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私だけが知ってる。―まさかの(笑)持田夢!幼馴染でお互い口が悪いので嫌な方注意!
私だけが知ってる。

アンタの…


いいとこ。








「ふぁーあ。ねみぃ」

「うるさい。馬鹿面辞めてくれない?」

「お前がうるさい。隣で喚くな」



私は彼のあしらう様な態度にフンと鼻を鳴らした。






彼、持田剣介と私、氷之咲 紫騎はいわゆるくされ縁というヤツだ。

今は席だって隣同士。



ああいやだ。



昔から私はこいつが嫌いだ。


ぐーたらぐーたら授業中は真面目に不真面目。



可愛い女の子がいればすぐおっかけて
付き合おうとする尻の軽いやつだし。

手は早いし。


同じ部活の剣道部員の皆からはその性格の悪さから疎まれてるし。


全くもっていいところがない、顔だけが取り柄の男。




「アンタさ、いい加減にしなさいよ。…最近部活行ってないじゃない。」


「お前には関係ない。」


「そういえば髪型坊主にしたの、剣道部員でもない
駄目な男の子に負けたせいだって?

良かったわね元通りになってきて。」



私はやっと整い始めた持田の髪をぽんぽん触った。

彼はむっと眉をひそめる。



「辞めろ。…触んな。お前に部活についてとやかく言われる筋合いはねえよ」



今度は私がムッとする番だった。



「…あっそ!勝手にすれば?」



私はひとりで怒って教室を出て行く。






なによ、人が折角心配してんのに。
本当に馬鹿。


…年下の男の子に負けたくらいでさ。

(あれだけ必死に…練習してたクセに)



本当に剣道辞めるの?





私は知ってるのよ。


馬鹿で女癖悪くて軽い男だけど、あんたは―

人一倍努力もしてるってこと。




中学に入るよりずっと前から剣道をしていた持田。

最初は凄くへたっぴでみていられなかった。



「…えいっ、えいや!」
「あはは、そんなんじゃ私にあたらないよーだ!」

「う、ぐっ、負けないぞ!」

小学一年生の時は私にすら負けていた彼は



「おら、とっとと素振り始めろ!!」


中学生になると主将にまでなっていた。


…あのちっちゃくてすぐに泣かされてた奴がよく
ここまで成長できたものだと内心は感心してる。



私は知ってた。

貴方がずっと影で努力し続けてこの地位を得たという事。



私だけが知ってる。


そしてその夏、大会で惨敗してしまったとき―


「やっぱ俺たちじゃこの程度だったってことだよ。気にすんな!

おいおい、怒るなって!!」


わざとみんなの悔しさを憎しみへと昇華させようと
恨まれ役を買って出てたこと―





「ぐっ…ッうわぁああああああ!!」




ひとりになってから、こっそり悔しさに泣いていたこと。




私は知ってる。




馬鹿のフリしてるけど本当は頭だって結構回ること。



私は…知ってるんだから。



「本当は剣道したい癖に…」



なんで練習しないの?
剣道大好きなんでしょ?









「馬鹿面辞めてくれない?」

眠いと小声で呟いたら俺の隣の女が俺をみていた。

…うるせえな。俺の勝手だろ。
軽くあしらったらフンとそっぽ向きやがった。


フン。俺だってお前なんかと話したくねえよ。


隣の席の氷之咲 紫騎はいわゆるくされ縁というヤツだった。

俺はこいつが嫌いだ。


俺より頭が数倍良くて美人だとかで皆から愛されて
育ったような女。

運動神経は頭のよさよりも抜群で

授業中はいたって真面目。


男友達も多いみたいで
俺と並ぶといつも

「なんで持田なんかと一緒にいるんだ?」なんて
聞かれてやがる。


…はっきり言って気に食わん。



俺にとっちゃ「軽い付き合いはするな」とか
「もうちょっと真剣に勉強しろ」とか

口うるさいだけの女なのに。


なんでこいつはちやほやされてるんだ。

なんで気付けば俺のそばにちょこまかいやがるんだよ。

席が隣なのもありがた迷惑だ。




そんなことを考えてるなんて知らないだろう氷之咲は

やっと最近元通りになってきた俺の髪を無遠慮に触る。


眉をひそめた。


「辞めろ。…触んな。」

部活についても俺の勝手だと言ってやった。


するとこいつは勝手にしろと言って教室を出て行く。




俺はぼんやり氷之咲の後姿を目で追った。


―本当に剣道辞めるの?


そんな問いかけの含む目で俺をみてくる最近のアイツに
イライラする。


(お前は本当に自分勝手だよ)


勝手に人の髪触るわ頼んでもいない俺の心配するわ。

…俺がどんな気持ちでいるかわかったつもりみたいな顔してる。



(何も知らない癖に)


俺が剣道を始めた理由も、あの日ツナとの闘いに破れたとき
どんな気持ちだったかも


俺がどんな思いで毎日生きてるかも―


何もわかっちゃいない。


「ばーか。」

一人悪態をついて机に突っ伏した俺。

もういい。今日はこのまま寝てやる。


そう決めるとすぐに睡魔が襲ってきたのでそのままに意識を手放した―









「ちょっと、起きなさいよ。いつまで寝る気!?」
「うぅ」

甲高い声に唸り声でまだ寝かせろと抗議する。


「起きろってば!」

ゆさゆさと激しく体を揺さぶられては眠れない。


「ったく、うるせーなー」


まだぼんやりする頭を掻いて無理やり体を起こしてみれば


「早くしなよ。部活もうすぐ始まるから。」
「…………」

なんて戯言が聞こえてきた。


「…お前には関係ないって言っただろ。」
「あるわよ!」

「…」


彼女をみると今にも泣きそうで

そんな光景に少しだけ目が冴えてくる。ちっ


…そんなに必死になることかよ。



「本当は大好きなのにどうして続けないの!

剣道部員でもない子に負けて悔しいから?
皆から恨まれてるから!?

そんなの関係ないじゃない!…好きなら続けなさいよ…」


そう言って俯くと長い黒髪が彼女の表情を隠した。



…はあ。


「……お前さ、いい加減辞めろよ。
人に期待かけんのも人に期待もたせんのも。」


「は?何よそれ。」


どういう意味よと訴える瞳。



面倒くさい。今更。


そんな文字が俺の胸をよぎるがこの際だ。
今まで思ってたこと全部言ってやる。



「俺はそんな有能なやつじゃねえよ。」
「そんなの知ってるわよ。」

「分かってねえ。昔からそうだったよ。」


昔から俺が試合に勝てばキラキラした目で「凄いね」って笑って。

最近までだって勝ったら「ほら」ってジュース投げてきて

「お母さんがご飯食べてけだって」って別に母親が言ったわけでもねえのに祝勝会してたし。



「俺が剣道始めてずっと続けてたのはなんでかわかってんのか?」


「…好きだからでしょ。」

「そうだよ。お前が」



ずっと好きだったからだよ。



「…え?」


「ほれみろ。立派な理由なんかじゃねえだろが。」


お前が俺の髪触る度に抱き締めてえとか思うし

隣の席だった今は本当は毎日嬉しかったんだ。



だから毎日、サボらずに教室には来てた。
お前に会うために…とは恥ずかしいから言わないけど。



「…俺がこんな気持ち抱えてることだって知らなかっただろ?」


「っ…そ、んな…こと…」


氷之咲はらしくなくうろたえていた。

ああ、やっぱり、な。



「いいよ別に俺は期待してねえから。」


望みなんて、ないことくらいわかってる。

わかってたから他の女を好きになる自分を待ってたんだ。


結局お前以上に好きな奴はできなかったんだけどな。



「…剣道は、……お前を守るやつが現れるまで辞めないつもりだった。」

「…?」

「昔約束しただろ。氷之咲が小さい時泣いてたから―」



俺が強くなって紫騎ちゃんを守るから…!
だから、泣かないで。


「……それだけだ。」


たったそれだけ。
その日から俺は剣道の道を本格的に歩み始めた。


「は、馬鹿な話だよ。お前と俺じゃ釣り合うわけないのに。」

「!…どういうこと?」


「お前はなんでも持ってる秀才で俺は凡才以下。
おまけに剣道部員でもねえ男ににぼろ負けだ。

俺はお前に何ひとつ叶わねえ…守るも守らないもねえよ。」



「……」
「お前がツナとの試合をみにきてたのにはびびったけどな。」

「!なんで…?」


はっとしたように顔をあげた氷之咲。
驚きに変わってた瞳と視線が絡まった。


―そうだ。


彼女は今日「剣道部員でもない駄目な男の子に負けたせいだって?」

とまるで誰かから聞いたような口調だったけど。



「お前が見に来てたことぐらい知ってるさ。」
「!!」


「お前髪長いしな。すぐに気付いた。
だから――



勝ちたかったんだけどな。」




勝てば、彼女に少し認めてもらえる。
周りにも尊厳は保てる。
彼女を守れるという、自信がつく。


そう思っていた希望は粉々になってしまった。
俺らしいよ。


「…もち」

「今言ったことは忘れていいから。じゃあな―ぐはっ!?」

伝えるべきことは伝えて潔く去ろうとした時。



突如襲った下腹部の痛み。
そのままその場にしゃがみこんだ。


涙目になって見上げた先には
怒った氷之咲の顔。



「アンタ何一人で完結させてんのよ。ほんっっっっとに真正の馬鹿ね!」


「……だからって、殴ることないだろ…ぐぅっ」

確実にはいってる蹴りの痛みに唸り声を上げる。


「みっともない。女子に一発蹴られたぐらいで何座り込んでんのよ!

…持田だって…何にもわかってない。」


「あ?」


「私の気持ちよ。私が…どれだけアンタのこと知ってるかもしらないで。」


「……」


「私はね、どんなに持田が頭の回転がよくて
努力家だか知ってるの。」

「だから期待しすぎ」



「…知ってるのよ。あの夏の日持田が泣いてたことも」

「!な、なんで…」


「……(…)偶然、聞こえた。それに剣道だって
最近までは毎日練習続けてたことも。」


「……」


「私ね、…今まで言いたかったけど言えてなかったから

今までの分もはっきり言うわ。


…その、


…ありがとう」



「…っ」



「ずっと一緒にいてくれてありがとう。

守ろうとしてくれてありがとう。……さっき好きって
言ってくれてありがとう。」


でも


「逃げるのはアンタの悪い癖よ。持田剣介。」

「…なんだよ。」


「わ、私だって…」

へ?


今までみたことないくらい顔を真っ赤にする氷之咲に


無いはずだった期待が膨らんだ。



「私だって、……好きなんだから。」

「何が?俺が?」


絶対ないけど、そう訊いた。

かぁっと赤くなった顔が怒鳴る。


「っ、そうよ!!文句ある!?」


「おおおおま待て待て!?好きな奴に椅子ブン投げようとするな!!」


「恥(はず)さ余って憎さ百倍よ」


そんな単語ねえよ!


俺が命懸けの突っ込みをしたら仕方ないなと氷之咲は椅子を下ろした。

あ、あぶねえ!



「……え、ていうかマジで?」

「ま、マジよ。あ〜言っちゃった!
なんで持田なんか好きになっちゃったんだろ…」

「お前な、【持田なんか】って言うな。」

「…ハイハイ…ッ!?」



(お、怒らないはず…!)

まだ氷之咲の言葉に半信半疑だった俺は
彼女を抱き寄せてみた。



―これで嘘なら俺はボコボコにされるはずだ。
(俺はこいつに手は出せねえからな)


「……きゅ、急に何よ…」


あ…本当に俺のこと好きっぽい。


何も抵抗せずにそのまま耳の近くから
しぼんだような声が漏れた。


息が当たってくすぐったいというか、めちゃめちゃドキドキしてくる。



「…紫騎。って呼んでいいか?」
「ぅ、…いいよ。」

「そっか。」
「…うん。」


こんな時どうすればいいのか。
何を話せばいいのか。


そんなことばかりぐるぐる頭の中で回っていたが


(……まあいいか)


何も考えないことにした。

何も喋らなくても今俺は彼女の体温が側にあるだけで幸せだった。


(でも)

幸せは幸せでも、もうちょっと俺は先に進みたいわけで。


彼女の背中に回していた手をそっと下に下げる。

「…っ」

俺の手がほんのすこーしだけ彼女の尻に触れたところで


「っ、この変態!!!!死ね!!」

回し蹴りが飛んできた。


「ぶはっ!」


その攻撃は俺の顔面にクリティカルヒット。

俺は不本意な形で意識を手放すことになった―











「おはよう、了平」

「おお!氷之咲ではないか!!よし、ではさっそく

ボクシング部への入部手続きを!!」


「え?意味わからない。」
「ほほう、では部室で意味を教えてやろう!!」



「え、いやいやいいですいいです。…了平って本当に熱いね。」

「む。暑い?今日は冷え込んでいると思うのだが。そうか、

ボクシング部への熱意で体が熱いというのか!!ならばさっそく」


「はよ。何やってんだよ朝っぱらから。」
「おお持田!お前もボクシングせんか!!」


朝から太陽のような了平に掴まってしまった私。


う〜ん、私ってこういうタイプの人苦手でしょ?って
周りにいわれるけど結構好きなんだよね。


…私って変わってるのかな。

あ〜変わってるか。
目の前の持田と付き合ってる時点で。



「俺はボクシングはしねーよ。今日の放課後から
また剣道部の練習あるしな。」


「そうそう。その代わり了平、私マネージャーにならなってもいいよ。

一緒に部員探してあげる」


「誠か!!」
「まことまこと♪」


喜ぶ了平に元気を貰っている気分で笑っているとぐいっと
腕を引っ張られた。


「いたっ」
「あ、ワリ。」

「なによ持田。まだ回し蹴りが足りない?」



「そういうなよ、悪かったって。
…笹川、悪いけどこいつはやれねえわ。」

「む!何故だ!!」


「俺のだから。」


そう言った持田はあろうことか

公衆の面前で堂々とキスしてきた。

…ほっぺだけど!ほっぺだけども!!



私の初キスなのにぃ!

わなわな震える体で力の限り彼氏(← 一応ね一応!)に叫んだ。


「持田!何すんのよ!!」
「さあな〜?」

「果たす!!」



そんなこんなだけど、今日も私達は仲良く?やってます。
…私だけが知ってるアンタの秘密は


これからも私だけのものだから。


…ずっと私のこと守ってもらうからね?
覚悟して下さい。








おまけ 〜雲雀さんから守って見せる!〜

彼女と付き合い始めて1週間目のことだった。


(げ!雲雀!!)


前から歩いてくる雲雀にすくみ上がる俺。


あいつはめちゃめちゃつええし、
群れてるところを見られたら容赦なくボコボコにされる。



え?俺?


もちろん俺も被害にあったことがある。
だからいえる。マジであいつはヤバイ。


俺はぎゅっと紫騎の手を握った。


「ちょっと、持田。どうしたのよ?」
「前から雲雀が来る。」


咄嗟に彼女を庇う姿勢で前にでた。

「…ん?」


前から歩いてきた雲雀恭弥は足を止めて俺をガン見してくる。


うおおおこえええ!



で、でもこいつを守るって決めたんだ。



たとえ雲雀が相手であろうと絶対引いたりはしな


「こんにちは!雲雀さん。」
「やあ。今から食事かい?」


え?


「ええ。屋上使っても?」
「いいよ。じゃあまたね。」
「はい!また!!」



…え?えええ!?えええええええええええええええ

ええええええ?!!?!?!?


「何お前!雲雀と知り合いなのか!?」
「え?まあね。同じ学年だし。普通に仲良くなったよ。」


ありえねえよ!てか


「…俺が庇う意味あったのか?」

「いいじゃない。…嬉しかったよ。」

「っ…なら、いいけど、よ。」


握る手に力を込められて動揺する俺。


ちくしょう。なんで好きな女の前では格好つかねえんだろ。


「気にしないの。元々アンタのことは知ってるんだから。…格好悪いところもね?」


「……分かってっけど。」


(たまにはお前のまえではカッコよくありたいんだよ。)

男だからな。





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あきゅろす。
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