交錯する極彩色 六話 もしこの山に、化け物伝説があったとしたら、それは明らかにこの雄だと断言ができる。 化け物というのは、魔物という意味ではなく、とにかく化け物級に強いという意味で。 力だけならゼルトと張り合うかもしれない。 彼は特別素早いわけでもないのだが、圧倒的に所持しているは、力と技だ。めちゃくちゃのような、規則的、原則に沿ったような…。 一人吹き飛ばしたと思ったら、カイトは俺たちを軽く叱ったあと、回りを取り囲む賊に向かっていった。 先ほどの迫力で全然覇気が見られない賊どもの攻撃は、全然腰が入っていない。 一人が、斬りかかると、腰を落とし、腕をクロスさせて、手首の方を受け止めた。そのまま右手で肘近くを掴んだと思ったら、思い切り体を引き寄せると共に足をかけ、後方に転ばせる。完全に手慣れた様子だ。 次々とかかる敵を蹴散らしていくのだが…。 どこか違和感を感じる。また一人攻撃を避けたとき…あの技は恐らく、カラテ、と呼ばれるものだろう、見覚えがある。 しかしまた次の相手には、一本背負い、と言える柔道っぽい技をかけている。空手…柔道…あれはカンフーだろうか。とにかく技のストックが大量にあって、どんな攻撃にも対応できている。 相手がカイトの手を掴んだら、一瞬にして腕が変な方向へ…あれは柔術と呼ばれる護身術だ。 「グハァア!」 「がぁ!」 「っなにをぱら…!」 …あれ、なんか聞いたことある。 五分もすれば、敵は全員地に伏していた…。 俺も良く戦闘のプロと呼ばれていたが、カイトに比べれば全然だ。 ゼルトもまた…然り。 俺の廻りには、異常に強い連中がうろうろしているようだ。 「ごめんなさい…でも助けにくるって信じてたから、信じてたからねっ!お願い殴らないで」 「問題はそこじゃねぇだろうが」 拳を振り上げたカイトと怯えたそぶりでも笑っているヘルザ。俺とゼルトだったら殺伐としそうな光景だが、どこか愉しそうなのはこの二人であるからだろう。 「勝手に行くなって言わなかったか?ん?」 「…っだって…!」 「だって、じゃねぇよ」 振り上げた拳は未だ降り下ろされない。 「…勝手に町に下りてごめんなさい…」 「よしっ!」 なんか親子みたいだ。 「ごめんなさい」 「まぁ無事で良かった」 拳はヘルザの頭に近づくと、空中でパーに変わり、ヘルザの頭をよしよしと撫でる。 ヘルザの垂れていた耳が、ピン、と立った。 「…あと、採ってきたの茸ばっかでごめんなさい」 「ん?」 「魔物狩ってきたけどそういえば森の中に置きっぱなしにしてて、多分他の魔物に盗られちゃったけどごめんなさい」 「おい?」 「バルト騙して、家に帰るふりして町に下りていこうとして、バルトに大丈夫大丈夫って言ってフラグ建設しちゃってごめんなs」 「いい加減にしろ」 ゴンッ、 ………。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |