交錯する極彩色
十話
村長は、相変わらず毛布を被って、ベッドの上で震えていた。俺たちの足音で、顔だけ出したけど、もしかして村中みんなこんな感じなのか?
だとしたら哀れみ通り越して可哀想すぎる。
俺たちの顔を見た途端村長は、
「二度と現れるなと言ったじゃろうこの化け物め!」
全然懲りてないみたいだ。ということで、俺が部屋の壁をガンッ!と蹴ったら、ヒィッ!と声をあげて毛布の中に逃げた。被ったって俺はいなくならないけどな。
ゼルトが、
「…村長、ヴァリルウルフの牙だ。倒したという証明だ」
と牙を出せば、村長はまた顔だけ出して、
「なっ、なんじゃと!?…いや、どうせ偽物じゃろう!わしを騙そうとしたって無駄じゃ!」
忙しいじいさんだ、呆れてものも言えない。
「…いや、贋作じゃない…血痕…見えるか」
ゼルトが牙をくるりと回せば、裏側に血が…ちょっとグロい。
まだ乾ききってないせいか、少しテカっている。
「…この臭い…色…本物…か……」
すると急に村長は恍惚とした表情になる。まるでこの牙が、自分の神のような…いや、比喩は無理だった、ごめん。
でも、村長の表情だけ見れば、何か神聖なものを崇めているようにしか見えない。
村長の口が、またゆっくりと開く。
「…ヴァリル…ウルフの…牙…」
「…そうだ」
「…ヴァリル…ウルフ…っ、寄越せ!!」
また村長の表情が一変し、今度は毛布をかなぐり捨てて、ゼルトの持つ牙に飛びかかっていった。ったく、なんなんだよホントにこのジジイは!
ゼルトなら簡単に避けられるだろうと思っていたが、少し牙を右に動かしただけで避けなかったので、当然村長の手が牙に…当たりそこない、ゼルトの手から牙が弾かれた。牙は綺麗な放物線を描き…ていうかくるくる回りながらだから危ない。俺の方に飛んできたので、なんとなく両手を差し出せば、手のひらにぽんっと収まった。こんな綺麗に乗るものだろうか。
するとまた村長は、
「寄越せぇぇ!」
と言いながら今度は俺に飛びかかってくる。
が、ゼルトが村長の尻尾を掴んで引き寄せると、
「キャイィン!」
と犬科特有の悲鳴をあげた。そして床に倒れた…気絶はしないだろうけど。
「…ゼルト、どういうことだ…?」
無表情で床にノビル村長を見下しながら、微動だにしないゼルトに聞く。
「…ヴァリルウルフの牙は、超希少素材五種の中の一つだ。売れば…最高値で町一つ買えるくらいにはなる…」
「えッ!じゃあ村長金目当てで…」
…つくづく社会的評価を下げる男だ。
「うぅ…それがあればぁ…くれ」
「それが人にものを頼む態度かよ…」
哀れみの目を向けることすら勿体ない気がして、とりあえず卑下の視線を送ってみた。
はぁ…
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