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出口どっち?
 マサコちゃんとショーコちゃんにはオレンジジュース。衡と神谷にはコーヒー牛乳を出すと、自分のコーラをテーブルに置いて話を聞く体勢を取った。

「んと、じゃあまず翼兄ちゃん。寿太郎兄ちゃんからどこまで聞いてる?」

 コップの中のオレンジ色をキラキラした瞳で眺めていたマサコちゃんが、一番始めに口を開いた。神谷が神様の第三子で、神様になるための修行をしに人間界に来たということまでだと返す。え、それだけ? と目を丸くするショーコちゃん。うんそれだけと僕。きょとんと顔を見合わせる双子ちゃんの様子からして、どうやら神谷は説明不足のようだ。

「修行内容とか私達の兄弟のこととか神様のこととか、そういうところは知ってる?」

 ショーコちゃんの問い掛けに素直に首を横に振る。衡のイヤホンからヒップホップが音漏れしていた。寿太郎兄ちゃんたらそんなんだから駄目なんだよーとマサコちゃんが呆れかえる。神谷はコーヒー牛乳を飲みながらそっぽを向いて知らん振りしたけれど。

「あのね、本来は神様ってのは長男が継ぐものなんだけどね。私達のお父さん……つまり今の神様は、仕事は出来る人なんだけど、本っ当に凄い人なんだけどね。ちょっとだけ……本っ当にちょっとだけなんだよ、ちょっとだけ女遊びが派手で……」

 マサコちゃんの話をまとめるとこうだ。
 女遊びが派手な現神様は神様業を継いでも女遊びを止められず、そもそも何故妻は一人だけなんて決められなければならないのかと、五人の奥さんをもらったらしい。そして計十二人の子供を授かり、飄々と、それでいてきっかりと仕事をこなしてきた。が、世代交代の際に誰が神様を継ぐのかという、最初に気付けよとツッコみたくなる問題が最近になって浮き上がってきた。

「……そこで人間界に十二人の子供を修行に行かせて、帰ってきたときに一番成長した者を次の神様にするって決めたの」

 「神様」というのは人間界でいう、願いを叶えてくれたり幸せのために祈るような対象だったりはしないようだ。総理大臣、大統領、国王等といったような存在、要するに天上界の長だというだけ。人間界で一般的に言われる神様は一切関係ない。
 オレンジジュースをくいっと飲み干すと、ショーコちゃんは両手でコップを包んだままそう言った。

「修行って、具体的になにをするんだ?」

 それまで黙っていた衡が会話に入る。その音量で音楽を聴いていて、よく僕達の会話が聞こえたなぁと感心してしまう。

「んとね、人間界の人達に良いことするの。寿太郎兄ちゃんなら翼兄ちゃんにお世話になってるわけだから、翼兄ちゃんのためになることをすればいいんだよね」

 ほう、良いこと。
 僕のために、神谷が良いことを。

「……全然、ないんだけど、そんなこと」

 あれこれ思い起こしてみても、神谷に感謝した瞬間なんてない。あぁやっぱり、寿太郎兄ちゃんのことだからそうだろうとは思ってた。マサコちゃんはさもそれが当たり前のことであるかのようにしれっと言い放った。けらけら笑う衡は完全に他人事。まぁそうだろう、衡のところで世話になることになった双子ちゃんは修行しなくても良いし、元がしっかりしてるから修行は関係なしに良いことを沢山してくれそうだし。

「面白そうだな。神谷だっけ、俺も協力するぜ。マサコとショーコも預かるわけだしよ」

「面白くもなんともないだろ。この調子じゃ神谷、神様なんかになれないんじゃない?」

 コーラを一口飲み込んで、コーヒー牛乳が半分入ったコップをくるくると意味もなく回す神谷を見る。ハッと顔を上げた神谷と目が合うと、どこからそんな自信が沸くんだというくらいに胸を張って声高々と叫び出した。

「ふっふーん、私はもう今までの私じゃないでありますよ! 神様のちからセットがあれば怖いものなしでありますよーだ!」

「まぁ期待しとくよ」

 これっぽっちも期待せず、コーラをまた一口喉に通す。ピリピリと炭酸が弾けて気持ち良い。すうっと胃に向かってまっすぐ降りて行くコーラが羨ましいとさえ思った。
 だって。だってだって。今まで以上の嵐の日々が待ち構えていそうな予感がするんだから。永遠に続く迷路に放り出されたような虚しさに、涙が出そうなのをぐっと堪える。あぁ僕はどこに向かって行くのだろうか。

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