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交錯する極彩色
五話


「すいませぇんっ!」


ガロンさんと、その仲間たちが、貴族の家…立派な屋敷の門の前に横並びになっている。
貴族の家自体は、ここら一帯の家と比べればすごいものだが、大きさはそれほどでもない。二階建ての屋敷は、窓以外真っ黒に染められており…ちなみに、黒塗りではなく焼き板を使っているようだ。
その真っ黒な屋敷の前には、とても広大な敷地が存在する。
都内から、まるで空間を切り取ったかのように、そこだけが緑溢れる…自然保護区のみたいな印象を持つ。門から玄関まで、真っ直ぐと伸びた砂利道とは対照的に、芝生が一面に自生しており、やや可愛いげのある魔物が、そこを走り回っているのが確認できた。



さて、今俺は何処にいるかというと…


がさがさ、ガサガサ。


…木の上だ。

もちろん、好き好んで木になんか昇らない。大の大人が何をしてるんだ、って話なのだから。
幸い、多めに葉が生い茂るこの木は、真下から凝視しない限り、俺の存在を目視することはないだろうが…恥ずかしいよな、ちょっと。


しかし、この木の場所が重要であるのだ…本作戦において。

この木は、屋敷を取り囲む三メートルほどの塀のすぐ外側にある街路樹…高さはさることながら、太さも申し分ない。まるでここから侵入してください、と言っているようじゃないか。

だが、この木の存在を屋敷の主が気づいていないかといえば、必然的に否である。
この木に気づかないなど、絶対にあり得ない。
何故なら、内側から見れば、その巨木っぷりは明らかに目に止まるし…何より、巨木を見張るかのような配置にある監視カメラが、それを示唆していた。
ついでにいうと、今は葉のせいで監視カメラにバルトの姿は映っていないはずだ。…はずだ。


そして、本作戦において最も重要な役割を、俺が担っていることを改めて知る。


…右手に渡された麻酔銃が重く感じる。




ガロンさんたちは、正面突破を決めたあと、俺に麻酔銃を渡した。あくまでも麻酔銃…殺傷能力は低いし、眠らせることを基準に作られているので、危険はそれほどないはずだ…多分。

要するに、援護射撃を頼む、とのこと。


ガロンさんたちの正面突破の方法はわからないが、庭に入れば警備の者が飛び出してくるのは目に見えている。
それを考慮した上での、麻酔銃である。



…が、しかし。


「…俺銃使うの初めてなんだよなぁ…」


今まで、道端にあるものを武器にしてきた俺にとって、銃を使うことは未知数…球数が勿体無いから、試し撃ちもできないし。


…いくらなんでもなぁ。


ちなみになんで俺なのかというと、この木にこっそり昇れる奴が他にいないという大義名分と、バルトを危険なめに合わせたくないという庇護欲でもあったのだが、俺はそんなこと知る由もない。




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