交錯する極彩色 六話 飛びかかってきたヴァリルウルフを、受け止めないでかわした…が、一瞬間に合わず、足先にかすったようだ…推定時速300kmといったところか。 もちろん最高速度だが、俺でも300kmを出すのは骨が折れる。恐らく、今のはヴァリルウルフによる腕試し、ということだろう。自分の速度に反応できるか力量を図っているのだ…勘でそう思った。 『…速くね?生物って不平等にできてるもんだなぁ』 『弌のスピードでもかすりましたか…体を五秒くれれば弱点まで考えられますよ』 『ヴァリルウルフ相手に五秒は無茶でしょ、良くて二秒かな』 頭の中の声が言う通り、実際五秒もくれたらすぐ殺されるだろう。俺も300kmで動かないといけないか… ヴァリルウルフの鋭利な爪を避ける…そのまま足元に入って一本斬りつける…がかわされた…すぐヴァリルウルフの頭突きが飛んでくる…体を捻りながらかわし、ついでに胴を斬り裂く…がかすり傷だ、ちゃんと刺さっていない。 この間、三秒弱――。 (バルトside) 「…はや……」 ゼルトとヴァリルウルフの攻防は、明らかに人智を越えていた。とにかく速すぎるのだ、動き、モーションが…。 俺の目に見えるのは、ヴァリルウルフとゼルトの残像のみ。めちゃくちゃ細かい動きをしながら戦っているのだろうが、捉えきれない。やっぱりスゴいんだなぁ…ゼルトって。 とりあえず、今は自分の仕事に集中しよう…周りを確認するも、魔物の気配はない。でも前例があるからな、油断はしないように… 「……そろそろ来るかもしれない」 唐突に、ゼルトの声が隣で聞こえた…恐ろしいスピードだ。見た感じ、目立った外傷はない…が、ちょっと疲れてるように見えた。あんなヤツと一対一で戦ってるんだ、当然だろう。ていうか生きてるだけでスゴい。 「そろそろって…何が」 「……見た方が速い」 ヴァリルウルフを見ると、こちらを見てはいるけど襲ってはこない。何かを伺っているようにも見える。 …でもアレ、俺と同じ種族の子孫なのか…不思議と親近感も愛着も湧かない。 するとその時、 「…ゥワォォォン!」 と遠吠えをした。狼獣人でもあんな上手く遠吠えできな…そういえばもともと狼獣人は遠吠えしないんだった。 「…あの遠吠えを聞くと、魔物たちはアイツの言いなりになる。つまり、あの遠吠えが聞こえた範囲に居た魔物は…」 ザクザクッ… ドシン、ドシンッ… コツコツ… 「俺たちの敵だ」 「ガァアア!」 「ウギャア!」 「ギュルル!」 …1、2、3……8、9… …10体。 ヤバい… 手の震えが止まらない。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |