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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第244話 剣道部と文芸部のお誘い





◆◆◆


《鳳凰学園‐高等部1年1組教室‐》



樹「―――まぁ、嫉妬するなというほうが無理な相談だね」

麻弓「そうそう」


一時限目後の中休み、今朝の出来事を話す勇人達に、クラスメイトにして悪友でもあるドタバタコンビは呆れた顔をした。


樹「だいたい、今は色々と微妙な
時期だってこと、忘れたのかい?」


稟の前の席で呆れたように肩を竦めているのは、自称『人界最高の女性崇拝者』、他称『歩くセクハラダイナマイツ』――緑葉樹という、彼等の数少ない男友達だ。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、家柄良好と、ここまでくると出来すぎに思えるほど長所だらけの少年である。
だが、たった1つの短所のせいで、他の全てが台無しになっている。
この鳳凰学園には、そういう人達が多いが、緑葉樹はその中でも有名人の1人だ。
その問題の欠点とは……"病的なまでの女好き"というもの。
両親がそうだと洩らしたほどだ。
並大抵の女好きではない。
だが、当の本人は、

樹「女好きとは失礼な! 俺様は全世界の女性を心から愛してるぞ!!」

と、両親の目の前で言い放っている。
つまりは、そういう男なのだ。
この中では一番の親友である稟にしても、この男と友達でいることに疑問を感じることがしばしば……
そして、


麻弓「そうよ、この前の武闘会祭のせいで、一学期の校外学習、中止になっちゃったんだから……」


隣の机に座っている少女は、溜め息を吐いて落ち込んでいた。

麻弓=タイム

十年前の"開門"以前、偶発的に魔界に落ちた人族の女性と魔族の男性との間に生まれた、人魔ハーフという珍しい経歴を持つ女の子である。
遺伝的には人族に近いらしい。
その容姿と行動から『ナイチチパパラッチ』という渾名が付いた。
非公式新聞部という組織に所属し、ゴシップネタを嗅ぎ付けるが早いか、カメラ片手に何処へでもすっ飛んでいくという、困った性格の持ち主でもある。


麻弓「まぁ、6月にある"学力強化合宿"も中止になったのは助かるけどね」

稟「うちの校外学習って、ちょっとした修学旅行らしいからなぁ…そっちは行きたかった」

純一「学力強化合宿は御免だけどな」


先に起きた事件で、残りの一学期にある学校行事の殆んどが中止になった。
後残すは期末テストのみ。
そのせいで、生徒達は少し荒れている。


麻弓「それに、今朝の朝礼でも一騒動あったし」

理樹「あー…うん……」


勇人達が親衛隊を気絶させて学校に登校し、朝の朝礼に出たのだが、


ハヤテ「まさか、芳乃先生が学園長に就任するなんて、驚きましたね」

杉並「なんでも、学園長が怪我で退任して、急遽学園長に就任したそうだ」

音夢「事故にでもあったんでしょうか……?」

樹「何か知ってるかい?」


学園では性格が裏モードになっている音夢の言葉に、樹が学園上位の情報収集力を持つ麻弓と杉並に尋ねるが、二人は首を横に振った。
学園きっての情報収集家であるこの二人ですら何の情報も持っていないは非常に珍しく、樹達は不思議な顔をするが、事情を知っている純一達は神妙な顔をしてしまう。
この面子の大半は、武闘会祭で起きた事件を知ってるが、それでもまさか、そのテロで瀕死の重傷を負ったなど、普通は誰も思わないだろう。
勇人に直接事件の内容を教えてもらった純一や理樹達は知っているが。
樹や麻弓達のように、ただ巻き込まれた者は、神王と魔王にテロリストが攻めてきたという説明だけで、詳しいことは何も聞いていない。


樹「急といえば、君達のあれも随分急だったね。前から決まってたのかい?」

理樹「うん、まぁ……」


朝礼で急遽決まったこと。
それは学園長の件だけではなく、もう1件あった。

それは……『生徒会特別執行部』


その活動内容は"通常の生徒会執行部や風紀委員が処理できないような問題などを、あらゆる手段を使って処理する"というものだ。
まぁ、基本は生徒会本部の仕事をこなすだけの雑用なのだが。
ちなみに現処分対象は、親衛隊だ。
その朝礼後、親衛隊の数百ほどの殺気だった視線と、リトルバスターズという問題集団が生徒会の一員として活動することに納得出来ない音夢や古手川といった風紀委員と、そんな事情を全く知らなかったフェイト達からの質問責めが勇人に襲ってきたのは、おそらく言うまでもないだろう。



◆◆◆



撫子「―――では、今日はこれまで。全員気をつけて帰れよっ!」


紅女史の声と共に、本日の終わりを告げたホームルーム。
それは放課後の合図でもあり、生徒達は皆、各々の思い立つままに行動し始める。
部活動に青春の汗を流そうと張り切る者、委員会に勤しむ者、暇を持て余し教室で駄弁る者もいた。


勇人「さてと、生徒会室に行かんとな」

恭介「今日から俺たちも生徒会か……フッ、楽しくなりそうだな」

勇人「……もう何でうちのクラスにいるとか、つっこまなくていいよな?」


『特別』と付いていても、やることは基本雑用。
その仕事がどういうものかをまだ知らないのに、このやる気は何なのだろうか。


謙吾「生徒会に行くのか?」

勇人「そりゃあな、発足初日からサボらせる気はねーぞ?」


聞きなれた声に勇人が振り返ると、そこには謙吾が立っていた。
しかし、何故か申し訳なさそうな表情をして見ている。
普段の謙吾が、こんな表情をするなど珍しい。
剣道部に所属している謙吾は、放課後は部活が終わってから生徒会の仕事に参加するので、それを申し訳無く思ってるのだろうか?
だが、勇人がそんなことを気にするような性格ではないことを、謙吾は知っている筈だ。


勇人「どうした?」

謙吾「……悪いんだが、後で道場のほうに来てくれないか?」

勇人「別に構わねーが……何かあったか?」

謙吾「うちの剣道部の顧問が、是非お前に入って欲しいと言っていてな」

勇人「俺にか? あんまそういうの、興味ねーんだが。それに俺、生徒会の仕事とか軽音部とかあるしなぁ………」

謙吾「その辺は俺も説明した」

勇人「で、何だって?」

謙吾「それでもいいから入って欲しい、だと」

勇人「………激メンドクセェんだが」


軽く溜息をこぼす。
そういう理由なら確かに、謙吾でもそういう表情を出してしまうだろう。
だが、友人の頼みとはいえ、剣道部に入るかと言えばそれは違う話だ。
生徒会や部活の合間に、出来るといえば出来る。
しかし勇人の問題は"時間"ではなく"相手"だったりする。
入ったとしても、それ相応に満足できる相手がいなければ、やっても退屈なだけだ。
だが、友人の誘いを簡単に断る、ということは苦手だ。
只でさえ今は、謙吾を含む友人達に生徒会特別執行部に入ってもらってるのだ。
ならば、謙吾が本気で困っているなら、その頼みを効いてやるべきだろう。
もう一度溜息をついて、謙吾に言った。


勇人「……分かった、生徒会の仕事終わってからそっちに行くって伝えといてくれ」

謙吾「すまんな」

勇人「いいって」


そう言い、鞄を手に取り立ち上がり、勇人達は生徒会本部室へと芦を運んだ。



◆◆◆



廊下で生徒とすれ違うたびに、その数に比例して、背後の視線が増えていく。
朝礼の影響だろうとは思うが、快く思っていない者もいるようだ。
視線の中に棘を感じるものもある。
だが、我らが生徒会長どのは、特に気にした様子もなく、悠々と歩を進めていく。


理樹「よくこんな視線の中で平然としてられるよね……」

勇人「気にしてるから気になるんだ、だから気にするな」

鈴「無茶苦茶言うな、コイツ」

真人「…………視線?」

恭介「……真人は気づいてすらないか」

勇人「脳ミソまで筋肉で出来てるからな、真人は」

真人「おいおい、誉め殺しかよ!」

理樹「誉めてないんだけど………」

鈴「バカだ」


それが理解出来ないから、脳ミソまで筋肉で出来てるんだろう。


勇人「ま、さっさと仕事終わらせて、道場に向かおうかね」



「――――あ、あのっ!」


気を取り直した時、背後から声をかけられた。
何事かと振り返る。
そこにいたのは、高校生にしては少し幼い顔立ちの少女。
茶色の混じった長い髪は、少しだけウェーブがかかっていた。
どうやら勇人に用があるらしく、勇人は目線で恭介達に、先に生徒会室へ行けと促す。
恭介達は頷き、先に進んでいった。
恭介達が行ったのを確認して、勇人は改めて声をかけてきた少女を視る。
言うまでもないが、初対面である。


勇人「で、何だ?」

「え、えっと……その…………」

勇人「ん?」

「………こ、この後空いてますか?」

勇人「んー…どうかねぇ。生徒会の仕事を片付けて、その後に剣道部に用があるから、その後だったら空いてるが………」


おそらく夕方までかかるだろう。


「……その…よろしければ、後で文芸部の部室に来てもらえませんか?」

少女のその頼みに、さすがの勇人も頭上に?が三つほど浮かんだ。
「またか」という思いもあったが、顔には出さないでおく。


勇人(つーか、文芸部って俺には全く接点が無い気がするんだが………)


この学園に来てから文芸部の知り合いが出来たわけでもないし、授業にも真面目に取り組んだことはない。
それなのに文芸部から勧誘が来たというのは疑問だ。

……だがまぁ、基本見知らぬ人物でも、特に問題無ければ女の頼みや誘いは断らないのが勇人である。


勇人「分かった、ちょっと遅れるかもしれんが、それでいいなら」


そう言うと、嬉しそうに笑い「はいっ!」と頷いた。


勇人「で、誰だか知らんが会ったことあるのか? 記憶にないんだが……」

「い、いえっ、私が見掛けたことはありますけど…話したことはありません……」

勇人「そうか」


幼い顔立ちだが、着ている制服は高等部の物で、制服に付けているリボンを視るかぎり、どうやら二年生のようだ。
………1つ上の学年というだけでも本日一番の驚きだ。


勇人「あんたの名前、聞かせてもらえるか?」

「あ、はいっ! 朝比奈 みくるです」

勇人「朝比奈ね」

みくる「………あ、あの、下の名前で呼んでくれませんか?」

勇人「 別に構わんが……みくるでいいのか?」


名前を呼ぶと、少し恥ずかしそうに、だがどこか嬉しそうな顔をして笑うみくるを見て、首を傾げてしまう。
初対面のはずなのに、この親しげな感じは何なのだろうか?
まぁ、あまり深くは考えず、彼女との約束を勇人は頭に入れた。


勇人(しかし、今日も疲れそうなスケジュールだな)


予定を思い出すだけで気疲れが襲ってくる。
そう、仕事は学園だけではないのだ。これが終われば、次はリトルバスターズ達に修業をつけなければならない。
命がかかっている、という分そっちのほうがハードだろう。
……まぁ、命をかけるのは勇人ではなく彼等なので、そういう意味では問題はないだろうが。


勇人「じゃあ、また後で。さっきも言ったが、遅くなるぞ」

みくる「分かりました、他の皆さんにもそう伝えておきます」

勇人「ああ」


みくるの言った「他の皆さん」という言葉に軽く首を傾げながらも、背を向けて軽く手を振りながら歩き出す。
この"文芸部"が大変な場所だということを、この時の勇人は知らなかった。




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