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壁の内側
 壁の向こうを見ようとしても、透視なんか出来るはずもなく。ボクはただぼんやりと向こうにいるであろう二人の兄を想像した。兄と言っても血を分けた兄ではない。物心ついたときから優しく、時に厳しく接してくれた「兄のような存在の他人」だ。

「くそっ! ふざけんな!」

 ボクの後ろでビリビリと紙を引き裂く音がした。左手を壁にぺたりと付けて振り向くと、これまた兄のような存在の者が苛立ちながらボクを睨んでいる。ミトセだ。お世辞にも良いとは言えないいつもの目付きでボクを捕らえると、大きく舌打ちした。

「まーたお前と一緒かよ、シト」

 お前と一緒、ということは今回の成績もいつも通りの結果になったのだろう。ミトセが三番目でボクが四番目。イチとフタセはどうなったのだろう。壁の向こうにいる二人の兄を思う。
 定期的に出される日頃の行い、業務の遂行具合等から割り出されるボク達の成績。基本的に四人一組にされ、一位と二位の者、三位と四位の者がそれぞれ共に生活や行動をするというのがここのルールだ。

「成績表を破いちゃ駄目だよって、イチがいつも言ってるじゃない」

 ひらひらと舞い落ちる紙屑に駆け寄り、思わず溜め息を漏らしながら掻き集める。随分と細かく刻んだものだ、どことどこを繋げたら言葉が完成するのかがさっぱり分からない。しゃがみ込んでいるボクを見下ろすミトセの眼は冷たくて、でもめらめらと燃え上がっていて、なにか言葉をかけようものなら飛び付いてきそうで怖かった。だからボクは黙って掬った紙屑をじっと見ていた。

「なんで俺は……俺はいつだって努力してるってのに、それなのにどうしていつも……」

 縮まらないフタセとの差を認めたくないのか、最後までは言い切らない。ボクはしゃがんだままミトセを見上げる。目が合うと大きな舌打ちが返された。
 爪先から踝までの距離のような少しの差しかない、ボクとミトセの成績。ボクはいつだって四位だけど全く気にならないし、これ以上なんて望んでいない。誰と一緒になったって良いし、フタセやミトセが言う「野心」というものが分からないからだ。
 そんなボクとの差がほとんどないのが悔しくて腹立たしいとミトセは言う。ボクはただこう返すことしか知らない。

「ごめんなさい」

 不意にイチのマシュマロにも似た微笑みを思い出した。
 薔薇を連想させる優雅な空気を纏ったフタセの切れ長の目を思い出した。
 二人の兄は今、どうしているのだろう。
 二人の兄なら今、どうするのだろう。

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あきゅろす。
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