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黒白ノ風
214 吊上
 「おいしい」
サイの口角が、自然に吊上がったような気がした。
 「マジ!?私も食べよっと!」
なんだか嬉しくなり、私も目の前にあるパフェをスプーンですくい、口に運んだ。
瞬間口に広がる甘いクリームとそれにうまい具合に絡まる黒蜜。
 「うひゃ〜、うまいー!」
あぁ、もう、幸せだ。
 「フフ、幸せそうですね」
 「わかる!?この気持ち」
 「えぇ、あなたを見れば一目瞭然ですよ」
 「うふふ、サ…っと、君の木綿豆腐貰うよ〜v」
サイと呼びそうになったが何とか抑え、スプーンでタレのかかった木綿豆腐をすくいあげた。
 「うわっ!こっちも中々!!」
豆腐自体もおいしいけど、タレもそれに劣ることも勝ることもしなくて絶妙な味を出している。
うん、75点だ!

 「そうだ!私習字一回やってみたかったの!!今できる?」
 「・・・えぇ。できますよ。…それと、ボクが墨で書くのは習字ではなく墨絵ですよ」
 「見たい!」
 「・・・」
サイはポーチから簡単な紙と筆を取り出した。
 「・・・好きな動物は?」
 「兎!」
迷いもなくそう答えると、サイは筆を動かし始めた。
紙の上をすらすらと滑る筆。
みるみるうちに白と黒の兎が出来上がった。
 「おー!」
思わず拍手。
するとサイはその紙を私に差し出した。
 「よかったら差し上げます」
 「いいの?…ありがと!!」
…かわいい。
それに、あんなに速く描いていたのに鮮明な筆使いと細かい線。
凄い。

 「…私もやってみたい!この後いい?」
 「…任務がありますので、無理ですね」
 「そか。まぁいいや。また今度教えてね!」
 「ハイ。また今度会った時に」
サイはもう私とは会わないとでも思っているであろうか、約束してくれた。

その後、話をしながらそれぞれが頼んだ甘味をたいらげた。
 「今日はありがと!」
 「こちらこそ、暇潰しになりました。ご馳走様」
 「そうだ。私は水野サチ。君の名前は?」
今のサイに名前はあるのだろうか。
 「・・・」
予想通りだんまり。
 「…んじゃあ、あだ名つけるわ。んーと・・・KYでいい?」
 「KYですか。独特ですね…ではボクはこれで」
KYの意味をまるで理解していないサイである。
 「ばいならー」
そんなサイを私は手を振り、見送った。

…さて、もうそろそろだ。
時間が動く。
それまであと少し…

微万事篇 完

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あきゅろす。
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