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真夜中のバラッド


ルークは宿の窓から味気ない空を見上げた。
「あいつ、来ねぇのかな」
あいつ―――アッシュはルークの心を捕えて止まなかった。
始まりの場所はタルタロス。
あの場所ではじめて人を刺し殺した俺はアッシュと出会い、そして―――――。
「あぁーーくそっ!」
そこまで思い出して体がほてる。
主張し始めた己を押し止どめる様に布団に潜った。
「バカ、アホ、マヌケ……アッシュのバカ」
「バカはお前だろうが、屑が」
「あっ……!アッシュ!何でここに?!」
「なんだ、呼んだのはお前だろうが。それにしても俺の事をよくもボロクソ言ってくれたじゃねぇか」
たらり、とルークの背中を汗が落ちる。
こういう時、アッシュはたいてい俺を手酷く扱う。
それは嫌だ!
「ごめん………」
「そうだ、それでいい。さっそくだが俺は腹が減っている。喰わせろ、ルーク」
そう言いながらアッシュはルークに近付く。
その目はまるで肉食獣の様にギラギラと陰湿な輝きを帯びていた。
これだ、この目だ。とルークは思った。
自分を捕えて止まないもの。これが俺を支配するんだ。
そう思っている間にもアッシュは近付いてきてルークの手を掴む。
そして、――――そしてルークのむき出しの首に噛み付いた。
「あっ……!」
ちくり、と痛む。そこから血が抜けて行く感じがした。
「あっ…んぅ……んん!」
ちゅぱっとリップ音がして首からアッシュの口が離れた。
ルークが倒れそうになるのをアッシュが手を差し込んで阻止する。
「ご馳走さま」
「おまっ……!飲み過ぎだっつの!立てねぇじゃねぇか!」
「腹が減っていた。しょうがねぇだろうが」
「しょうがねぇじゃねぇ!死ぬかと思ったんだぞ!」
「俺がお前を殺す筈がないだろう」
そう言ってアッシュは不敵に笑った。
そして既に赤くなっているルークに追撃を加える。
「それでもお前は俺が好きなんだろう」
「なっ………!」
今度は耳まで赤くなった。
追撃は成功。アッシュはニヤニヤと笑った。
「…………バカ」
「屑にバカと言われるのは癪だがまぁいい」
「何がいいんだっつの。………今夜は一緒にいれるんだろうな」
「当たり前だ」
ルークはアッシュの、アッシュはルークの背中に手を回した。



始まりの場所はタルタロス。
あの場所ではじめて人を刺し殺した俺はアッシュと出会いそして、――――そしてアッシュは俺に噛み付いた。






あきゅろす。
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