交錯する極彩色 九話 (ゼルトside) 決着は一瞬だった。 とはいえ全ての動きが一瞬のようなものなので、俺とヴァリルウルフにとっては普通の速さで。 ヴァリルウルフが着地するであろう地点が分かっていた俺は、また体を脱力させた。息をゆっくりと吐いて――、 「…大丈夫か」 「あぁ!案外楽だった…ていうか、俺が居た意味合ったか?」 「……精神的に」 「ん?なんて?」 「…気にするな」 バルトは、快活に笑っていた。正直、敵を倒す上では、バルトはあまり役に立ってはいなかった。 『あーぁ、言っちゃった〜』 だが、バルトを守る、と決めた瞬間、いつもよりも速く動けたような気もするし、集中力もいつにも増して高かったような気がする。…結果、ヴァリルウルフを無傷で倒せた。 『…もうわかっていますね?』 『あぁ…バルトは俺の"タイヨウ"だ…』 ますます手放せねぇじゃねぇか……。 (バルトside) 俺にかろうじて見えたのは、ゼルトがヴァリルウルフを斬った場面。これもやはり残像が見えるくらい速かったけど、一瞬だけ見ることができた。一切の迷いもなく、真っ直ぐに刀を振るその姿は、同性からすれば、憧れの対象だ。強くありたいと願うのが雄の性であるのだろうか。 ゼルトは、倒したヴァリルウルフの牙を数本抜いた。 少しグロい音を立てながら、長くて鋭利に尖った牙が抜けるところは、正直見なければよかったと後悔するようなものだった。 この牙を村長に見せて、依頼を達成したことを証明するためらしいが、あの村長がちゃんと取り合ってくれるかどうかは、甚だ疑問だ。俺が怒鳴ったときはめちゃくちゃ怖がってたし。 行きと同じ道を通っていても、帰り道が非常に短く感じることはないだろうか。気の持ちようで、人の感じ方は大いに変わるらしい。今通っている山道は、行きは登りなのに対し、帰りは下りになってしまうので、余計短く感じた。それに加え、口数が少ないゼルトと、会話を交わせたのも錯覚の原因とも言えるだろう。 再度改めて客観的に村の様子を見ると、最初に感じていた違和感の正体がやっと分かった。 人が居ないのだ。道を歩いたり、外で何か作業をしたり、或いは家の中から活気のある話し声が聞こえたりすることは村の印象を強く左右する。もの悲しく、寂しいさを感じてしまうのはこの違和感があったからなのだと認識した。 して、何故人が外に居ないのかも、なんとなく分かる。ゼルトが以前にこの村に来たとき、魔物によって村中の建物が破壊されたと聞く。今回現れた魔物もSランクだったので、トラウマと相まって家から出れなくなったのだろう。 哀れ。その言葉に尽きる。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |