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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第73話 戦え! バーテンダー!!





◆◆◆




澪「―――へぇ、ここで働いてるんだ?」


勇人「ああ」




放課後。



入部した軽音部の面子を連れて、勇人は自分の店にやって来た。





◆◆◆



《喫茶&BAR アストラル》



静雄「………いらっしゃいませ」




勇人達が店の扉を開けて店内に入ると、バーテン服を着た静雄が無愛想にやって来た。





勇人「静雄ー、もうちょっとにこやかにな」


静雄「ああ………」




どーやっても静雄に明るい表情を出させる事が出来ず、勇人は心の中で溜め息を吐く。



何度か試してみたが、下手に笑うと無茶苦茶恐い形相になってしまったため、長い目でやっていくしかない。





律「おー! 平和島静雄も働いてるんだ!?」


澪「Σちょ、ちょっと律っ!?」




バーテン服を着た静雄を見て、律が無遠慮に上から下までジッと観察する。



キレた訳ではないが、その視線を鬱陶し気に眉間に皺を寄せると、澪はビクリッと身体を強張らせ律を抑える。




静雄「あ゙あ゙? んだよ?」


澪「Σな、なんでもありません!!」



静雄がチラリと目を向けると、睨まれたと思ったのか、澪は泣きそうな顔で紬の背に隠れてしまう。




静雄「いや、別に怒ってる訳じゃねーんだけどよ…………」




流石に少しショックを受けたのか、軽く沈んでしまった静雄。




勇人「つーかお前ら、静雄の事知ってんのか?」


紬「勇人さんと平和島さんは、もう学園では有名人ですし」


律「そーそー。皆、今日の出来事の話しで持ちきりだったからなぁ」




今朝起きた勇人達と不良軍団の抗争に、神界と魔界のプリンセスの転入。


入学してまだ2日しか経っていないのに、学園では騒ぎが初日から続いて起きっぱなしである。






杏子「おい、勇人」


勇人「ん?」





澪達を席に案内した後、事務室に入った勇人を、この店の店長代理を任されている杏子が呼ぶ。




………何故かパフェを食いながら。






勇人「……色々とつっこみたいところはあるが、何だ?」


杏子「バイトの面接を受けに来たやつがいるんだが……」



勇人は杏子の後ろに佇んでいる男に目を向ける。



その男は、とてもバイトの面接を受けに来たとは思えない風だった。




地毛である勇人とは違い、静雄と同じ様に黒髪を染めたであろう金髪。



静雄並に無愛想。



服装もチャラチャラとした感じに適当。



生意気……に、見えなくもない面。








杏子「……でも帯刀はしてなかったから採用した」



勇人「あ……うん………」



杏子「どうだ、偉いか?」



勇人「あー、うん、そうね。今度は真面目そうな人を採用してくれ」




マトモなやつが入ってくれることを、切に願う勇人だった。






◆◆◆




八千代「―――ありがとうございました」




軽く数十分時が過ぎ、勇人は専用のカウンター席で新聞を読みながらフロアを眺めていた。





静雄「オーダー入ります。サンドイッチとサラダ、チョコレートパフェが2つっす」


潤「ああ」




今日からキッチンに入ることになった『佐藤 潤』。



静雄と同じく無愛想だが、見た目のイメージとは違って真面目に働いている。


いや、実際かなり真面目な青年だ。





杏子「八千代ー、パフェ食いたーい」


八千代「はい、杏子さん♪」





この店長代理は全く仕事をしない。というか、出来る仕事はレジ打ちくらいである。



一体何を思って雇ったのだろーか、音尾は。





澪「………店員の数、結構少ないな」


律「まぁ、そんなに客がいるわけじゃねーし」


紬「穴場なのね♪」


澪「………何か普通じゃない感じはするけどな」


律「あー……アレか」




2人の視線が杏子にパフェを持っていく八千代に注がれる。


正確には、八千代が腰に差してあるものに。




律「なんで刀なんて差してんだよ」


紬「オシャレかしら?」


澪「それはないだろ」


勇人「ま、アレは俺も良く分からん」


澪「注意とかしなくてもいいのか?」


勇人「ま、別に腰に差してる分には危険はねぇし」


澪「店長としてそれはどーなんだ……」



カウンター席で紅茶を飲んでる軽音部一行も、勇人がここの店長であることに多少面を食らったが、今までの勇人の所業を思い返してみればそれほど驚くことではなく、既に慣れたものだった。



さすがは鳳凰学園の生徒といったところか。






杏子「おい、勇人」


勇人「ん?」


八千代「七卓のお客様が店長を呼べとおっしゃってます」


勇人「………行ってきてくれ、店長代理」


杏子「お前が店長だろーが、お前が行け」


勇人「………ったく、めんどくせぇな」




勇人はガシガシと頭を描きながら、席を立ちクレームを付けるであろう客のもとへ向かった。





◆◆◆




勇人「あー、何かありました?」




心底面倒くさそうにテーブル席に座っている客のもとへ来た勇人。




「ちょっと! この店暖房効き過ぎじゃないの!? 何とかしてよ!!」




客は体脂肪にまみれた太っといオバサンで、額から流れる汗を暑苦しそうにハンカチで拭っている。



勇人は、そんなことでこの俺を呼び出したのかと言わんばかりの冷めた眼で




勇人「とっとと外走ってその醜い脂肪を燃やしてきやがれクソブタ」



と言った。




澪&律「「Σちょっと待てぇっ!?」」




カウンター席に座っていた澪と律が慌てて駆け寄って、勇人の口を鬱いでキッチンの中に引き摺りこんでいった。





勇人「なんだよ?」


澪「なんだよ?じゃない!」


律「暖房弱めますとか言えばいーだろ?」


澪「なんで私達が止めに入ってるんだ」





潤「何かあったのか?」


勇人「実はな……斯々然々……だ」


潤「……お前、店長らしくしたらどーなんだ?」


澪「ちゃんとしないと悪い評判が広まるぞ」


勇人「そうだな……」



勇人はコクリ、と頷き




勇人「よし、冷凍庫にブチ込んでくる!」


潤「俺アイスコーヒーでも渡してくるわ」





◆◆◆




勇人「あー、やれやれめんどくせぇなぁ」


澪「よくこの店機能してるな」



その後、カウンター席に座り直して新聞を読み耽る勇人。

















「おい! そこのウェイター!!」


静雄「ん?」




やたらと大きな声で叫ぶ客に、偶々近くにいた静雄が近づく。





静雄「………何すか?」


「おい!! この店はこんな虫入りのスープを客に出すのか!?」


静雄「虫………?」



静雄が、テーブルに置いてあるスープに目を向けると、蚊のような小さな虫がスープに浮かんでいた。




「一体何なんだこの虫は!? あ゙あ゙ん!!!?」


静雄「えー………」



静雄は五月蝿く喚く客の言葉に、考え込むように1つ間を置き





静雄「すんません、分かりません。自分あんまり虫には詳しくないんで」


「あ゙ぁ゙ん!?」



と、素で言った。





勇人「Σぶっ」



新聞を読んでいた勇人は客と静雄のやり取りを聞いて軽く吹き出し、店にいる他の客も会話を聴いていて、笑い出す。


会話が聞こえていなかった客は何だ何だと目を向けるが、店内の大半の客は爆笑にしていた。




「っ〜〜〜〜〜〜!!」




ガッシャアアァァァァン!!!!!!




自分が笑らわれている中心になっていることに我慢ならず、客はテーブルを拳で叩き割った。




シーン……、と静まり返る店内。





「テメェ、この俺が誰だか分かってねぇらしいな」


静雄「あぁ? あんな虫取り除けば、飲めただろーが。そのスープ」


「あ゙あ゙!? こっちは“客”だぞ!! “金を払う客”なんだよ!!! 態度がデケェんじゃねぇのか!? 金貰ってるウェイターの分際で!!!!」


静雄「………自分、一応ウェイターじゃなくてバーテンダーですが」


「んなもんどーでもいいんだよクソがっ!!!!」



拳を握り、静雄に殴りかかる客。




◆◆◆




「………………………」




店内は、静寂に包まれていた。


客がバーテンダーに殴りかかり、幾つか女性客の悲鳴が多少なりとも聞こえていたが、今声を発しているものは誰一人としていない。





静雄「―――お客さん、店ん中で暴れられると迷惑ですんで」


「……ぁ……が………」




喧嘩が起こった席のテーブルや椅子や食器は粉々に散らかり、もはや原型は留めておらず。付近にいた客は席を立ち離れて避難している。


静雄が暴れる客を半殺しにして黙らせ、客は血塗れで床にのたうち回っていた。





潤「なぁ、流石に止めた方がいいんじゃねーか?」


勇人「言われるまでもねーよ」





未だに客を踏み潰そうとしている静雄に、勇人は早足で近づく。






勇人「おい、静雄!」


静雄「あ゙あ゙?」




――――ドガァッ!!!!




静雄「っ………」




突然静雄の顔面を殴り飛ばす勇人。頑丈に出来てるとはいえ、勇人の拳を受けたからか口端が少し切れて血が滲んでいる。




「そうだ! そんなウェイターとっととクビにしやがれ!!」




店長である勇人に殴り飛ばされた静雄を見て、静雄にボコボコにされた客は血塗れでいながら嬉々として眺めている。




勇人「静雄、テメェ…………」


静雄「…………………」




いくら客が明らかに嫌がらせに等しい事をしてきたとはいえ、ここまで客を痛め付ければ店に悪評がついて回る。


いくら勇人が傍若無人だとはいえここまでの被害は出しておらず、多少……いや、大分腹立たしいが静雄はこの店をクビになることは重々承知していた。


周りにいる客達もそう思っている。




いや、そう思っていた。









































勇人「テメェ店のもんグチャミソにブッ壊してんじゃねーよ!! 俺様の店を潰す気か!? このアホンダラ!!!!」



静雄「…………………は?」




さしもの静雄も、勇人の今の発言には呆気にとられた。


いや、静雄だけではなく、周りにいる他の客も同様である。




「お、おいテメェ店長だろーが!? どういうつもりだ!! 店のモンなんざどーだっていいだろーが!! そこのクソ野郎は客であるこの俺に暴力振るいやがっ―――」

勇人「テメェも勘定払ってとっとと出ていきやがれ!!!!」



――ドガァッ!!!!



「―――――ゴファッ!?」



喋りきることもなく、勇人は静雄にボコられた客の顔面を容赦なく(死なない程度に)蹴り飛ばす。




勇人「ウチの店員に手ぇ出される様なマネしてんじゃねーよ、クソ雑魚野郎!!」



「テ……んメェ、分かってんのか!? 俺は客なんだぞ!! 訴えてやるからな!! いや、テメェらなんざ今すぐブッ殺してやるぁ!!」




勇人に蹴り飛ばされた客は、側にある椅子を握り勇人と静雄をブチ殺そうと殴りかかる。



軽く返り討ちにしてやろうと手を上げる勇人。



















杏子「お客様」




―――バッカァァアアアァン!!!!





「Σベバハァッ!!?」


突如横から杏子が割って入り、キッチンから持ってきたフライパンで客の顔面を殴り飛ばした。



フッ、と一息吐いて、上げた手を下ろす勇人。



再び唖然とする周りの客達。


殴られた客も何が起きたが判断がつかず、思わず杏子を眺めてしまう。






杏子「店内での暴力は困ります」



客達「「「「「Σえーーーーーーーーーー!!!!!!!!!?」」」」」




今まさに客を相手にボコったアンタが何言ってんだと言わんばかりに、客達が杏子に唖然とした視線を向ける。




「ク……ソ…が!! 訴えてやるからな!! もう二度と来るかこんな店!! 死ねクソババァ!!!!」



杏子「………………」





殴られた客は捨て台詞を残して、金も払わずに出ていった。





八千代「あっ、お会計………」


杏子「八千代、大丈夫だ。電話するから」


勇人「俺も電話入れるか」


潤「警察か? 大事になるぞ?」


杏子&勇人「安心しろ、警察じゃないから」


潤&静雄「?」



勇人と杏子はそれぞれ携帯電話を取り出して…………


















杏子「もしもし、今店から出た客から有り金全部奪ってこい」


勇人「そーだ、身ぐるみ全部剥いでこい。……あ゙? 剥いだ奴は東京湾にでもコンクリ詰めにして沈めとけ」




と言って、携帯電話をポケットにしまった。





杏子「これで問題ないだろ。便利な後輩に頼んだから」


勇人「奴隷ってーのは、こーゆー時に使わねぇとな」



店内の人達(((((何者だコイツら)))))




勇人「死体は出ねぇと思うから事件にはならねぇよ」



鳳凰生徒(((アンタが言うとシャレにならないよその台詞)))



潤「……そこまでやる必要があったのか?」


杏子「働き者の平和島に難癖付けたんだぞ。クソババァって言ったし」


静雄「店長代理………」


杏子「クソババァって言ったし」


みんな「「「「………………」」」」


杏子「クソババァって言ったし」


みんな((((……そっちか))))





静雄「…………勇人」


勇人「ん?」


静雄「その……なんだ、悪い」


勇人「? 何がだ?」


静雄「店のモンぶっ壊しちまって………」


勇人「…………ま、テーブルに関してはあの客のせいだから気にする必要はねーよ。これから客をしばき倒すときは、一度外に連れ出してからの方がいいな。店内で暴れられると店が潰れる」


静雄「ああ、分かった」


澪「普通暴力奮ったことを咎めないか………?」


勇人「いいんだよ此処は、俺の店だぜ?」


律「スゲー理由だな」


杏子「それに、客より店員の方が偉いんだ。変に下手に出ることもないだろ」


八千代「え?」


紬「お客様あってのお店なんじゃ………?」


杏子「何言ってんだ。店員いないと店にならないだろーが」


静雄「……………は?」


杏子「だから、客いない店はあるけど店員いない店はないだろ? だから店として成り立つには店員の方が大事。だから店員の方が偉い!!!!」


静雄「……………あれ?」


杏子「そもそも私等がいないと水も出ねーし、料理も出ねぇ。店員がいないと客は何も出来ん。よって客に媚びる必要はない。店員第一。以上」


静雄「………あー、なるほど!」


潤「納得すんなよ。こっちは金貰ってる立場だぞ」


























「―――――おい!! このクサレウェイターども!!!!」



勇人「あ゙あ゙?」





店の外から聞こえてきた罵声に目を向けると………







………店の外には2、30人程の人間が来ていた。


皆、いかにもチンピラですと言わんばかりのファッションで、手には鉄パイプやらバットやらの得物が握られている。






「仲間から事情は聞いたぞ!! 随分とふざけた店らしいなぁ!! 潰してやっから覚悟しやがれぇ!!!!」




先程逃げていった客が仲間を呼んだのか、そいつらは怒声を上げながら店の中に流れ込んでくる。



店内にいる客は悲鳴を上げながら、やって来たチンピラどもから遠ざかるため出入口とは正反対の方向へ逃げていき、店員に“なんとかしろよ!!”という視線をやった。




その視線に気づいているのか、いないのか。勇人達はチンピラ達を見据えて…………




杏子「………何か言ったか? あいつら」


勇人「さぁ、聞こえねぇなぁ」


静雄「………………」


勇人「静雄………分かってんな?」


静雄「あぁ、まず店の外に……………叩き出すんだったよなぁ!!!!」





出入口から入ってくるチンピラどもを殴り飛ばして、静雄はチンピラどもを全員外へ追いやった。


店の外でチンピラ達との乱闘が始まる。いや、乱闘というより静雄による蹂躙駆逐が始まるため勝負にもならない。静雄が勝つという結果がわかりきっているため、誰も静雄を心配するものはいない。


静雄にぶちのめされたチンピラ達に救急車でも呼んでやろうかという考えが一瞬勇人の頭に過ったが、そこまでしてやる義理はないかと一瞬で考えを切って棄てた。





後に、悪質な客と静雄達の乱闘観たさにやって来る客がいるほどの店として、初音島の名物の1つにこの店が加えられるのであった。






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