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遅咲きの金戔花04
「ねぇ、なんで千笑子ちゃんが寂しいの?」

 雨かま止んだ放課後、久々に煙草に火をつけたマサトは、心にも火がついたようだ。

「俺らが羨ましいんじゃないか? その言い分を聞く限りじゃ」

 なんだかんだでまだ千笑子ちゃんと会ったことのないマサトだったが、落とし物を拾ってくれたということもあって、好印象を持ってはいるらしかった。そんなマサトの返事に納得いかないのか、シンジはまだ首を捻っている。

「千笑子ちゃんにだって、仲の良い友達くらいいるんじゃない? だったら僕らの関係を羨むことなんか」

「どうだろうなぁ」

 僕は遮った。

「あの強気で素直じゃない性格だからなぁ」

「そんなの!」

 自分でも無意識のうちに興奮してしまったシンジが、一旦深呼吸をした。

「千笑子ちゃんには良いところもあるんだからさ」

 良いところ、ねぇ。例えば?
 僕が聞くと、シンジは腕を組んだ。

「物を拾ってくれること!」

「リスじゃないんだぞ」

 我ながらなかなか良いツッコミだと思う。僕は声を出して笑った。僕の笑いが治まった頃、マサトがぽんと手を叩いた。

「出血大サービスだ。その千笑子ちゃんとやらを救う会として活動しようか」

 久々の煙草はとても美味いそうだ。ツヤツヤに戻った肌は眩しかった。機嫌が良いマサトはどこまでも突っ走る。

「友達がいるとかいないとか、そこは分からないけどなにか悩みを抱えてはいそうだからな。恩返しがてら、助けてあげようぜ」

 ドロップの缶の中に煙草が消える。それを合図に、僕等は千笑子ちゃんを救う会の計画を練った。どうせ放課後は学校にいないことだし、明日、すぐに動けるように準備を始めた。
 翌朝、慣れない早起きで頭がくらくらしながら学校に行くと、約束の時間ギリギリなのにシンジがまだ来ていなかった。

「遅くなってごめんねぇ」

 息を切らしながらシンジがやって来たのは、約束の時間を十分もすぎた後だった。こんなところでビリケツっぷりを発揮してくれなくてもいいのに。
 僕らはそのまま一年二組の教室へ向かった。始業一時間前のこの時間帯に学校に来ているのは、部活熱心な者ばかりだった。僕は少し誇らしくなった。
 一年二組の教室にはまだ誰もいなくて、夏の朝の日差しがさんさんと光を降り注いでいる。僕は昨日見た千笑子ちゃんの席をマサトに教えた。マサトは千笑子ちゃんの席につき、僕とシンジは机にもたれかかった。吐くまで吐かせるつもりなのだ。

「これで欠席とかだったら、今後一切俺の私物に触るなと言っといてくれ」

 そう言っても拾って来そうだけどなと、僕は言った。マサトは聞いているのかいないのか、ポケットから煙草を取り出そうとして止めた。
 一年二組の生徒と思われる奴等はちょびちょびと登校して来て教室に入ろうとしていたが、いつもの朝とは違う異様な光景に首を傾げながらそそくさとどこかへ行ってしまう。マサトがちらりと入り口を見ると尚更だった。マサトのことはいろんな噂で知っているのだろう。僕はまた誇らしくなった。だが、何人目かの女の子は違った。始業二十分前。教室の異変に気付くとため息を漏らし、落とした肩をあげると共にどうしようかと言いたそうに頭をポリポリと掻いて、決心したかのように教室に入って来た。ずかずかと僕らに近付いて来て、平然と座ったままのマサトをぎろりと見下ろした。

「そこ、私の席だから退いて」

 机の上にマサトの手が載っていたが、千笑子ちゃんはお構いなしで鞄をドサリと置いた。マサトは一瞬、眉を寄せただけだった。さすが痛いのには慣れているだけはある。
 外からはサッカー部の掛け声が聞こえる。太陽の光が少し強まり、すぐに元に戻る。実に静かだ。時間が止まったみたいに。シンジだけが心配そうにハラハラしている。僕はそんなシンジの表情を見ているうちに、だんだんおかしくなってきた。

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あきゅろす。
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