明日の値段〜End of Hypnosis〜
第64話 神爪勇人VS柳生寛
大広間のような場所で、相対する勇人と寛。
数的には、シャマルを連れている勇人が有利なのかもしれないが、
勇人(……気配からして、雑魚じゃねーのは確かだな)
この男相手に、本来戦闘タイプではないシャマルを戦わせても勝ち目はないと判断し、勇人はシャマルの前に一歩出て、
勇人「東条にも言ったが、面倒なことは極力避けてぇんだ。はやてとリインフォースの居場所を吐いてどいてくんね?」
寛「そう言われて、東条は道を開けたか?」
勇人「………ま、開けなかったけど」
寛「そういうことだ。あの2人の居場所は、貴様の力で問え。俺はこれで答えてやる」
寛はそう言って、自身の得物を抜刀する。
その得物は、身の丈程に長く、鈍い黒い色を放つ異質の刀だった。
勇人「……長刀か?(だが、なんだあの黒い色艶は……?)」
勇人は徒手空拳で構え、
勇人「(あれだけ長いと攻撃力はあるだろうが、デカイ分小回りが効きづらく防御には不得手)……先手必勝!」
勇人は“瞬神”で一気に距離を詰めて背後に回り込み、後ろから首筋目掛けて手刀を叩き込む。
寛「――――――」
――――――ガッ!!
と、急所に当たったと思われたが、寛は片腕で勇人の手刀を防ぎ、
勇人「!」
直ぐ様蹴りを放ってきた。
その蹴りをバック転で紙一重で回避し、後ろに下がりながら、袖に仕込んであった手裏剣と苦無いを寛に放つ。
寛「ふんっ」
が、その攻撃は長刀の一振りによって容易く弾かれた。
寛「……魔神よ。お前に私怨はないが、最強の座に着く者として、ここで死んでもらう」
勇人「……テメェは龍-ロン-やハボルムの為に闘ってるって感じじゃねーな」
寛「当たり前だ。あんな雑魚がどうなろうと、知ったことではない」
勇人「あの戦争で潰えた、オスティア……いや、ウェスペルタティア王国のためか? 今さらこんな真似したところで、何かが戻るわけでもねーだろうが」
寛「……あの戦争に参加したお前なら、知っていよう。戦争の黒幕を……」
勇人「……ああ」
寛「『完全なる世界-コズモエンテレケイア-』の謀略による、メセンブリーナ連合とヘラス帝国の戦争。世界を戦火の混乱に陥れたとされた一団とその首領は、お前や『紅き翼-アラルブラ-』の活躍で退治された」
だが、王国は滅び、災害復興支援の名目で派兵されたメガロメセンブリア軍によって、王国は実効支配されることになる。
父王殺し、自国を滅ぼし、完全なる世界との関与疑いなどの罪で逮捕拘束されたアリカ女王は後に処刑され、世界平和の礎となった。
寛「そしてオスティア王宮警護に当たる俺達忍隊は、戦争に出ることもなく、女王を助けるでもなく、メガロメセンブリアの組織に取り込まれるでもなく、その部隊を終えた……」
勇人「……………アリカは」
寛「完全なる世界の陰謀、アリカ女王の自国消滅の真偽など、俺にはどうでもいい。ただ、戦争で闘えなかったことだけが俺達の無念。歴史に“IF”は無いが、あの戦争で俺達が出ていれば、帝国も連合も完全なる世界も討ち滅ぼし、王国が滅ぶこともなかったはずだ」
勇人「…本気で言ってんのか?」
寛「紅き翼が戦場をかき回し、その混乱に乗じて完全なる世界に関与の疑いがある上層部の者を全て、俺達柳生忍隊が出向いて殺す。そうすれば残りは雑魚ばかりだ。皆殺しも容易い」
勇人「…………………」
寛「だが、今更そんなことをほざいても何も変わらない。今意味があるもの、それはあの戦争時代における真の“最強”。それは魔神や紅き翼ではなく、我々だったという“証”だ」
寛は長刀の切っ先を勇人に向ける。勇人は軽く息を吐いて、
勇人「あの時代なぁ…連合も帝国も、力があるなら大人かガキかを問わず大勢の奴等が戦争に身を投じた。俺も最初は紅き翼と共に連合側で、帝国と敵対はした。けどなぁ、大抵の奴等はどっちが正しいとか間違ってるとかじゃなく、ただ自分の国のことを思って命を散らしていった。だが、テメェにはそれがねぇ。ただ闘いたいだけだ」
言って、勇人は無常の状態から、珍しく構えを取り、
勇人「ま、俺も戦闘狂の気があるから判らなくはねぇが、だからと言って、何の関係もねぇガキどもを巻き込んでんじゃねーよ」
寛「ふん、あのガキがどうなろうと、ハボルムに何されようが知ったことではない。御託はいい、やる気になったのなら……」
お互いに、相手を見据えて構え、
寛「………来い」
勇人「言われるまでもねぇよ」
――――互いに一足で駆け出し、正面から激突した。
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