交錯する極彩色 十一話 ヘルザはさすがに飛ばされるだろってことで、船室に戻ってもらった…本人はぶーぶー言ったが、この嵐の中びしょ濡れのショタウサギを探したくない。 かくいう俺も、飛ばされないようにするのがやっとだ…手を離したら、ずるずると船のへりまで行って落ちるだろう…。 俺は力は強い方だが、体重はそんなにねぇからなぁ…ロウとかなら大丈夫だろうな。メルは一瞬で居なくなって海の中で寝たまま死ぬかもしれない。 …しかし、ゼルトは相変わらず微動だにしないし、平然と船の上を歩き回れるほどだ。 体型は俺とそんなに変わんない…ゼルトのほうがちょっとだけ背が高い…し、体重もなぁ…何をどうしたらああなるのだろう。 「…カイト」 不意に、考え込んでいたゼルトに話しかけられる。 「なんだ?」 「…飛ばされるなよ」 「………何をするつもりなんd」 「飛ばされるなよ」 ゼルトは時に強引だ…そんで時に無責任。 何をするつもりなのか教えてくれたっていいじゃねぇか…。 「…行くぞ…そろそろだ」 「?そろそろって何が」 ゼルトは、僅かに微笑んで、 「そろそろ船が引っ張られる…」 その時、急に船の速度が上がった…! ゼルトの言う通り、竜巻にぐんぐん引き寄せられて、船のエンジンも加担し、かなりのスピードで進んでいる。 正直、頭のなかは不安とパニック…ぅわぁああ、みたいな? しかしその時… ゼルトが右手を真上に向けて… 「巻き上げろ、サイクロスペクト…」 と呟いたのが、風に流れてきて聞こえた。 すると、ゼルトのまわりには渦ができ始めた…同じく風の…まさかっ! あっという間に、ゼルトを…否、船全体を囲んだ竜巻が、もうひとつ出来上がった…ゼルトが竜巻の眼の中心…これで、一時的に暴風が吹かなくなった…中は中で、竜巻の轟音が響いているのだが。 「…ゼルト、お前まさか…」 「…勝てるかはわからん」 勝てる…つまり、ゼルトのオリジナル竜巻と、この海域の竜巻とをぶつけて、相殺してやろうと。 …ちょっと待て、出来んのかそんなこと。 「…俺の竜巻は、通常の竜巻とは逆向きに回転している…うまくいけば、雲ごと晴れる…」 「…うまくいかなかったら…?」 「竜巻が倍の大きさになるかもな…」 何してくれてんだテメェ!ギャンブルじゃねぇんだよ! …とかキレられたらいいのだが、この際ゼルトに任せるしかないので、失敗したら殴る、と心に誓った…。 …あぁ、その時が訪れる。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |