MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第78話 脅迫手帳の作り方
◆◆◆
《下足室》
校舎に入って直ぐの所にある下足室。
そこに、絡んできた暴走族から抜け出してきた2人の女生徒が慌てて駆け込んできた。
「………椋、大丈夫?」
椋「………う、うん………」
息を荒げながら逃げだしてきた藤林杏は、双子の妹の藤林椋の手を引いて、ここまで駆け込んできていた。
靴を履き替えて、自分達の教室に駆け込もうとするが、椋が床に座り込んで立ち上がる気配がない。
杏「ちょっと、どうしたのよ!?」
椋「こ、腰が抜けちゃって……」
椋は物騒な連中に囲まれた恐怖を思い出したのか、身体がカタカタと震えて足に力が入らず、立ち上がれずにいる。
杏はなんとか引っ張って行こうとするが、そこで背後から、
「ゴラァァァ!! 平雄って野郎をぶっ殺せぇぇぇぇ!!」「極校ナメてっとどーなるか、教えてやらぁ!!」
なんて声が迫ってくる。
「おい、さっきの女達だぜ!!」「どうする?どうする? 一暴れするまえにさ、運動しとかね?ヤッちまわね?」「ぉぉぉぉぉぉおおおおおっ、おま、お前、ワルだなぁ!!」「じゃあお前ヤんねぇのかよ?姉妹っぽいぜ?ドンブリだぜ?」「やるけどさぁ!!」
と、下卑た笑い声を上げながら、暴走族達は2人に迫る。その暴走族の1人が椋の肩を掴み、
椋「きゃっ……」
杏「椋っ!?」
乱暴に引っ張り上げられる。椋に続いて、杏も後ろから両腕を抑えられ、身動きがとれなくなった。
椋「…ひ……っ……ぅ………」
杏「アンタ達、椋を離しなさいよ!!」
「うわー、泣きそうな顔も怒った顔もかわいー」「でもんなに睨んでもどーにもなんねぇよ? 俺らの仲間にゃ政治家の親父もってるやつがいっから、警察もしばらくは来ねーしな!!」「まぁ、そー恐がんなよ。楽しくヤろうぜ?」「抵抗しなぎゃそっちも気持ちよ――――」
――――ゴスッ。
「―――ぐびやぁっ!?」
と、椋を掴んでいた男の声が上がり、前のめりに倒れ込む。
スタッ…と、男の後ろから蹴りを放った少女が着地する。
恭介「ナイスだ鈴、よくやったぞ」
鈴は頷き、チリンと、鈴がなる。
その恭介と鈴に続くように、後ろからみんなもやって来た。
「あ゙ぁ゙?んだゴラァ!!」「やんのかクラァッ!!」「新設校のアマちゃんが、俺らに逆らってどーなるかわーってんのか、あ゙ぁ゙!?」
もう頭の血管が切れそうなほどお怒りのご様子で、
鈴「命助けてやったのに、何で怒鳴られなきゃならんのだ………」
と、鈴は呻くように言った。
だが、とりあえずこの暴走族達には早々にお帰り願わないとまずいわけで。後はもうコイツらが鳳凰の危険人物達に喧嘩を売って返り討ちに惨殺される前に、彼らにお帰りいただく必要があった。
静雄「あぁ? なんだこの集まりは?」
新羅「わー、また極悪校の人達だよ」
と、運悪く早速危険人物の1人が現れた。
「んぁ?誰だゴラァ!!」「見せもんじゃねぇぞファラァ!!」
と、静雄と新羅を相手に暴走族達は怒鳴る。
それを見た恭介は、やや眉を寄せ、
恭介「妙だな………」
などと呟いた。
稟「何が妙なんですか?」
恭介「アイツら獄校の連中だろ、静雄に気づいてないのか?」
ハヤテ「そーいえば……勇人くんが出てきた時も、特別な反応はなかったですね。もっと驚いてもよかったのに」
杉並「説明しよう!!」
純一「………お前、いきなり現れるなよ」
何だかんだで、2人目の危険人物がやって来た。
杉並「まぁ、細かい事は気にするな。で、なんで奴等が勇人や平和島静雄を見てビビらないかの情報だが、奴等は悪の巣窟である獄悪高校を退学になった奴ばかりが集った『腐隷鵡怒津愚(フレイムドッグ)』というチームでな。警察も手を焼いている暴走族なんだそうだ」
なんてことを言った。それにみんなは「腐隷鵡怒津愚………」と、なんとも言えない顔で呟く。
警察も手を焼いているという奴等は、不良達の中では有名なワルのようだった。というか元より、獄悪高校というのは本当に、ワルばかりが通学している学校だった。近くに工業高校や音吹高校や石矢魔高校等のヤンキー率120%越えの学校が他にもあるが、そこは本当にワルばかりが通学している学校だった。日本の世の手に負えないはみ出し者の大半が通っていて、卒業前に、本職の方々がスカウトにくるような、もうその学校の生徒と揉め事を起こした日には、家族ごと引っ越しする必要があるほど酷い目にあってしまう、というワル学校。
で、今この学校に攻めてきているのは、更にそこを退学になったワル中のワルばかりが集った暴走族なのだ。
と、杉並が長々と解説したところで、
ファンファンファンファンファンファンファンファン――――!!!!!!!!
と、学園の外、校庭の向こうから、パトカーのサイレンが近づいてくるような音が聞こえてきた。それも一台ではなく、何十台ものパトカーのサイレンの音が響いてくる。
それに暴走族達の動きが止まる。慌てて手に持っていた得物を隠す。バッドやらナイフやらを振り回して他校に襲いかかってきておいて、今更武器を隠してもしょうがないだろとも思うのだが、しかし彼らは血相を変えて、
「おいどーなってんだよ!?」「お前の親父に頼んで警察は動かないようにしてあったんじゃねーのかよ!?」
なんてことを言い合い始める。
今の発言で、なんでコイツらが平然と武器を振り回して学園に乗り込んでこられたのかが分かった。勇人のように警察が来ても気にならないのではなく、どうやらコイツらには、警察に圧力をかけられるような肉親がいるらしかった。
しかしだからといって、なんの意味もなく警察に圧力をかけたりはしないだろう。警察だって無能じゃない。もしも暴走族が暴れるのを黙認していたなんてことが世間にバレれば、後で大問題になってしまう。だが今回、そのリスクを冒して暴走族どもはこの学園に襲撃してきた。それはつまり、警察や獄悪高校や腐隷鵡怒津愚やそのバックについているヤクザや政治家なんかまで巻き込んだとんでもなく大きな話が今回の事態には絡んでいそうで。みんなは最初、コイツらが叫んでいた言葉を思い出した。
「オラァ!! 平雄出てこいやぁ!!」「獄高に上等くれといて無事済むってんじゃねーだろーなぁ!!」
なんてことを言っていたのだが、つまりはその『平雄』とかいうやつが何かとんでもないことをやらかして、その報復にきた、ということらしかった。
恭介達は慌てふためいている暴走族達の向こうから来る、パトカーの群れへと目を向けた。
パトカーは鳳凰学園の、校庭へ入ってこようとしているようだった。来ているのはパトカーだけではなく、白バイも何十台も来ている。
そしてその先頭を、白くはないバイクが先導するように走っていて、それをみんなは見る。
どうやらそのバイクに乗っているのは、ここ鳳凰学園の制服を着た男のようだった。その男が、明らかにスピード違反な速さで爆走していた。そしてその先頭の男に向かって後ろのパトカーが、
『いい加減に止まれぇ!!』『貴様は完全に包囲されてるぞ!!』『クソガキが!!図に乗って街中をバイクで走り回りやがって!!』『公共物破壊に道路を逆走にスピード違反、ただで済むと思ってんのか!!』『ナンバーからお前の住所もわかってんだぞ!!坂本英男!!もう逃げられんぞ!!』
なんて、スピーカーを大音量で警察が怒鳴る。
そしてそれに、さっき藤林椋を抑えて、鈴に蹴られた男が、
「な、なんでポリ公が俺の名前呼んでんだよ!?あ、あの野郎、俺のバイクでいったいなにやりやがった!?」
と、叫んだ。
すると、そのパトカーと白バイ数十台に追い掛けられていた男が、バイクに乗ったまま学校の階段を上がり、下足室の、暴走族達の群れへと、
勇人「YAーHAーーー!!!!!!」
と、雄叫びを上げながら飛び込んでくる。
それに、藤林杏を抑えていた男の顔面にバイクのタイヤが直撃し、他の暴走族達も「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」と叫びながら周囲に散らばる。
さらに、
静雄「―――あ゙?」
―――――グシャッ!!!!
と、勢いよくウィリー走行で突っ込んできた俺様生徒会長が乗っているバイクのタイヤが静雄の顔面に当たり、嫌な音を立てて、そのまま後ろの壁まで頭を螺込まらせた。
普通の人間なら即死だ。即死だが、まぁ、彼は常人よりかなり肉体が頑強に出来ており、周りのみんなからはタイヤが邪魔で見えないが、実際は軽く額を切った程度の怪我しか、彼は負っていない。だが、いきなりこんなことをしでかした勇人に怒りが無いわけがなく、直ぐ様ブチギレて殴りかかろうとする。
が、勇人は余程の力でバイクを抑えているのか、静雄の馬鹿力を持ってしてでも、ピクリとも動かせないでいた。
静雄が動けないのを勇人は確認してから、言った。楽し気にニヤつきながら、
勇人「おやおや、あなた方はいったいなにをしたんですかぁ? うちの生徒をバイクで引き殺すなんて……この法治国家で人を殺して、自由でいられると思ってるんですかぁ〜?」
なんてことを、やたらと良い笑顔で言う。
それに暴走族の1人が、
「お、お、お前が殺したんだろーが!!」
と怒鳴るが、それに勇人は笑い、校庭のほうを指差す。すると校庭ではスピーカーから、
『坂本英男!!もう観念して出てこい!!』
なんて叫んでいて、それに勇人が言う。
勇人「はっはっはー。お呼びですよぉ、坂本英男さん。観念して捕まったらどうですかぁ?」
するとそれに、坂本英男という男は顔面を蒼白にして、
「う、嘘だろぉ……俺じゃねぇぞ!?俺は何もしてねぇぞ!?みんなも見てたよなぁ!?」
勇人「武器振り回して、他校に無断で侵入してきて、うちの女生徒2人を強姦しようとして、お前のバイクでうちの生徒を引き殺したと思われるこの現状で、獄悪高校のゴミクズどもの言い分を、警察が信じると思うか?」
「……………」
勇人「ちなみに俺様はこの学園の生徒総会長だ。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、学年主席、全国模試1位、博士号取得、外国で幾多もの大学を飛び級で卒業の天才だ」
「…………………………」
勇人「さぁ、世界のゴミクズと世界の天才………警察はどちらの言い分を信じますかねぇ? 試してみるのも面白い」
なんて楽し気に喋って、それに暴走族のメンバー達が、ガクガクと震え始める。
今まで見たこともない『悪』を目の当たりにして、ガクガク震え始める。
そして坂本英男が、震えながら言う。
「な、なんでこんなことをするんだ…………」
それに、神爪勇人はあっさりと答える。
勇人「暇潰し」
と、もう、たったそれだけの理由で人まで轢き殺して暴走族を罠にハメてみせた勇人を、悪魔でも見るような目で不良達は見つめた。
勇人「だがまぁ、俺様も悪魔じゃない。本物の悪魔は今、俺の店で働いてるからな。だからキリスト様よりもお優しい俺様が、お前らが殺人犯にならなくてすむよう手配してやってもいい」
勇人のその言葉に、藁にもすがるような顔で、
「そ、そんなことが出来るのか…………?」
それに勇人は頷いた。
勇人「俺は警察にも顔が効くからな。今回のこの殺人事件を無かったことに出来る。どうだ? 俺様にそれを頼みたいかぁ?」
「ほ、ホントにポリ公相手にそんなことが………」
勇人「可能だ。現に俺様は今までに百兆人は殺してるしな!!」
という言葉にまた、暴走族達がガタガタ震える。
それに暴走族以外のみんなは、いやいや人間は百兆人もいないから………というツッコミを入れたかったが、状況が状況で喋れない。
てゆーか誰かツッコメよとも思うが、どうやら彼らは、世界の総人口がどれくらいか知らなそうな顔で震えていた。
勇人「だが、この事件を隠蔽してやる代わりに、貴様等は今後、一生俺様の奴隷だ。それでいいな?」
「………そ、それは…………」
勇人「よし分かった。お前らは集団で真面目な生徒をリンチし、あげくの果てにバイクで轢き殺した殺人犯として警察に………」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? わ、分かった!! お前の言いなりになるから……」
勇人「よし、ならもう失せろ。お前らをコキ使いたいときは後で連絡する。あぁ、坂本英男は警察に出頭しろよ。信号無視、スピード違反、その他諸々だ」
「お、俺そんなこと………」
勇人「殺人とどっちがいい?」
「…………う」
勇人「さぁ、行っていいですよー」
「…っ………ぅぅぅぅぅ………」
と、暴走族達が、肩を落として、校舎から去っていった。
みんな((((こうやって脅迫手帳を作っていたんだな………))))
脅迫手帳の脅迫ネタを握る1つの手段を、垣間見た瞬間だった。
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