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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第239話 ララ・サタリン・デビルーク





「ん?」

勇人「…………はぁ………………」


途端に頭痛に襲われる。
いきなり全裸の女子が、自分の目の前に現れたのだ。
正直勇人は混乱している。

何故なら、この少女の出現に全く気づけなかったからだ。

生徒会室で理樹達に気づけなかったのは、単純に封印の影響という理由と、理樹達が大した力……強大な気配を持たない一般人だからである。
今目の前に現れたこの少女も、気配からして一般人なのだろうが、ただの一般人が突然この家の浴場に現れるなんてことはない。
………まぁ、学園にはそれくらいしそうなやつは何人かいるだろうが。
普通に考えれば、魔法ないし超能力の類いを使ったと思うのだが、そんな気配は感じられなかった。
それとも、勇人が気配を感じ取れない程の力の持ち主なのか?とも考えたのだが。

全裸で浴場に呑気な声を出して転移してくるようなこの少女が、そんな実力者には見えない。
いくら人は見かけによらないという言葉があるとしてもだ。

とりあえず勇人は少女を無視して浴室から身体を出しそのまま脱衣所に向かい、濡れた全身をバスタオルで拭き上げて寝間着を着、髪を乾かさずに自室に足を運ぶ。



◆◆◆


《神爪家‐勇人の部屋‐》



自分の部屋に入った勇人を、キャスターの声が迎えた。
今後、聖杯戦争をどうするのかを話し合うために予め部屋に呼んでいたのだ。
ついでに言うと、いつものローブを被った魔術師の姿ではなく、今は寝間着を着ている。


キャスター「あら、早かったわね。もう上がったの?」

勇人「………ああ」

キャスター「…………? 何よ、疲れた顔して」

勇人「いや、もう、なんつーか、唐突すぎる光景に声も上げられなかったというか、男としては喜んだほうが健全なんだろうが、こうも連続で問題が起こるとただメンドクセェっつうか。ともかく、俺にもよくわからない事態が起こっているようで」

キャスター「率直に言うと?」

勇人「どこからともなく風呂場に全裸の女が入り込んできた」

キャスター「…………」


嘘偽りのないありのままの事実を極端に纏めた言葉に、キャスターは何故かため息を吐いて、



キャスター「……どこからツッコめばいいのかしら? 貴方の頭? それとも常識?」

勇人「ネタだったら俺も悩まずに済むんだがな、残念ながらマジだ……」


平常時の自分の運の悪さというか、色んな面倒ごとに巻き込まれる運命的なものは理解している。
犬も歩けば棒に当たる、ではなく、歩くたびに棒が飛んでくると言い換えてもあながち間違ってはいない。
だからアレもそれが引き寄せたものなのだろう。


勇人「あー、めんどくせぇ…せめて稟達の修業がある程度終えてから問題起きろって話だよ。ようやくロアの件が片付いて、学園崩し事件の事後処理も落ち着いてきたってぇのに。何だこのハードスケジュール。いったい誰が募集した? 募集した覚えないぞ?」

キャスター「あちらからスカウトされたんでしょ? あなた、なんだかんだ言って、最終的に何でも引き受けそうな性格してそうだもの。だったら貴方の意思なんて関係なく、相手の方から引き寄せられているんじゃない?」

勇人「今更だが、激傍迷惑なんだが、俺のこの不満はどこにぶつければいいんだ?」

キャスター「さあ? そんなことよりも、今すべきことを考えた方がいいわよ。聖杯戦争はもう始まってるんだから」


キャスターの言う事も尤もだ。
今優先するべきは目先に起きた珍事ではなく、これから起きるかもしれない抗争に備える事。

聖杯戦争。
当面の問題は、おそらくこれだろう。
完全な状態の勇人なら、何の問題もない。最悪勇人一人で聖杯戦争を終わらせるのも、決して不可能ではない。
だが、今の勇人は力の大半を封じられている。
それでも並みの魔術師よりは強いだろうが、英霊‐サーヴァント‐と真っ向から戦えば、勝つのは難しいだろう。
勇人が契約……まぁ、令呪を奪ったものだが、契約した英霊‐サーヴァント‐は、真正面から戦うのが苦手なキャスターだ。
まだマスターである勇人が前線に立つ方が、勝率は高いだろう。
勇人自身、聖杯戦争に然程興味もないのだが、キャスターはそうではないだろうし、マスターになった以上、早々に聖杯を手に入れるのが、冬木市や初音島の被害を最小限に抑える手段だろう。
聖杯を狙っている組織もいるかもしれない。
手はいくら打っても足りないだろう。
聖杯戦争をどう乗り切るか、それを考えていると、ノックもなしに唐突に扉が開いた。
日常的な習慣反射で自然と扉の方に目が向け、二人は絶句する。
視線の先、扉の枠に収まる少女は、バスタオルを身体に巻いただけで「やっほー」と笑顔で手を振っていた。



キャスター「――――何、あれ?」

勇人「さぁな……」


その疑問は当然なのだろうが、振られても答えようがない。
遠慮もなく我が物顔で室内に足を踏み入れた謎の少女は、物珍しそうに部屋の中を見まわした後、クローゼットを物色し始めていた。
当然ながら、中には勇人の服しか入ってない。


勇人「おいお前」


バスタオル一枚で好き勝手に人の部屋を物色する少女に、勇人は眉間に皺を寄せながら声をかけた。


「あ、バスタオル借りてるねー」

勇人「いやそうじゃなくて、お前誰よ?」

「わたし? ララ! ララ・サタリン・デビルーク!」

勇人「ララとやら、さっき俺の入ってた風呂に入ってきたよな?」

ララ「うん! いきなり目の前に人がいたから驚いちゃった!」

勇人「驚いたのは俺の方なんだが、お前はどうやって……いや、どこから来たんだ?」


勇人は質問すべき方向を変えた。
その問いに、ララはやはり変わらぬ笑みを顔に見せて答える。


ララ「デビルーク星!」


言葉を失ったのは言うまでもないだろう。
天井を指差しながら言うララの言葉は、ブッチギリで意味不明なものだった。
当たり前のことだが、彼女の指す天井がデビルーク製などという事を指しているわけではない。
闇に染まった夜空の奥。光り輝いている星々の内の一つを指しているのだと、二人は共に間違えることなく悟っている。
最も、それと納得できるかどうかは別の問題で。


キャスター「………」


それは特にキャスターの表情に色濃く表れていた。
意味を理解していても、意味を呑み込めず呆然とする彼女の反応は、政府が宇宙開拓に着手しているとはいえ、一般人が気軽に宇宙旅行するほと宇宙開拓が進んでいない地球人類としては平常であり、科学を否定する魔術師としても至極当然。
それは英霊であるサーヴァントでも変わらない。
聖杯からの恩恵で、現代の知識を有しているため尚更だ。
今のところ、宇宙船で宇宙へいけるのは、地球連邦軍に属している軍人のような、特別な役職に就いている者くらいだ。
その立ち位置にいる勇人は、これまで以上に大きな溜息を吐いた。


勇人「つまり宇宙から来た、と。つーか、何で風呂場なんて極端かつピンポイントな場所に全裸で現れたんだ?」

キャスター「"どうやって"が抜けてるわよ、マスター」

ララ「コレ! 私が作った『ぴょんぴょんワープくん』!! これを使って短距離ワープしたんだよ! バスルームだったから服も着てなかったの」

キャスター「わーぷ?」


少女の左手に携えられた子供の玩具じみた形状の腕輪を指して、聞き慣れない単語にキャスターは首を軽く傾げる。


勇人「ま、空間転移って考えりゃいい。別の座標と対象の座標を繋いで移動するっつう技法だ。魔法的には既に確立されてるが、科学的な転送を見たのは久々だな」


地球は一度、文明が進んだ後衰退している。
長きに渡る"月"との戦争が原因である。
その時代から生きてる勇人からしてみれば、純粋な科学でテレポートするのを見かけるのは、本当に久々だった。
現代では精々、学園都市の超能力者にいる"空間移動能力者‐テレポーター‐"が、単体の力で行うのが関の山だろう。
少なくとも、機械でワープ出来るほど、まだ科学技術は回復していない。
言って、勇人は別の疑問が解けた事に内心頷いた。
この家に設置している結界に限らず、魔術では科学技術を基本的に視野に入れていない。
度外視していると言っていいだろう。
純粋な魔術師ほど現代技術を低俗と見下しており、銃弾や剣といった兵器よりも魔術に対抗する術を磨き上げた。故に彼らの弱点はすべからく近代兵器に他ならない。
魔力の流れを感知して魔術に備える彼らには、戦場を歩んだ兵士が持つ既視感に近い感覚はなく、銃弾を察知する超感覚もない。
それは熟練の経験則を持ち合わせた者が可能とする一種の到達点。自分たちを脅かすものは自分たちと同種の人間だと致命的に思いこんでいるからこそ、魔術師には兵器の発射を感知し防ぐ事が出来なかった。
最も魔術自体に物理的干渉が不可能という特性があるわけではないので、防ごうと思えば防げるのだが、それはかなりの実力者と限定されてしまう。
真っ当な魔術師なら経験することのなく、試して初めて納得する未知の経験だが、しかし勇人はそれを駆使した戦略を主とする魔術師を一人知っている。
標的を殺すためなら手段は選ばず。一人の"大量殺人犯‐テロリスト‐"がいるなら、数百人の犠牲も厭わず。
天秤の上で生きる量り手として、全生命を客観的に量りにかけ、千を生かすために一の紛れた百を殺す男を。
だからこそ勇人はララと名乗った少女が結界を通過した事に納得出来た。
この家に設置している結界は、攻撃してくる物には魔法だろうが科学だろうが滅法強いが、何の敵意も悪意もなく、ただ転移してくるだけの能力は、割りと素で通してしまうのだ。
だが、理屈に頷くのとララが宇宙人だという言葉を信じるのは別物で、勇人は当然の問いかけをララに投げかける。


勇人「証拠は?」

ララ「ん?」

勇人「お前がそのデビルーク星から来たっていう証拠。それを証明できるのか? と聞いている」


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