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導かれるように伸ばされた光―骸夢、シリアス系?3、4回視点変わります。


マフィアは僕にとって憎むべき相手。


そして彼女は―

ボンゴレファミリー、つまりはマフィア側の人間。


本来であれば、憎むべき相手であり手段のはずの彼女は
何故か、僕たちに光を差し伸べている。いつも。







「クロームちゃん、犬、千種〜?いる?」

「……いる」
「なんらよお前。また来たのかよ。」


「来ちゃ悪いの?千種も私をチラ見して再び本読まないでよ。
寂しいでしょ?」


「別に。普通だし。」


「はぁ。…ここに住んでて本当に大丈夫なの?3人共。
はいお土産」


「ひゃはっいたらき!」

「はいはいはいちょっと待って、今切るからね。」



そういった紫騎は
私達にケーキを持ってきてくれたみたい。

苺のショートケーキだって中をみせてくれる。


…美味しそうというか、綺麗。食べるの勿体無いな。



犬が顔をしかめ早くしろって急かす一方で、
立ち止まった彼女は私に訊いてくれた。


「クロームちゃんはケーキ好き?」

「え………好き?…食べたことない。」



「嘘!?女の子でケーキ食べてないなんてありえない!

よし、今日はクロームちゃんと私の2人でこのケーキを食べよう。」


言ってすぐにキッチン(包丁があるところ)へ
向かおうとする彼女に犬が抗議の声をあげた。


「ちょっと待てよ!俺らに
買ってきたんらねーのかよ!ずっりーぞ!」

「だまらっしゃい!」
「あて!…っ暴力女!」

「はい〜?」
「(びくっ)」


「くす」

思わず噴出してたら2人が凄い形相でこっちをみる。

「ごめん。」


だって面白かったから。

…まるで姉と弟みたいに仲良く喧嘩した2人が
楽しそうで、ちょっぴり羨ましくて。


「もうっ…わかったわよ、
犬には16分の1だけ分けてあげる。」


「すくな!」
「文句言うな。」


言いつつ彼女は綺麗に五等分にしてケーキを持ってきた。

犬はまるで誰かにとられちゃうと困るみたいに慌てて
ケーキを食べ始める。


「うっめー!」

「確か…ラ・ナミモリーヌってところのケーキだよ。
味は保障つけます。

クロームちゃんも食べて?ほら、千種も。」



「うん。いただきます。」
「……めんどい」

「いいから食べるの!」

「いただきます。」


初めて口に入れたケーキ。


食べた瞬間、口にふぁっと甘みが広がる。


スポンジのふわふわ軽い食感と、それとはまた違う
ふわふわ感のある甘いクリームが口の中で混ざり合って…

凄く美味しい。


上に乗った甘酸っぱい苺と食べるとクリームの甘さが
際立って更に美味しかった。



「凄く、美味しい…」

「でしょ?良かったぁ。
クロームちゃんに美味しいって言ってもらえて。」



にこりと惜しみなく注がれる笑顔。
彼女はこのケーキに少し似ていると思った。


「千種は?美味しい?」
「…普通。」

「まあ、なんてお土産買ってきがいのない。」
「(買ってきがい?)…美味しいよ。」

「よし。」


本当にお姉ちゃんみたい。

私に兄妹はいなかったけれど彼女が私の
お姉ちゃんになってくれたら

凄く毎日が楽しかったんだろうな。

なんて贅沢すぎることを心に描いた。



「どうしたの?クロームちゃん。」
「なんでもない。」

「?そう?」
「うん。」


「あと一個あんじゃん!俺貰っていい?」


皆がお皿にケーキを載せて一切れ残ったそれ。

犬が手を伸ばしかけた瞬間―


「っ、駄目。」
「…あ?」

「それは、…あの人の分だから。」
「……紫騎?」



「クロームちゃん、訊いてもらってもいい?」
「え…?」

「その、…骸、さんに。ケーキ食べませんかって」


躊躇いがちにつむがれた言葉。
ああそうか。

この一切れは骸様の為に―



「食べるわけねーびょん!」
「犬。…訊いて見なきゃわからないでしょ」


「……へいへい。」



伸ばしかけた手を引っ込めた犬。



「……」

「じゃあ、訊いてみる。」


みんなの視線を受けた私は骸様へ話しかけるべく
深層まで意識を沈めた。





―骸様、骸様…






―どうしたのですか、クローム。



深層。そう呼べる深い湖の底のような意識の中。

骸様はいつもと変わらない表情で私を招きいれてくれた。



―骸様、紫騎が骸様にケーキを食べてほしいと言ってます。



骸様の表情は微かに曇る。



―そうですか。それでは丁重にお断りしておいてください。

僕は今ケーキを食べたいとは思いません。



私に背を向け遠い先を見つめる彼。



―骸様。紫騎に会いたいのではないですか?



零れた言葉が骸様に届くと彼は少しだけ肩を動かした気がした。

(本当に、気がしたという程度の微かな
ものだから私の勘違いかもしれないけれど)




―何を言っているのです。僕は…別に彼女のことなど


―私は紫騎に会いたかったから。…骸様


―なんですか?



―ケーキ、美味しいですよ。



素直じゃない貴方だから、遠巻きにそう伝えたら彼は
ほんの刹那オッドアイの瞳を揺らした。


少しの迷いが私にも伝わってくる。



―クローム…―















しゅううううう


「!」

立ち込める煙に息をとめた私。


もしかして―


期待と不安いっぱいで早鐘を打つ胸を押さえて、
煙が晴れるのを待つ。


その先にいたのは―



「…クフフ。」



まぎれもなく骸さん本人だった。
でてきてくれたんだ。


「骸さん!」
「骸様…」

犬と千種が骸さんに駆け寄る。


「こんにちは。少しだけクロームに休んでもらいましたよ。」


そう言った骸さんの瞳が私を捉えた。




「え、っとあの、お久しぶりです…」

「おや、つれないですね。
夢では毎日お会いしているではないですか。」


「!な、なに言ってるんですか!!」


いきなり口からでまかせの発言に
私は突っ込みを入れておいた。


骸さんは、私の夢になんてめったに出てきてはくれない。


(月に一回でてくればいい方で…)

それまで私がどんな思いで骸さんを待っているか…



…?

(って別に私なんとも思ってないし!!)


危ない危ない、何会いたいみたいに思ってるんだ私は



「と、とにかくさっさとここにきてさっさとケーキ食べて
さっさとクロームちゃんと交代して下さい!」


「何いってんらてめー」
「落ち着きなよ犬。」


「そうですね。僕もこの姿を長く維持することは
難しいですから貴方の言うとおりにしましょうか。」


















僕の出現に一番驚いていたのは、
呼び出そうとしていた本人だった。


あまりに驚き戸惑うその表情が可笑しく思えてからかうと
紫騎はそんなことはないと力強く否定する。




「さて、ではいただきましょうか。」


幾分彼女に会いたくない、といった気持ちが和らいだ
僕はソファに腰掛けた。


前より微かに大きな音を立ててソファは軋む。
老朽化が進んでいるのだろうか。



僕はあまり気が進まないながらも
フォークを手に取ると一口、口に運んだ。




ケーキは、好きではない。



例えるならまるで世の中を甘く考えている連中が
作ったモノのような味がするから。


ふわりと軽いスポンジは
何も考えていない、無垢で無知な思考を


上に載せられているクリームはその思考を更に
低下させる誘惑を表わしているかのようだ。



「…少々甘い、ですかね。」

「そうかな。これでも結構控えめな方だと思うけど。」


僕の感想に自分のケーキを口に運んで首をかしげる彼女。

確かに女性であればこのぐらいが丁度いいのかもしれない。


「骸さんは…私の持ってくるお土産が口に合いませんか?」


複雑に揺れる瞳に僕を映して訊ねてくる紫騎。

口に合わないと訊かれればそうなのでしょうね。



「君の持ってくるものはどれも―
僕には合わないなと思っただけです。

別に嫌いではありませんよ」



紫騎はこのケーキに少し似ていると
思っていたクローム。

確かに、彼女の性格が現れているものばかりだと思う。




ケーキ、おにぎり、ホットケーキ、焼き芋、肉まん、寿司。



色々なものを土産と称して持ってくる彼女だが、
共通している部分はある。



「君は、柔らかい味や人の手が作り上げたものを好むのですね。」


彼女は首をかしげる。


「そうですか?そんなことないと思うんですけど…
たまたまじゃないですか?」


「たまたま、ですか。」

「うん、気分です気分」






では、僕を呼び出したのもただの気まぐれですか?






言いかけた言葉を僕は自分で制した。


ばかばかしい。
なぜそんなことを訊ねる必要があるというのか。



「そうですか。貴方は随分能天気な方らしい。」

「ちょっと、能天気ってどういう意味ですか!?」


「クフフ。そのままの意味ですよ。」


意地悪く笑ってみせれば口をへの字に曲げる彼女。



「やーい骸さんに言われてやんの〜」
「うるさい犬のバカ!」

「なんらと!?」

「辞めなよ2人共。」



「ご馳走様でした。」



三人に言うとソファから立ち上がる。


こんなことに付き合うほど僕も暇ではないというのに

(また、呼び出しに応じてしまいましたね)



思えば何度も彼女の呼び出しに応じている自分がいる。


クロームがあまりに楽しそうに僕を誘うからですかね。



「む、骸さん…もう戻るんですか?」


「おや?さっさとクロームと交代しろと言ったのは
紫騎ですよ?」


「そ、れはそうです、けど…」


口をもごもごして
自分の両手を絡める彼女はひどく幼くみえた。


まるで子供が親を引き止めるかのような、
そんな純粋でわかりやすい表現の仕方だ。



「君は…どうしてそんな眼をするんです?」
「え…?」


「氷之咲 紫騎。
貴方はボンゴレファミリーの一員でしょう。

マフィアは僕の敵だ。知っているでしょう、
僕が沢田綱吉を襲ったことは。」



「…知って、います。」

「では何故?」


僕に、僕たちに進んで関わろうとする彼女の意図がわからない。


騙そうとしていたり取り込もうとしているのであれば

すぐに気がつくが彼女にそんな素振りはない。


「そ、そんなこと…関係ないって言ったら
嘘になるかもしれないけど…

やっぱり関係ありません!」


「…は?」


「私はっ、ただ…皆と…
犬や千種やクロームちゃんや…骸さんと一緒にいるのが
楽しいから、好きだからここに来てるだけです。


それ以外に、理由が必要ですか?」




虚をつくほどの答えでもない。


それなのに僕の目が彼女を捉えて離さないのは、
きっと彼女の瞳が強い意志を表わしているから。



彼女がこんなにも強く気持ちを露にすることなんて、なかった。



「そんなに、僕たちが大事ですか?」

「……そう、ですね。」


「僕たちが沢山の人間をいためつけ、殺していても?

悪事に身を染めていてもそれがいえますか?」


「…過去は、戻りません。

確かにそんなことをしていたのなら悲しいことではあります。


でも私は…今の骸さん達を信じてます。


たとえその頃悲しいことをしていても今は違うから。」



「愚かな。」

「なんですか!?」


「まるで沢田綱吉をみているようですよ。ケーキのようでもある。」


「…はい?ケーキ??」



甘い考え、温い言葉。
そんなもの、大嫌いで虫唾が走る。



それでよかったのに。



その言葉にその思考に、揺れている自分があるなんて。


「……」
「……」


犬と千種は何も言わずにじっと僕をみている。

僕の態度が気にかかるのだろう。


僕はそれ以上何も発言はしないし言及もしなかった。

ため息をついて、ただ彼女に一言



「…また夢で会いましょう。」


アリベデルチ。



彼女から逃げるように、クロームに交代した。













紫騎はその後不満をたらたらクロームに
言っているようだったが

僕はその会話を聞くことはしなかった。



最近ずっと考えていたことが脳裏をしめていて後の会話など
訊く余裕がなかったというのが真実だ。





最近、ずっと考えていた―


沢田綱吉が僕にもたらしたものが
僕自身が考えていた「外のセカイの価値観」を変える
きっかけならば



氷之咲 紫騎。

君はまるで…



僕たちが導かれるようにして求めていた希望や親愛や

くだらないと思っていた感情を抱かせるために

伸ばされた一本の光のようだ。




その光が眩しくもあり、その光を掴んでみたくもなる。

そんな不思議と暖かい光を彼女は僕たちにもたらしている。




どうしてこんなにも彼女が気になるのか。




もしかしたら前世であっているのかもしれない。
敵対心からそういう気持ちを錯覚しているのかもしれない。



けれどどんなに仮説をたててみたところで結局導き出される光は一本。



その光の先はまばゆいほどの煌きに溢れている世界だから

僕はまだ認められずにいる。



その感情。


(恋や愛、だなんて…)


そんなもの、与えなくても良かったのに。






(骸さんって何考えてるのかわかるようでわからない)
(そう?私はわかるよ、骸様の気持ち)


(え?!教えてクロームちゃん!)
(…ないしょ)(えー!!)(ふふ)


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あきゅろす。
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