MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第124話 浮いたボール
◆◆◆
勇人「……こっちが先攻か」
一番バッターの唯湖が素振りをしながら、バッターボックスに入っていく。
勇人「頼むぜ来ヶ谷。トップバッターの出塁は、相手にとって脅威だからな」
唯湖「うむ、了解した」
◆◆◆
右打者のバッターボックスに入り、バットを構える来ヶ谷。
相手ピッチャーはキャッチャーのサインに頷き、振りかぶる。
唯湖(……サードは定位置か)
チラッとサードに視線を向ける。
振りかぶったピッチャーが投げたボールを、唯湖はバントでサード側に転がした。
唯湖(随分遅い球だな……まぁ、鈴くんよりは速いんだろうが)
唯湖はファーストへ走る。
相手のピッチャーは転がったボールに向かって走り、ボールを拾って一塁へ投げようとする。
だが、
「あ、れ……?」
ファーストに向かっているはずのバッターの姿が見えずに、思わず動きを止めてしまうピッチャー。
「三橋! サードだ!!」
三橋「!?」
キャッチャーに、三橋と呼ばれたピッチャーは三塁に目を向ける。
するとそこには、一体いつ一塁と二塁を踏んだのか、バッター来ヶ谷唯湖が既に三塁に向けて走っていた。
慌てて三塁に投げる三橋。
だが、唯湖は余裕の表情で三塁を踏み、塁に立った。
真人「は………」
みんな『Σ速っ!?』
バットで転がしたはずの唯湖だが、一体どんな脚力をしているのか、一打席目で既に三塁まで回ってしまった。
恭介「物凄く速いな」
謙吾「ああ…練習中も動きが速かったが、走るとこんなに速いとは」
理樹「なんか瞬間移動でもしたみたいだったね」
相手チームのベンチも唯湖の走力に相当打撃を食らったらしく、困惑の声がコッチのベンチにまで伝わってくる。
謙吾「一打席目でノーアウト三塁。初回からこんなおいしい展開でいいのか?」
勇人「いいんじゃねーか?」
勇人は言いながら、バッターボックスに向かう鈴にサインを送る。
鈴は勇人のサインを見て、ヘルメットのツバに触れた。
しかし………
理樹「今更だけど、僕達制服で野球してよかったの?」
相手チームはちゃんと野球のユニフォームを着ているが、リトルバスターズは全員制服である。
せめてジャージに着替えればよかったか?
なんてことを考えていた勇人達のことなど、当然放っておいて、鈴はバッターボックスに立ち、バットを構える。
勇人は鈴に、好きに打てとサインを送った。
だから鈴はとりあえず、ピッチャーが投げてきたボールに向かって、バットを振る。
――――ブゥンッ!!
「ストライク!!」
鈴「…………?」
審判のストライクコールに、そして空振りした自分に、鈴は首を傾げた。
恭介「何だ………?」
その様子をベンチから見た恭介は、ピッチャーの投げたボールを凝視する。
相手の投げた球は、鈴よりは速いが、それでも球速は100キロ出てるか出てないかという位に遅い球だ。しかも変化球を投げた様子もない。
普通に考えれば、鈴が空振りすることなど考えられない。
勇人(緊張でもしてんのか……?)
恭介と同じことを考えていた勇人は鈴を見るが、特にそんな様子はなく、自分でも何で空振りしたのかわからないって顔だった。
続けて二球目。
またストレート。
今度は打った。
しかし、鈴がその打った打球はピッチャーの上空に高く飛び、落下する。
ピッチャーは落ちてきたボールをミットでキャッチし、ワンアウト。
さすがに走ることが出来ず、唯湖は三塁に留まったままだ。
鈴「ゴメン……」
ベンチに戻ってきた鈴は、申し訳なさそうに言った。
小毬「ドンマイだよ、鈴ちゃん」
クド「そうなのです。まだ一回目なんですから」
軽く落ち込む鈴に、小毬とクドは励ます。
勇人「相手が投げた球種、分かるか?」
二人に励まされて多少元気を取り戻した鈴に、勇人は聞いた。
鈴「うーん……多分、二球ともストレートだった」
勇人「何で打てなかったか、分かるか?」
鈴「……………」
鈴は「うーん……」と唸った後、
鈴「私もよく分からない。でも……」
勇人「でも………?」
鈴「なんか、あのピッチャーが投げた球が、浮いたように見えた」
鈴のその言葉に、ベンチにいるみんなに動揺の声と呆れた声が走る。
真人「投げた球が浮くって、んなことあんのかよ?」
謙吾「聞いたこともないぞ、そんなの」
葉留佳「もしホントならスゴイですけどネ。ミラクルですヨ!」
理樹「そんな球、恭介や勇人だって投げられないよ」
勇人「あ? 俺は投げれるぞ」
古式「Σ投げれるんですか?」
美魚「なんでもアリですね…」
ボールを打った音が響いた。視線を向けると、恭介がバットを振り切っていた。
だがその打ったボールは、鈴と同じように高く打ち上げられ、落ちてきたボールをサードがキャッチした。
これでツーアウト。
打たれた恭介はベンチに戻ってきて、ヘルメットを脱ぎため息を吐いて、
恭介「ったく、参ったぜ。何だよあのピッチャーの投げる球。空中で浮くボールなんて初めてみたぜ!!」
「魔球かっ!?」と楽し気に一人騒ぐ恭介。
謙吾「どうやら、本当みたいだな」
真人「ああ、信じられないことにな」
そして四番バッターの理樹も、鈴や恭介と同じようにフライを上げてしまい、スリーアウト。
一回表は終了し、リトルバスターズは守備に回る。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!