交錯する極彩色 十話 (カイトside) しばらくそのまま話し込んでいたが、気がつけば日が落ちていたこともあり、晩御飯の時間になった。 …残念ながら、俺しか料理と呼べるレベルのものを作ることができないので、俺が料理人となる。…ヘルザは前に作らせてみたら、燃えた何か、ができた。 ゼルトもゼルトで、家事系統のことは全てバルトに任せきりだったらしく、燃やす、斬る、潰す以外の調理方法を知らない。バルトに出会う前は、専ら外食が主で、たまに、度々訪ねてくる友人?が作ってくれていたとか。どちらにしろ、俺が晩御飯を作る。 とはいえ、食材は買い込むことができたので、献立は簡単に浮かんだ…本当に簡単なものだが。 いつも通り、手際よく…かつ美味しそうに作ろうと頑張っていた…のだが。 ここで、予想外の事態が起こる。 「…カイト」 「…あぁ、分かってる…回避できるか…?」 ゼルトが指差す方向に見えるのは、海面から曇天の空に向かい、一直線に伸びる風の渦…所謂、竜巻と呼ばれるものだった。 この海域にそういう噂は聞いていたが、思っていたより大きく…何よりこんなに高いものだとは思いもよらなかった。 「うわぁ…!すごい…」 後ろで、ヘルザの声がした…とはいえ、暴風が吹き荒れてる中なので、幾分か掻き消されているのだが。 ヘルザも、デッキに伸びる帆の柱に必死にしがみついて、飛ばされまいとしていた…俺も、さっきからちょっとずつ左に流されているような気がする…そろそろ柱にお世話になるか。 ゼルトはこの風の中でも、平然と仁王立ち…羨ましいぜそのタフさが。 「ていうか避けないと危なくない?」 通常の三倍の大きさで発せられたヘルザの声が、通常の二分の一の大きさで聞こえる。 「あぁ、今操縦盤に――」 「…大丈夫だ」 ん? あの狐は今何を言った? 「…ゼルト、今なんて」 「大丈夫だ…寧ろ、竜巻から離れると…渦潮にぶつかる…」 「…渦潮?」 ここからじゃ悪天候過ぎて確認できないが…ゼルトには、竜巻の左右に渦潮が見えるらしい。 …いや、どういう原理でそうなんだよ。 「でも、真っ直ぐ行っても竜巻でしょ?」 先ほどより大きな声で発せられたヘルザの声が、先ほどより小さく聞こえた…ホントにヤバくなってきた。 「…俺がどうにかする」 「…どうやって?」 「……わからない」 不思議と自信ありげに聞こえるのがゼルトの欠点だ…妙な説得力のせいで不安要素が消えてしまう。 と、いうことで…正面突破することになった…まだ死にたくねぇなぁ…。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |