MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第166話 人界最強級の魔導師
◆◆◆
《鳳凰学園高等部校舎-屋上-》
生徒達や一般の観客達が賑わうグラウンドの声が少し遠退くこの屋上で、3人の男が対面していた。
いずれも学園という場には相応しくない面々である。
神界を統べる神族最強の軍神………ユーストマ。
数ある魔界の1つを束ねる魔族最強の大魔術師………フォーベシイ。
そして、人界の“裏”を統べる総合魔法連盟のトップに君臨する、神爪勇人の曾祖父である魔法世界の生ける伝説………神爪総賢。
総賢「……貴様達か、神界と魔界の王というのは」
神王「あ、ああ……」
魔王「……ええ、そうです」
全く予想だにしなかった姿を見て、ふたりは戸惑ってしまう。
何故なら、勇人の“曾祖父”と言うには姿も声も若すぎたからだ。
神王、魔王も年頃の娘を持つにしては容姿が若いのだが、彼は異常だ。
曾孫である勇人と何ら変わらない若さを持つというのは不自然である。
魔王「えっと……貴方の容姿は、魔法で若く見せているのでしょうか?。魔界でも容姿を若く見せる魔法は存在しますが………」
総賢「魔法? 見たままだ。貴様らに分かりやすく言うのであれば、不老長寿だ。既に千年以上は生きてるが」
憮然と、つまらなげに総賢は吐き捨てる。
しかしさも当然のように口にした男の言葉に、王達は驚愕した。
神王「不老長寿、だとっ!?」
魔王「人界の魔法使いは、既に命を操れる域まで達していると言うのかっ!?」
総賢「命の操作など、我々にとっては然程難しいことではない。人間をやめれば良いだけだ」
男は失笑を浮かべる。
神界や魔界が長く研究している“命”。
かつては非常に長命だった神族と魔族が、今や人族と大して変わらない程度の寿命に落ち着いてしまった事から、二世界では秘密裏にそういった禁忌の研究が続けられてきた。
そしてその成果は、未だに上げられていない。
なのに、人族は既に“不老長寿”の域にたどり着いていると言う。
いくら神界最強の軍神、魔界空前絶後の大魔術師と言えど、絶句するしかない事実だった。
絶句する2人を見た総賢は、ゆっくりと口を開く。
総賢「私が総合魔法連盟……魔連が総帥、神爪総賢だ。以後、見知り置きを」
神王「俺達は………」
総賢「良い。既に知っている者に、改めて名乗られるのは面倒だからな」
容姿は若くとも、放つ威圧感は其処らの王を遥かに凌ぐ勢いだった。
流石、人界の裏を統べる組織を支配する地位に就いているだけの事はある。
しかし、彼らとてそれぞれの世界を統べる王。そう簡単には揺らがない。
総賢「そちらから接触を望んだという事だが……つまり、何か話があるのであろう? 私に」
神王「ああ……」
魔王「『開門』から約10年。我々は三世界の共存を成すべく、今も活動を続けています」
総賢「……三界平和式典の際に世間に発表した、三界宥和政策か? それは存じている」
神王「今の世の中、もう戦争なんざ必要ねえ。俺達はそう考え、現在の体制を築き上げた。だが、この『共存』に未だ反対する旧体制派が多いのが現状だ。神界・魔界の“反神魔連合”や、人界の“WLA”を中心にしたテロリストどもを筆頭にな」
魔王「そこで、式典の時の貴方の声明だ。あの声明によって、旧体制派に勢いを与えてしまっている。やはり人界と手を取り合うのは危険だ、と。これは我々には大きな痛手でしてね」
総賢「……責任を取れ、と、そう言いたいのか、貴様らは」
魔王「そこまでは。ただ、我々の三界宥和に協力していただきたい」
神王「事実上、人界を統治している魔連が三界宥和に協力してくれりゃあ、旧体制派も黙り込むかもしれねぇからな」
総賢「………」
金網のフェンスに背を預け、両腕を組みながら総賢は黙考するように目を閉ざす。
人界において大きな影響力を持つ人物がいる手前、二人の王も久しい緊張を覚えていた。
――――……そして
総賢「………断る」
『総合魔法連盟』が総帥は、ハッキリとそう告げた。
魔王「な、何故っ!? そちらにとってもデメリットはない筈だ!!」
神王「そうだぜ! これ以上、無駄な対立なんか必要ねえ!! 断る理由なんざ……」
総賢「対立? どうやら貴様達は、我々を勘違いしているようだ」
男の放つ気配が、一層重たいものへと変わった。
総賢「私は人界を統べる者ではない。故に人界の未来を左右する事は、世界政府に言えば良い」
神王「だが、事実上人界を統治しているようなもんじゃねえか! あんたらが世界政府と強く繋がり、大きな影響力を与えてるって事も判ってる! 世界政府が三界宥和に合意してるんだ、あんたらも協力する義務がある! そうだろう!!」
総賢「違うな。我々と世界政府は人界の“表”と“裏”の関係であって、決して上下関係ではない。無論、我々は世界政府の意見は参考にしかせんし、世界政府も同様だ。だから、世界政府が宥和に協力をしようと、我々には協力する義務は無いのだよ。人界を統治しているなど、ただの風評に過ぎん」
魔王「ならばお聞かせ願いたい。あなた方は何故、自分達や魔法使いの存在を公表したので? 今までその存在を秘匿し続けてきた、あなた方魔法使いの常識を覆すような行いだ。当然“裏”の社会が混乱したのではないでしょうか?」
総賢「―――貴様達がそれを訊くのか?」
瞬間、周囲の大気が震えた。
神王(何、だ…こ、こいつは……!? 空間を支配する程の膨大な魔力……!)
魔王(これが人界に存在する“最強”の一角の魔力か……!?)
総賢が放つ圧倒的な威圧に耐えながらも、魔王は訊ねた。
魔王「……どういう意味、でしょうか?」
総賢「『開門』による神界、魔界との交流の始まり。その時、激震したのは人界だけではない。我々魔法使いの世界『魔法界』も揺らいだ。無論、神族と魔族を排他する動きもあった。その騒乱を鎮めるために我々は本来の立場を全うしたのだ」
神王「本来の立場……?」
総賢「“裏”の抑止力。我が魔連は人界と魔法界。二つの世界の平和を護り、バランスを調整し、維持する。そして有事の際は魔法使い達の抑止力として争乱を弾圧するために創設したのだ」
魔王「ならばなおのこと、三界宥和に尽力すべきでは? “裏”の存在が“表”に出てくれば、バランスの調整も軽易になるはず」
総賢「貴様達は、人界を、地球を……そして人間を甘く見すぎている!」
神王&魔王『!?』
それは先程、勇人が2人に口にした言葉だった。
その意味が、ようやく明かされる。
総賢「人界と魔法界、一般人と魔法使い、それらは表と裏だ。互いの干渉はなるべく控えねばならない、余計な誤解や混乱を招くからな。事実、かつて干渉が多かった西暦時代中世ヨーロッパでは魔女狩りという事態にまで至っているのが良い例だ。そして、長きに渡ってせっかく安定してきた世界のバランスも、『開門』による魔法を扱う者達の出現によって再び狂い始めた。貴様達の知る表側も、我ら裏の者達もだ……先程言ったな、その騒乱を我々が鎮めたと。そのために何名の犠牲者が出たと思っている」
神王「……俺達に責任があるとでも?」
総賢「いいや、我々の事情だ、そちらに責はない。だが、これ以上は裏の者達に余計な刺激を与えるわけにはいかんのだ。影響力のある我々が三界宥和に手を貸せば、次こそ魔法界が黙っていない。この言葉の意味が解るな?」
神王&魔王『…………』
甘く見すぎだ。
その言葉の意味を、ふたりはようやく知った。
大きな影響力を持つ勢力だからこそ、迂闊なアクションは起こせない。
もし動けば、大きな争乱を引き起こしてしまう。
魔法を利用する事によって“個人”を重視する神族・魔族とは違い、人族の裏の魔法使いは個人ではなく“魔法”を重視して探究を永年続けてきた。
故に、そんな裏の魔法使い達が蜂起すれば──未曽有の争乱が起こる事は明白だった
総賢「我々が存在を式典の際に公表したのも、抑止力としての動きだ。魔法の存在を知っている事や、魔法技術の導入……それにより、今や表に溶け込む魔術師の判明が容易になりつつあった。魔女狩りの前例があるこの世界だ、すぐにその危険性を危惧した。そして貴様達が出した宥和政策。我々は苦肉の策として、魔法使いや連盟の存在のみを公表する事を“魔法世界-ムンドゥス・マギクス-”や“魔術協会”“聖堂教会”に伝達し、公表を行った。反対意見は多数あったものの、やむを得ずという形で公表は行われたのだ。皮肉にも、科学の進歩で得た学園都市の超能力や、神族・魔族の魔法の存在に触れた一般人達は、容易く受け入れたがな」
憮然とそう言った総賢は、王達に背を向け、最後に2人へ告げた。
総賢「我々は表と裏の抑止力……調整者-バランサー-だ。三界宥和なら好きにやるが良い。我々はそちらが“魔法界”に関与しないのであれば、世界をどうこうするつもりは無いのでな」
直後、総賢の身を光が包み、瞬く間にこの場から姿を消した。
唖然とする神王・魔王。
2人の思惑通りに事は進まなかったものの、いろいろと情報は手に入った。
彼らが抑止力として戦いを鎮めてくれるならば、人界の問題については彼らに任せておいて良いだろう。
神界・魔界の事ならば自分達の力で何とか出来る。
王達は、多少の希望が持てた事に一応の手応えを覚えたのだった。
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