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交錯する極彩色
一話


パッと目が覚めた。

本当にパッと、唐突に目が覚めたのだ。

悪夢を見ていたわけでもないのだが、寝汗をかいていた…この季節、夜も暑いから仕方ないかもしれない。

天井を見ると、いつものように木目調の天井だ。見慣れた今となっては、木目の模様が犬獣人の顔に見えることなんか気にならなくなった。

すくっと起き上がり、ベッドから降りた。直立に立って、思い切り両腕を伸ばすと、


「…ぅーん」


と声が漏れる。窓にチラリと目をやると、やや薄暗いが朝の光が、差し込んでいた。


今日も一日が始まる――




キッチンに向かい、エプロンを手に取った。この動きも、完全に定着してしまってる…嫌じゃないけど。
シュルシュルっと結び終えたら、食材を冷やして保管する装置、アイスタンク(冷蔵庫)を覗く。
頭の中でバパッと朝食の献立を組み立てて、いざ調理開始。調味料だの野菜だのを手にとって、手早く調理をしていく。このキッチンも、既に使いなれたものになった。



米を炊き終わるまで五分弱か…。ゼルトを起こししにいこう。
廊下を進み、ゼルトの部屋の前まで着いた。ゼルトは寝起きはいいが、早起きが苦手だ…というのもここ最近覚えた。
コンコンッ、という小気味がいいノック音を響かせてから、ドアを開けて中に入る。うつ伏せで、完全に全体重をベッドに預けて寝ているのが見えて、思わず笑みが溢れた。尻尾が何かに反応するかのように、小さくゆらゆらと揺れていた。


「ゼルト、起きろー」


近づいて、軽く体を揺するも、


「…ゥ"ゥ…」


と低く唸るばかりだ。刺激が足りないのかもしれない。

そこで、揺れている尻尾を、軽く指先で触ると


スッ…!

ガシッ!

ギシッ…



「…なんだお前か」


「ゼルト…退いて」


いつものことだが、ゼルトを起こそうと尻尾を触ると、一瞬でゼルトが俺をベッドに押し倒してる状態になるのだ。この一瞬で、どんな動きが行われているのか分からないが、気づけば俺はゼルトの下にいる。のし掛かられてるから重いんだけどな…

大人しく退いてくれたゼルトに、おはよう、と笑いかけたら、寝起きの無表情で、おはよう、と返してくれる。これも、最早日常となっている。

ゼルトに顔を洗ってくるよう言ってから、キッチンに行き、器にご飯を注ぐ。帰ってきたゼルトに手伝ってもらいながら、テーブルにおかずも並べて、


「「いただきます」」


黙々と食べ始める。
ゼルトは、食事中一言も喋ってくれないけど、それももう慣れっこで、こちらから話題をふる。


「今日依頼板行くのか?」


「…あぁ」


「一緒に行っていいか?」


「…勿論」


「何時くらい?」


「…何時でも」


ぶっきらぼうに聞こえるが、ゼルトも頑張って会話しようとしてるのだ。慣れればなんとも思わない。


「…ごちそうさま」


そしていつも、ゼルトが先に食べ終わる。単に食べるのが早いだけだけど。
それでいつも言ってくれるのが、


「…旨かった」


それを言われるだけで、心が温かくなって、自分が必要とされているような、求められているような気分になる。
これがあるから俺は飯を作るんだろうか。

ゼルトの茶碗に、一粒の米も残っていないのを見て、微笑みながらそう思った。




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