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15文字以内で
 ぐしゃぐしゃに荒れた畑。もうすぐ収穫するはずだった薩摩芋は、丁寧に掘り起こされ、ボロボロに切り裂かれている。僕と先輩と志埜ちゃんは、呆然とそれを並んで見下ろす。カサカサと落ち葉が風に流れる音がうるさい。運動部の掛け声やうろついている生徒達の話し声や笑い声は、別世界のもののように遥か遠くから聞こえるみたいに感じる。

「酷いことするねぇ」

 靴をあげると、煙草の吸い殻。この学校でも煙草を吸ってる奴がいるなんて。いや、教師か? こんなところに吸い殻を捨てる教師なんていないか。

「片付けましょうか」

 まず動いたのは志埜ちゃんだった。次に先輩が屈んで、最後に僕が腰を下げようとした。が。

「たーいへんでありますよ宇都宮殿ー!」

 ここ数日の頭痛の原因である声が聞こえた。でも待て。おかしいな。奴には家から出ないように言ってあるし、そもそも僕の学校がどこにあるかなんて教えていないはずだ。うん、そうだな、人違いだ。それか幻聴だ。つまり気のせいだ。僕が考えているようなこと、要するに神谷が学校に僕を追いかけて来たなんてことは有り得るはずが……ない、のだが、なぜだ。

「宇都宮殿、大変でありますよ、来てしまったであります、ついについに来てしまったでありますよー!」

「えぇいなんだお前! 家から出るなって言っただろうが! ついに来てしまったじゃないだろ、なんでついに来てしまったんだよ、鍵はどうしたんだ、空き巣が入ったらどうするんだ、どうせあと何時間か経ったら帰るってのになんで来たんだ、どうして来たんだ、どうやってここを知ったんだ、ついに来てしまったかそうかそうか迷惑だからさぁ早く帰って……」

「おーい、落ち着け少年よ」

 振り向けば僕の予想通りの人物がいたものだから、思い付く限りの文句という文句を浴びせてやった。だがそれの全てが空気中に放たれることはなく、先輩の手のひらが出口を塞いでしまった。

「なにー? 翼くんの知り合い?」

「はいっ。宇都宮殿のところで居候しながら神様になるべく修行をしているのであります、神谷寿太郎であります!」

 先輩にビシッと敬礼をした神谷は、珍しく瞳に強い力を宿していた。目の前に突然現れた台風のような奴の真似をして挨拶をしながら、先輩は腹を抱えてケラケラ笑い出した。
 先輩はこいつの言い出した突拍子もない話を信じるだろうか、普通なら信じないで怪訝な顔をするだろうに。あ、しまった。先輩は普通じゃなかった。先輩もまたどこか違う世界の住民みたいな言動をする人だった。

「神様って……面白いねぇ寿太郎くんは」

「私は真面目でありますよ!」

 そう叫んだ神谷の声に僕は違和感を覚える。なんだかいつもとは違う様子だ。先輩はいつもと同じ、ふわふわと笑いながらくすくす笑っているけれど、神谷はそんな先輩に少し苛立っているようで。そわそわと手足をばたつかせ、きょどきょどと視線をあちこちに彷徨わせている。

「そっかぁ、神様ねぇ。じゃあもし神谷くんが神様になったら、私はお願い事したい放題だね。応援するよ」

 僕は先輩の口を手でねじ伏せてでも黙らせたかった。そのくらい、今の神谷は只事でない焦りの色を全身から発していたのだ。よく考えてみれば神谷は、直感だけで行動してるんじゃないかと思うような行動しかしない奴だ。そんなこいつがこんなに慌てるなら、奴の直感が「やばい」と訴えているのではないだろうかと僕は考えた。

「お、おい、どうしたんだよ。って、ここでのんびり話してて良い内容なのか?」

 ぶんぶんと千切れそうなほど首を横に振った神谷は一つ深呼吸をした。震えながらなにかぶつぶつと呟いている。聞こえない、もっとはっきり。そう促せば促すほど、神谷の顔色は真っ青になっていく。

「場所を変えよう。でもその前に簡単にで良いから事情を教えてくれないか?」

「さっきまで昼寝してたであります、でも嫌な予感がして目が覚めて、そうだこの感じはもしかしたら近くにあいつらがいるんじゃないかと思って、ということは私はピンチなのでありまして、でもあいつらの気配はどんどん近付いて来るから、今はどうにも対応出来ないから逃げなくてはと思い立ったでありますが、どこに逃げようか散々迷ってそれでここに来たんであります」

「長い! そして意味がわからん! ほら、15文字以内に要約して話せよ」

「あう、えっと、要約……要約?」

「あーもういい! とりあえず行くぞ、行きながら15文字以内で説明しろ!」

 こいつ要約って言葉の意味、知らないのか? 要約して話せと言った途端、首を傾げておどおどし始めた神谷の腕を掴み、先輩と志埜ちゃんに畑を任せて学校を飛び出した。
 とりあえず状況の整理をしてみる。神谷の言ってることは肝心な部分が抜け落ちていて理解できないが、あいつら、ということは追っ手と思われる人間は複数いるということだろう。そして神谷はそいつらの気配を感じ取れる。僕の家に近付いて来たということは、家には戻らないほうがいいのであろう。
 思考回路をかつてないほどまでに回転させながら目的地もなく走っていると、目の前に立ちはだかる人物が。僕がよく知っている奴だった。そいつの後ろにちょこんと立っている女の子二人を目で確認した神谷が断末魔を上げた。
 神谷はあの女の子二人から逃げていたのか? でも、どうしてあいつがそんな子達を連れているんだ? 全く状況が掴めない。誰か本気で僕に15文字以内で説明してくれないかな。

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あきゅろす。
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