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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第240話 宇宙人襲来





ララ「ほらこれ」


少女は、あっけらかんとした態度を崩さずに自分の腰を指差す。
いや、正確には巻いたタオルの端から見える脚。そのさらに後部から伸びて揺れる黒い尻尾のような何か―――


勇人「いや、ちょっと待てぃ」


比喩的な証明ではなくあまりにも直線的な違い。
制するために突き出した手で、恥ずかしげもなくバスタオルを捲り宇宙人だという明確な証拠を見せ付けてくるララの姿を隠し、そういえば目の前にはそれ以前に解決しなければいけない問題があった事を思い出す。


勇人「何か借りてきてやるから先に服を着ろ。いつまでもバスタオル一枚ってのは…あれだ、大抵面倒ごとしかやって来ない」

ララ「私は別にかまわないけど?」

勇人「お前じゃなくて俺が主に困るんだよ。いや、おそらく高確率で困ることが起きるんだよ、こういうときはな」


パターンだからな、こういうのは。
さて、誰に借りるかと、この家に住む女性陣の顔を思い浮かべつつ扉に向かう。


キャスター「待ってマスター」

勇人「何だ?」


ドアノブを握ったのとほぼ同時に呼び止められ、そのまま振り返るとどこか訝しるように見てキャスターは言った。


キャスター「服を借りるといったけど、相手にはどう説明するつもりかしら。まさか彼女の話を、そのままするわけじゃないわよね?」

勇人「そのつもりだが……?」

キャスター「……………」


何かキャスターが絶句してる。
いや、決してキャスターの言わんとしてることが分からない訳ではない。
普通はそうだ。アリシアにしろ香澄にしろ「宇宙人が裸でいるので服を貸してください」とありのままを説明したところで、虚言と流されてしまうだろう。
最悪、変人として見られるかもしれない。

だが、生憎とこの家に、普通のは住んでいない。
一般人といえるのは、希と頼子(一般人?)くらいのものだが、この二人は大丈夫だろう。勇人が事実を言えば、そのままその事実を鵜呑みにしそうだ。二人とも天然だし。
…………それはそれで、違う意味で心配になるが。
後は、悪魔だったり幽霊だったり異世界人だったり生体兵器だったりするので、この面子を相手に「宇宙人が来た」とか言っても、返ってくる返事は「また勇人が厄介ごとを引き寄せたか」とか言いそうである。
キャスターも、まだこの家に住み始めて日は浅いが、それでもこの家の住人に宇宙人が来たとか言ってら、いったいどうなるか、容易に想像がつき、疲れたように溜め息を吐き出した。
その様を見て、勇人は「ふむ」と考えた。
もしこのまま、このララという少女のことを、バスタオル一枚のまま住人達に話したらどうなるか。

………まぁ、間違いなくルルーシュとC.C.とセバスチャンが疫病神でも見るような目で勇人を見た後深々と溜め息を吐き出し、香澄とイヴとアリシアとリインフォースがジト目で穢らわしい者を見るような目で見てきて、頼子と希とレンはキョトンとした顔をするだろう。

何度でも言おう、容易に想像がつく。


勇人「……しょうがねえなぁ。ほら、これ着てろ」


仕方なくといったふうに、羽織っていたジャージの上着を投げ渡した。
その行動が彼女の予想を反したものだったのか、膝の上に投げられた少女然とした小さな体には、大きめの部屋着をわずかに眺めて疑問を口にする。


ララ「……あれ? 聞かないの?」

勇人「何をだ?」

ララ「どうして宇宙船からワープしたのか、だよ。私、迷惑掛けたみたいだし、普通は聞くと思うんだけど…」


素朴な疑問だっただろうララの問いは、以外にも的を得ていた。
誰だって突如として目の前に現れた相手に、何故ここに現れたのかを聞かずにはいられない。
それは宇宙人に限らず一般人にも言えることであり、今回は偶々その相手が宇宙人だったというだけで心理学的観点が変わるわけでもない。
だから勇人は率直に言った。


勇人「聞いたところで、意味があるとは思えないんだよ、経験上な。厄介ごとが転がり込んできた以上、嫌がおうにでも後で事情をしることになるんだし。だから理由は聞かねーし、聞いたところで結局、何か起きたら俺のやることは一つだ」


そう言って、勇人は視界の端に写る、換気のために開けておいた部屋の窓に眼を向ける。
その瞬間、窓から新たな闖入者が飛び込んできた。


「ご無事でしたか、ララさ―――!!」


条件反射で、飛来する白い物体を掴み上げてしまった。一瞬敵ではないと気付くのが遅れていれば、そのまま壁に叩きつけていただろう。
敵ではない、というのはあくまで勇人の私見からだが、少女を捜していたらしい台詞は、少なくとも敵ではないと判断するのに、現段階では十分だった。


勇人「悪いな、いきなり入ってくるから敵かと思ったぜ」

ララ「アハハ、大丈夫! ペケは追手じゃないよ、ただの万能コスチュームロボットだから!」

勇人「ロボット? これが? どう見てもぬいぐるみだが」

キャスター「ぬいぐるみが喋った時点で、玩具の規格から外れてると思うのだけど? それ以前に空を飛んできたようだし」

勇人「ほら、最近のぬいぐるみは喋るのがデフォルトだから、それが普通なのかとな……まあ何はともあれ、着替えが届いてよかったな。さっさと着替えてしまえ」

ララ「うん。ペケ、よろしく!」

ペケ「了解!」


一声と共に、強烈な閃光と脱ぎ捨てたバスタオルが視界を覆う。
あまりの眩しさに腕で遮ってしまうほどの光は瞬間の明滅だったらしくすぐに消え、衣装を着用した桃色の髪の少女がいた。
その衣服は、一目見ただけでも"衣装"と形容してしまえるほどに見た目がかなり独特だ。
というか、どう見てもコスプレである。
ひょっとすると外宇宙での流行りなのかもしれない。


勇人「………ああ、そうか」


一瞬、何かに似ていると思ったら、魔導師がバリアジャケットを展開する様に酷似しているのだと気がついた。
着なれた服に身を包んだララは、ペケと軽い会話をする。服はキツくないかとかその程度の談笑で特に気にも留めず、ペケの入ってきた窓の外を視た。
風で揺れる紺色のカーテンの隙間から視える闇の中に、キャスターのものらしき魔力の流れが見て取れる。
さらに奥にも何重かの膜になっている魔力が視えた。探知結界だろうか。種類までは判らないが、聖杯戦争が開始している状況で何の警戒もしないわけがない事からでも推測でき、外側に意識を向けていた事が幸いして、新たな来客が先ほどと同じように部屋へ飛び込んできた事に容易に気付けた。


キャスター「……今度は、追手みたいね」


超人の速度で部屋に踏み込んできた男たちを見て、キャスターが呟く。
確かに今度の相手は、ペケと違い追いかけてきたではなく、追ってきたという言葉がピッタリと当てはまる、厳しさのある表情が顔に張り付いていた。
黒いスーツを着込み、黒のサングラスの男はどちらも堅気の人間とは思えない風格を放っている。


「全く、困ったお方だ。地球を出るまで手足を縛ってでも、あなたの自由を封じておくべきだった……」

ララ「……ペケ。私、尾行されないようにって言ったよね?」

ペケ「ハ、ハイ…」

ララ「ハイじゃないよ! せっかく逃げだせたのに水の泡じゃない!」


相方の不手際に不満の悲鳴を上げるが、黒服には関係ないようで、ジリジリと距離を詰めていく。


「…さて。今度こそ覚悟を決めてもらいましょうか」


今度こそと、少女を捕えるために手を伸ばし、


勇人「―――お前らがな」


喉に突きつけられた勇人の指先に、二人の動きが止まる。否、止まらざるを得なかった。勇人の指は、並みの刀剣以上に斬れる。もしそのまま一歩を踏み出していれば、先端は確実に喉を貫いていただろう。
あまりにも不意を突かれた脅迫に、知らぬうちに冷や汗が流れる男たちに、勇人は殺気を含んだ低い声で告げた。


勇人「断りもなく俺様の家に侵入しただけじゃなく、土足で上がり込み、果ては女を無断で連れ去るか? これ以上調子こいた事すんなら潰すぞ。ただし、ここじゃない場所でだ」

「っ……」


数ミリほど爪に裂かれた皮膚から、赤い液体が流れ出す。どうやらこの宇宙人達の血は赤いようだ。
自分たちの命を握られている選択。だが黒服は一歩後ろに下がり、手の範囲外まで距離を開けた。
あと一歩で追っている対象を捕獲できるとはいえ、一歩踏み出せば死ぬ状態。彼らが任務を遂行するための行動としても、突きつけられた状態から逃れるためにもそれは正しい判断だ。


勇人「帰還の意思なし、と見ていいのか?」

「舐めるなよ、地球人風情が。脆弱な貴様らに我らが負けるとでも言う口ぶりだな」

勇人「お前らこそ随分舐めた口叩くじゃねーか。お前ら程度に俺が負けるとでも言う口ぶりだな……地球を舐めるなよ、雑魚ども」


声に乗せて殺気を飛ばす。
息を呑む男たちの感情の揺れなど関係なしに、


勇人「飛べ」


札をポケットから取り出し、その札の力を発動させる。
それは、強制的に空間と空間を繋ぐ魔法札、転移魔法符。その魔法陣が部屋全体に展開される。
直面した異常事態に驚愕する部外者三人(+一機?)を入れた四人を固定し、人目のないだろう適当な場所へと空間を接続した。


キャスター「ちょ、ちょっと、マスター!?」

勇人「五分だけ待っててくれ、キャスター。すぐ終わらせる」


完全展開された転移魔法は効果を発揮し、魔力残滓を残して四人は部屋から消えていた。



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あきゅろす。
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