明日の値段〜End of Hypnosis〜
第2話 襲撃
◆◆◆
《船内-廊下-》
豪華に装飾された廊下を歩く俺達。
子供達は先に部屋に行ってるらしく、廊下を歩くのは俺達大人だけだ。
レックス「まいったなぁ……」
勇人「なにがだよ?」
アティ「結構問題のある子達みたいですし……」
レックス「うまくいかなかったときは“なかったことに”か。まったく、好き勝手に注文してくれるよ」
勇人「まぁ、おっちゃんは話せる御仁だが、基本的にボンボンばっかだからなぁ…あーいう勝手な奴等は、軍学校でもゴマンと見てきただろ?」
アティ「それは…そうですけど………」
舞弥「……何か、問題でも?」
レックス「……気になるんだよ、あの子達のことが」
アティ「私もです………」
勇人「アティ、レックス……お前らいつから幼女趣味とショタ趣味に目覚めたんだ?」
レックス&アティ『違う!!』
慌てて首を振ってるが、説得力ないぞ、その様を見ると。
勇人「確か、レックスは知的な眼鏡美人系で、アティはムキムキマッチョ系が好みと記憶してるが?」
アティ「そんな事実はないですっ!」
レックス「そうだよ、大体姉さんが好きなのは、はや――モガッ!?」
アティ「わーっ!! わーっ!!」
何かを口走ろうとしたレックスの口を、アティが慌てて塞ぐ。
何やってんだ、お前ら。
ディルムッド「主、話が進みません」
勇人「それもそうだ……で、何が気になるんだ?」
気を取り直して、2人に尋ねる勇人。
口を塞がれていたレックスが若干呼吸困難に陥ってるのは気にしない方向で。
アティ「生まれてすぐにお母さんを亡くして、お父さんはいつも仕事で留守っていうのが、ちょっと………」
勇人「まぁ、まだまだ甘え足りない年頃だろうからなぁ、普通は」
………少し、様子でも見てくるか。
◆◆◆
《船内-個室-》
勇人「……というわけでやって来た」
「どういうわけだよ……」
一番やんちゃそうな少年にそう言われた。
「……それで、何かようですか?」
レックス「どうしてるかなって思ってさ」
アティ「少し、話しませんか? ちゃんと自己紹介もしてないですし」
まずはフレンドリーに温和な2人が話すが、
「……結構です」
と、冷たくあしらわれる。
レックス「そんなこと言わずに、ほら……」
「いいって言ってるでしょう! ほっといてよっ!!」
勇人「断るっ!!!!」
叫ぶ少女の声に、俺は応えるように叫び返した。
アティ「何で勇人まで叫ぶんですか!?」
勇人「叫ばれた叫び返すのが俺の流儀だ!」
レックス「知らないよ!」
アティ「勇人が喋ると話がややこしくなりますから、ちょっと出てってください!」
ガシッ!!と、場の空気を読んだのか、ディルムッドと舞弥が俺の両サイドから各々腕を取り、俺を引き摺って部屋の外へ運んでいく。
勇人「おい、離せ!」
舞弥「却下です」
勇人「ええい、ディルムッド! 離せぇい! 俺はまだあのクソガキ共と話が終わってない!」
ディルムッド「出来ません。というか、お願いですから空気を読んでください」
勇人「失敬な。俺は空気を読んだ上で行動を起こしている!!」
ディルムッド&舞弥『……………』
勇人「おい、なんだ、その呆れ尽くした目は?」
―――バタンっ!
と、扉が閉めて、俺達は部屋から退室した。
◆◆◆
《船外-甲板-》
勇人「はー………っ」
晴天を見上げ、溜め息を溢す俺。
何か俺の存在は、子供達よりもレックスとアティの怒りを買うらしく、大人しくしばらく甲板で暇を潰す。
ディルムッドと舞弥は、何か冷たい飲み物を探して船内へ戻っていった。
レックスもアティもガキ共も、こうやって俺のように甲板から空でも仰ぎ見りゃ、少しは落ち着くんじゃなかろうか?
勇人「……………?」
何か声らしきものが、ふと耳に届く。
俺は気になり、その声の発声者へ歩み寄った。
「ええ、はい……間違いありません。2つとも、確かに確認しております。はい、必ずや…全ては、新たなる世界のために……っ………!?」
勇人「…………………」
俺に気がついたのか、振り返った青少年は驚愕した様子で俺を見た。
「………………………」
勇人「…………………」
「………………………」
青少年は、何も言わずに去っていった。
つーか、
勇人「誰に向かって話してたんだ、アイツ?」
幽霊なら俺の目にも見えるしな……アレか? 最近流行りのエア友達か?
◆◆◆
《船内-廊下-》
勇人「……もうそろそろ戻ってもいいころだよな?」
誰もいない廊下で1人呟く俺。
ディルムッドや舞弥が甲板に来てくれる様子もなかったから、取り敢えず一旦部屋の近くまで戻ってきたのだが、
――――ドォーン!!
勇人「……………」
鼓膜に喧しく響いた大砲の発砲音に、俺は溜め息を吐きながら、早足に部屋へ戻った。
◆◆◆
《船内-個室-》
勇人「生きてるか、クソガキ共?」
「あ…………」
部屋には、発砲音に驚いた子供達がいただけで、レックスやアティ達の姿は何処にもなかった。
俺は直ぐ様窓の外を覗き見て、様子を確認する。
窓の外に写るのは、
勇人「………海賊旗か」
「海賊っ!?」
勇人「ま、この船にも警備兵くらいいるだろうから、放っておけば……」
言ったそばから、窓の外から、警備兵が海賊に殺られている姿を視認する。
勇人「使えねー奴等だな」
「なぁ、どうするんだよ、おいっ!?」
1人の子供が、酷く狼狽えた様子で、俺に叫びながら聞いてくる。
勇人「……しゃあねぇなぁ、ったくよぉ」
また溜め息を吐き出す俺。
幸せがドンドン逃げていってる気がするが、ま、しゃーなしだ。
勇人「レックス達も戻ってこねーし……お前らはボートを使って脱出してろ」
「……貴方は………?」
勇人「ちょっとアイツらをしばき倒してくる」
「何人海賊がいると思ってるんですか、貴方だけで何が出来るって言うです……?」
勇人「アイツらブッ飛ばすくらいは」
「本当に?」
勇人「ああ、だからついてこい」
「………うん」
不安げにしてるガキ共の頭を撫で、俺達は甲板に向かって歩き出す。
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