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雪桜伝
おまけ一





朧がキッチンから出てくると、背後から幼く大人びた声が聞こえた。

「…十六夜がアナタの為に頑張っていらっしゃった事は知っておりますのでしょう?」

溜め息とも苦笑とも取れる声に朧は彼女の方を向き、ニッコリと笑った。

「当たり前じゃないですか。ヨルは俺の大切な半身なんですから。」

「お可哀想に。」

月華の神の造形したと言っても過言ではない美貌は憐れみを持ってしても尚美しく輝く。

「どちらがです?」

「半身が変態のシスコンであった事が、ですわ。」

分かってらっしゃるくせに。ともう一溜息。

「…確かに、否定はしませんが、師匠に比べたらましですよ。」

「あら、心外ですわ。ワタクシにそんな、兄弟の泣き顔を見て愛でる趣味は御座いませんでしてよ。」

ニコリと微笑む月華に朧はそれこそ心外だと眉を潜める。

「あらあら、そのような顔。ワタクシに対して失礼ではございません?
ワタクシはただ、あの子がやりたいことは止めないだけですわ。」

「…それが、どんな最期を迎える事になっても、でしょう?」


口は笑っても目は笑わなかった。


「…霧霞が帰っていらっしゃったようですわ。十六夜をお助けに行かれては如何でしょう?」


「…クス、そうします。」


空気の和らぎに自然と笑みが零れる。月華に背を向け、来た道を戻ろうとした。だけど、声がその足を一時止めた。



「…昔は、あの子たちが泣くことが耐えられなかったのに。何故、今はあの子達の涙を望んでしまうようになったのでしょうね…?」


「それはきっと、…」


その言葉に彼女は珍しく驚く顔をしていた。彼はそれを嬉しく思いながら霧霞のプレッシャーに固まる愛しの妹を助けに向かった。





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