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たった一度の恋だった―和服ヒバ同盟の御題より。
たった一度の恋だった

『紫騎、お前を利用させてもらうぞ。紫騎がいると雲雀が大人しくなるからな。』
『言い方は悪いがそういうことだ。恭弥の側にいてやってくれよ。』

そう言われた時、不思議と嬉しかったのを覚えている。

雲雀さんには、いつでも応接室に入ることを許されていた。
ただそれだけの仲だったのけれど、リボーンちゃんとディーノさんはそう言って私を頼ってくれた。


「雲雀さん。」
「何?」

「リボーンちゃんとディーノさんに雲雀さんのこと任されたので、これからは私が雲雀さんのことをずっと見てますからね!!」

「ふぅん」
興味なさそうに一言呟くと、雲雀さんは立ち上がって私の目の前に来て。

「ずっと見てるってことは、僕のものになるってことだね。」
少し悪戯っぽい笑みをみせた。

「…へ?」


思えばあの瞬間、私は貴方に恋をしたのかもしれない。


「あれから、5年かあ…」

私は普通に就職して、そして…もうすぐ結婚することになる思う。
一昨日、プロポーズをしてくれた相手の人は26歳のお医者さん。返答に困っている私をみて返事は急がないよと笑ってくれた。
一緒にいて話していると凄く落ち着ける、優しい人で…雲雀さんとは性格が合わないだろうな、なんて思って一人自嘲した。



「なんでそんなに挙動不審なの?」
「な、なんでって…!」

彼の前にいるとまともな行動が出来ない私をみて雲雀さんは楽しそうにしている。

もしかして、からかわれたのだろうか??

「ひっ、雲雀さん。もし前の言ってたことが冗談だったら私―」
「好き。」

冗談だったら私、怒りますからね!
言おうとしていた言葉が所在無げに空気に溶けていく。

「紫騎のことが好きなんだ。だから僕のものになってよ。」
今度は笑っていなくて、真剣な眼が私を映している。

どきどきしすぎてどうにかなるんじゃないかって思った。
本当に…本当に私のことが好き…?

「…っ!」
私は嬉しすぎて思わず涙ぐんでしまった。だって雲雀さんは嘘をついたことなんて一度もない。
雲雀さんは「何で泣くのさ」と笑って指でそっと涙をぬぐってくれる。

幸せ。
喧嘩したり色んなことがあるけど、ずっと一緒にいられると何となく思っていた。付き合ってからも私には、幸せな時間が流れていったから。

でも、それはほんのひとときだけのもので―


『悪ぃが、紫騎は連れて行けねえんだ』
『…二人の為なんだ…つらいことだとは分かっている。だが…。』

あいつの為を思うなら、当分の間離れてやってくれないか?


そういわれたとき、私の中で何かが崩れていく音がしていた。

離れる?だって皆今までそんなこと言わなかったじゃない。
祝福してくれていると、思ってた。

…心の隅では何となく分かってる。リボーンちゃんとディーノさんがそういう理由。
皆、私の知らない所で危険な目に合ってる。
…それがどういうものなのか分からないけれど、良くマフィアとか危ない単語が出ているから私の勘は間違っていないと思う。

私には知られたくないことみたいだから詳しくは聞いてないけど。

そんな訳だから私は皆の役には立てない。
でも、でもっ…!どんな事情があったとしてもそれが私達のためだといわれても


雲雀さんと離れたくないよ…



「よ、紫騎。久しぶりだな。」
「えっ、…ディーノさん??」

喫茶店でおしゃべりして友達と別れた帰り道、懐かしい顔に私は足を止める。
彼とは4年と2ヶ月ぶり(くらいかな?)になる。

「お前、綺麗になったな。」
「はいはい、ありがとうございます。ディーノさんはおじさんっぽくなりましたね?」
「え!?どこが?俺どっかやばいのか!」
「ぷっ…嘘ですよ。まだまだ若いです。」

月日が経過しても変わらない大切な人に出会えた私は久しぶりと言ってもいいくらいに満面の笑みをみせた。

「皆元気にしてますか?」
手近なお店に入った私たちはコーヒーを飲みながら訊ねる。

ディーノさん以外の旧知には、3年ほど会っていない。
皆イタリアを中心に海外に行ったりして日本にいることが少なくなった。
それに日本にいたとしても電話で話すぐらいだ。

「ああ、元気だぜ。うるせーくらいだ。」
「獄寺君を筆頭として?」
「ああ―ってなんで獄寺の名がここで」
「…ふふ。だってツナ君の前では一番うるさ…失礼、おめでたい人でしたから。」

「それ言い直した意味ないぞ。寧ろ悪化してないか?」
「愛故ですよ。…獄寺君が聞いたら怒りそうですけどね」

そういって私はもう一度笑う。獄寺君もツナ君も山本君も、皆大好きだった。
楽しい時間が私の胸にある。思い出すだけで、私はまた前を向いて歩けるような元気を貰える。
でも…

「なあ紫騎。気になってるのは皆のことだけじゃなくて、…雲雀のこと…だろ?」
目を見開いた。

雲雀。その名前を聞くと、楽しい時間とは違う思い出が胸を締め付ける。



「何言ってるの?」
「だから、…私と別れて欲しいの」

応接室で言った言葉。私は自身の発言に胸が痛んだ。
私だって本当は…こんなこと言いたくない。

「理由を聞かせてよ。」
「理由…?そんなの決まってるじゃない。」

必ず聞かれると思っていた質問だから答えは用意してある。

「好きな人ができたの…っ」

雲雀さんとは違って優しい人だよ。
そういった時の彼のなんともいえない寂しそうな顔が今でもはっきり脳裏に焼きついている。

「嘘でしょ。」
私を見つめる双眸の瞳。嘘が見透かされそう。

「とにかく、私は…一緒にいると危ない目に合うから雲雀さんの側にいたくないの!!だからもう話しかけないで!」

私もここにはもう来ないから!


目を逸らして一方的に喋ると応接室を飛び出した。
ただがむしゃらに走る。その途中で躓いて勢い良く転倒した。

痛い…

「ううっ…」

痛いよ。

「ひ、ひばりさ―っ、ひっく」

もっとずっと側にいたかったのに…



私には、「離れる」ということは「別れる」ということだと思った。
一緒にいられないなんて辛過ぎて耐えられない。
それならいっそ別れてしまったほうがいい。

早く私のことなんて忘れてくれれば良い。
そうして貴方はずっと強く前を向いて歩いていって欲しい。
それが雲雀さんらしいし、私が好きになったところでもあるから。


以降ろくに話もしないまま中学を卒業していった雲雀さんとは連絡もとらず月日は流れた。

たった一度の恋は終わった…いや、私が終わらせたのだ。
いつだって、自分から手を伸ばせばどうとでもなったかもしれないのに臆病な私にはそれができなかった。

廊下ですれ違う度、他人のような態度で私を一切みてくれない雲雀さんに傷ついて。

…別れて欲しいと望んだのは私なのに何と勝手な思いだろうと自分をたしなめながら―
結局、雲雀さんへの想いも断ち切ることができないまま。

ここまで来てしまった。



「…雲雀さんは…元気ですか?」
雲雀という言葉を口にしようとするだけで唇が勝手に震えてしまう。
全身が熱くなる。

「……ああ。」
ディーノさんが目を細めて微笑む。

「そうですか…良かった。…あそうそう。私、もうすぐ結婚するんです」
「…え?」
知人に告げる初めての報告。彼の目が驚きに見開かれたので苦笑して続ける。

「相手は凄く優しい人だし、結構お金持ってるんですよ!?いやーこれで私も玉の輿!みたいな?…あはは…」

「…いいのかそれで?」
つむがれた言葉にかっと顔が赤くなった。

「…いいんです…!だって、」
離れてくれって言ったのはディーノさん達でしょう!?

叫んで、きついことを言ってしまったと思った。でも彼らに言われなければいずれ別れることになったとしても、もう少し長く一緒にいられただろう。
少しでも長く…

「悪かったと思ってるよ。すまん。でもな…本当にお前が大切なものなら諦めんなよ」
「…」
「その結婚する相手が好きだってんなら何も言わねえよ。でも」
「好きですよ?だから結婚するんです。私はそれで幸せなんで―」

「恭弥、帰ってきてるぜ。」
「!!?」
呼吸も私の中の機能しているものも全てが止まった気がした。
今、なんて…?
どくどくと心臓が早鐘を鳴らす。

「今日本に帰ってきてるんだ。…言伝も預かってきてる。」
「―っ」


「会いたいか?」
「会いたい…っ」

自分で無意識の内に即答して、言葉に詰まってしまう。
今更会ってどうするというのか。

「じゃあ、並中に行け。今じゃ時間的に早いからな。あと30分くらいしてから―」
「やっぱり行きません。」
「紫騎」
「いいんです。もう…向こうも会いたくないだろうし。」

「会いたがってたぞ。恭弥は。」
「!」
体が震える。そんな筈ない。でも、…

「口には出さないけどな。分かる。…拠点をイタリアにしてから、俺はアイツに話したんだ。どうして紫騎が恭弥と別たいと言い出したのかを」

「な、なんでそんなこと言うんですか」
「恭弥が馬鹿みてえにお前のこと考えてたからだよ。それで修行にも身が入らない。
危険から回避させる為に強くしようとしてんのに、このままじゃ本末転倒だって話になったからな。」

「…雲雀、さん…」

私と一緒の思いでいてくれたの…?
別れたあの日以来、家に帰れば習慣のように泣いていた私のように。
雲雀さんも私のことを少しでも思っていてくれたのなら、私は。

「まあそれ聞いて日本に帰ろうとした恭弥を無理に引き止めて」
「ディーノさん、私これで失礼します。ありがとうございましたまた会いましょうではさようなら!」

急にまくしたてるように喋った私はお札を一枚机の上に置いて走り出した。
このままここでじっとしていられない。

「お、おい待てよ!!…ったく……まだ30分も早いって言ってんのによ…」




雲雀さん…雲雀さん。


たった一度の恋だった。

そう言って逃げてた私にも、まだこんなに溢れるほどの想いが詰まっている。

会って何を言えばいいのかなんて分からない。向こうにはもう彼女がいるのかもしれない。
ただ雲雀さんは私に文句を言いたいだけなのかもしれない。


でもそれでも…会いたい。



「はぁっ、はぁっ、あたっ!!」

いつかの日のように、躓いて転倒してしまった。
…ヒールのついた靴なんて履くんじゃなかった。

「はあっ、はぁっ、…並中…」
行かなきゃ。
転んでいる時間も勿体ない。

立ち上がって走ろうと左足を前に出しかけて、止まった。
春の穏やかな風が私をすり抜け通り過ぎてゆく。

そう言えば、最初に出会ったのも春だったね。

「紫騎。」
低いテノールが体に染み入るように聞こえてくる。

「…っ、雲雀、さん…!」

ああ、まだ名前しか呼んでないのに…
涙が溢れて喉がつかえて二の句が告げない。

「ふっ、うえ」
「また泣いてるの?」

身長伸びたね。前より大人びて格好よくなっちゃって。
なんて笑って言いたいのに。

「紫騎」
もう一度優しい声で私を呼ぶ。
そんな風に言われたら余計泣いちゃうから辞めて欲しいのに。

「好きだよ。」
強く抱き締められて囁かれた。

「だから、僕のものになってよ。」

あの日と全く同じように涙を指で拭ってそう言ってくれた。

「ご、めんなさ…」
あの日、別れようなんて嘘ついてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。

私の言いたいことは伝わったらしく彼は小さく笑いながら頷いた。

「うん。」

「わっ、たしほ、んとうはっ」
「僕のことが好きなんでしょ?」

「うっ、ん…」

ああ、もう言いたいことはっきり言えないわ涙はあとから流れてくるわでわけわかんない…!

「ほら、もう泣きやみなよ」
「ん…」

再び私の涙を掬おうとしてくれたので私は瞳を閉じた。

「…」
何故か頬に添えられた手にはてな?と頭に疑問符を浮かべていると。
そっと唇が重ねられた。

「んっ」

ねえ雲雀さん。たった一度の恋はもう終わったから。


今度はたった一度の愛を貴方の側で育てながら生きたい。

だから…もう一度側に置いてくれますか?
今度は絶対、この優しくい温もりを離したりしないから。




おまけ。

「雲雀さん、お誕生日おめでとうございます!」

今日は08年5月5日。
雲雀さんが生まれてきてくれた日。

「あまり興味はないけどね。ありがとう。」
そう言って雲雀さんは笑った。

「ところで、誕生日って何でも言うこと聞いてもらえる権利あるよね?」
「え?!」(なんて自分勝手な解釈!!?)

「聞いて欲しいことが2つあるんだけど。」
「私にできることなら…!」

どんなこと言われるんだろう…?紫騎、ドキドキですよ!?
というか何で敬語になってるんだろう、自分(威圧されてるから??)。

「一つ目は、26歳の平凡な医師から受けたプロポーズを断ること。」
「あ、はい…って何で知ってるんですか!?」

「二つ目。」
「(無視!?)はい、何でしょう…?」

「僕のプロポーズを受けること。」
「え…?」

「はい。でしょ返事は。これ渡しておくよ。」
「へ、これって…指輪?」

「うん。」
平然としている彼に対し、私の頬は赤く染まる。
…どうして唐突にそんな嬉しいサプライズするかな…いや何度も言うように嬉しいんだけどね?

「あの、これ誕生日関係ないんじゃ…」
「返事ははい以外聞かない」

「う、(話聞いてくれない)…はい。」

「ありがとう。…じゃあもう一つそれに伴って聞いて欲しいお願いがあるんだけど。」
「……もう何でも言っちゃってください。」

「恭弥って呼んでね。苗字変わるから必要なことでしょ?」
「そ、そうですね…」

「最後にそれに伴って―」
「一体何個あるのよ!?」
「これで最後。…紫騎が大好きだよ。」

「ふぇ、なななんですか急に!?」

「だから紫騎の全てが欲しい。…いいかい?」
えっとそれは…どういう…よ、良く分からないけどこれは断るに限りますよね!

「だ、駄目ですここ全年齢対応なんで!!」
「?何のこと?」

「とにかく駄目ですっ!!」
「…ちっ」

「舌打ちしないで!」


まあそんなわけで雲雀さ―おほん、恭弥//(まだ照れるよ)の誕生日は楽しく過ごせましたとさ。

めでたしめでたし?

「そうだ、もう婚姻届は出してあるからね?」
「いつの間にッ!?」



あとがき。

ヒバさん、お誕生日おめでとうございます!

こんなにキャラを愛したことがない私ですが雲雀さんへの愛は永久だ!と勝手に思ってます。
(どうでも良いよねby雲雀)

この度は企画に参加させて頂き本当にありがとうございました。
一人だけ何か長文で気がひけるんですけど大丈夫かなドキドキ…
見てくださった方がちょっとでもきゅんVvとしてくれたならもう幸せでございます。

ではこの辺で。今日はヒバさんパーティーがそこかしこで行われているでしょう!!
私もケーキでお祝いしますよ!!雲雀デー万歳☆

それではまた会えたらその日まで。ここまで拝見して下さった方に感謝を込めて。

雲雀のお誕生日をこういう形でお祝いできて幸せな黒澤でした。

08.5.5 黒澤涼子


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