口の端がヒクリと動いた。
どうやら、この状況で自分に用がないのが余程有り得ないらしい。


勇人「用があったのは古式の方だ。こいつの声が聞こえたから、気になって来ただけだよ」

慎二「……古式だと? 弓道部副部長の僕じゃなく、もう射てない故障したコイツに……?」


なんか酷く阿呆な単語が聞こえた。
この間桐慎二が副部長?
人選を間違えているとしか思えない。
俺の疑心暗鬼の視線にも気付かず、間桐慎二はまるで見下すような視線を古式に向け、古式は何も言わずにわずかに俯いてしまう。
………流石は間桐家、性格の悪さは遺伝的のようだ。
頭は冷静にそう思っていたが、それでもやはり、その発言には軽くイラッときて、


勇人「ふーん…じゃあ、勝負してみるか?」

古式「………え?」

慎二「………は?」


二人はそれぞれ違う反応を見せた。
古式は訳が分からないといった反応、慎二はまるで馬鹿を見るように見下す眼つき。
だがそんなことに構わずに、


勇人「二人で交代で矢を的に射ち、一発打つごとに1メートル後ろに下がる。ハンデで俺は、右目を塞いで撃ってやるよ」

慎二「なんだと?」

勇人「ゲームだよ……どう?」

慎二「ハッ、マジで言ってんのお前? 副部長の僕に、片目で勝てるわけないだろ」

勇人「逃げんの?」


その言葉に、間桐慎二の口端が、またもやヒクリと動いた。
どうでもいいが、これで三どめである。


勇人「それとも、なんか賭けるか?」

慎二「……そうだねぇ。じゃあ、君は女子と一生喋らない、でどうかな?」

勇人「へぇ………」


そこまで腐っていたかと、つくづく呆れてしまう。
だが別に構わない、


勇人「別にいいぜ。じゃあ俺が勝ったら、お前、一生俺の奴隷ね。それが守れなかった時は………分かるよな?」

勝てばいいだけの話だ。


慎二「―――っ!?」


瞬間、慎二は身震いする。
思い出したからだ、神爪勇人という男のことを。
彼は幼少時代に見た事があった。
第四次聖杯戦争。
祖父である臓硯に、珍しくも一人の客が訪れた。
あれから6年程の時間が経過したが、その見た目が全く変わっていないことにも驚いた。
短めな会話。
口を閉じ、もう話す事はないと踵を返した去り際、最後に何かを発した勇人の顔を、間桐 慎二は鮮明に憶えている。


『神爪勇人には…あの魔神には関わるな』


祖父に言われ続けてきた言葉の意味を、その瞬間、間桐慎二は理解する。
だが、


慎二「……いいだろう。その条件を呑もうじゃないか」


プライドの高い間桐慎二は、それを良しとはしなかった。
真面目と言えるほど取り組んでいたわけではないが、それでも弓道部の副部長。
自信と慢心と欲に駆られ、間桐慎二は自ら賽を投げた。



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