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ハニーキャット
15
混乱して上手く断れなく、猫田くんに言われるがままに早退することになる。
そして、わざわざ猫田くんまでも早退してボクを家まで送ってくれることになった。


「ありがと、でも送ってもらわなくても大丈夫なのに…」

「そんな格好の奴を一人で帰らせる訳ないだろ」


申し訳ない気持ちで言うと呆れたような声が返ってくる。
確かに少し大きサイズのYシャツを着ていてみっともないといえるかも知れないと指しか出ていない袖口を見て思う。

でも、一人で帰るのも二人で帰るのもみっともない格好は変わらないと思うし、猫田くんが一緒に帰る意味ってあるのかな?
…だけどちょっとだけホッとしてる。あんなことがあったからかな。

そんな猫田くんの気遣いだとは気づかず検討違いな方へと考えを巡らせつつ自然と顔が下を向きそうになっていると…


「あのさ…何があったかは今は聞かないけど、話せるようになったら俺は何時でも聞くからな」

「?…うん」


神妙そうな面もちで発せられた言葉に小首をかしげていると頭をポンポンと優しく撫でられた。

これは…どういう意味なんだろう?
猫田くんはあのこと知らないだろうし、よく分からないんだけど。
何かこの感じ覚えがあるような?

猫田くんの言動やに戸惑っているなか続けて力の入った声が耳に届く。


「俺さ、知り合いに強い人とかいっぱい居るから少しかも知れないけど力にはなれると思うんだ」

「そう…なの?」

「ああ、一番強いのは兄貴なんだけど、そういう関連ならスゲー頼りになる人なんだ。だからっていうか、あんまり気に病むなっていうか、さ」


お兄さんがいるんだと新たに知った情報に感心していると眉を下げて心配そうな表情が目に映る。
ますます話題についていけず瞬きを繰り返していると猫田くんも首を捻っていた。


「もしかして…あんまり気にしてない?」

「えと、何を?」


猫田くんの問いかけが何を指しているのかイマイチ把握ができなく素直に口に出す。
すると焦れったそうな表情になり、口を開きかけたがすぐに閉じた。


「あ、うん…いいや蜜樹がそうなら俺からはもう触れない」


何かを察したというように押し黙る猫田くんの姿に疑問符が飛び交う。

どうしたんだろ?何か言いたそうだったけど。

そのことが気になり口を開こうとしたとき猫田くんのふっ切れたようなさっきとはうって変わった明るい声にさえぎられる。


「ま、あれだ!何か困ったり悩んだら俺に連絡してくれよ。俺と兄貴それから頼りになる知り合いといつでも助けるからさ」

「……ありがと」


ニッと歯を見せて笑う姿に釣られてボクも笑みをうかべた。
その後は、他愛もない会話をして、程なくして薄いオレンジ色の外壁に落ちついたアイアンブルーの屋根が見えた。

猫田くんは「オシャレで蜜樹らしい家だな」なんて言っていたけど…
ボクとしては木造建築の瓦屋根の昔から日本にある平屋?だっけ、そういうのがよかったのになぁ。

と口を尖らせながら呟くと猫田くんが盛大に笑い始めたので不思議で首をかしげる。


「それじゃ、また明日な」

「あ、せっかくだからお茶でも…」

「いや遠慮しとく。これから会わなきゃいけない人がいるから」


そう言って携帯を見せながら苦笑いを浮かべている猫田くんを引き留められるわけもなく。ボクがドアを閉めるまで猫田くんはその場で見送ってくれていた。



バタンとドア閉めたその時、素早くこちらに向かってくる影が目に飛び込んできた。
と、同時に飛びついてきてバランスを崩ししりもちをつく。


「わっ…!?もうムサシたらいきなり飛びついてこないの」


現れた黒い影に対して軽く叱るが悪びれる様子もなく元気よくワンッと声をあげた。
覆い被さった黒い毛並みキレイなラブラドールレトリバーのムサシを退けながら起きあがる。


「ムサシの飛びつくクセはいつ直るのかな…」


ホコリを払いながら呆れた顔をする。それを見てなのかは分からないが、「さあ、いつでしょね」とでも言っているように構わず足元にじゃれついてくるしまつだ。

人懐っこいのはイイんだけど毎回この大きな体で体当たりされるのは大変なんだよね。

未だにじゃれついてくるムサシに苦笑いを浮かべ、口を開く。


「こら靴脱げないよ…ムサシ、ハウス」


少しキツめに言い、人差し指を立てながら小さく振るって見せた。
すると渋々という感じにボクから少し離れ座って待つ。

まったくママが言うとすぐに自分の寝床に行くのにボクだとただの待て状態になるんだから。
ママと違って厳しくしなかったせいかな。
まぁパパだと全然言うこと聞かないからマシなのかも知れないけど。

ムサシの態度について小さくため息を吐きつつ靴を脱いで家に上がると待ってましたとばかりにムサシがシャツの袖口を加えてグイグイと引っ張ってきた。
そのことにハッと気づき手を前に出す。


「ストップ!!待てムサシっ」


慌てたせいで声を荒げながら言ってしまった。そのせいかピタッと動きを止め、おずおずと加えていたシャツを離して一歩下がる。


「あ…ごめんねムサシ後で遊んであげるから待ってて」


頭を優しく毛並みに添って撫でてやると、気持ち良さそうにしていた。
その様子に安堵し、ムサシを置いて自分の部屋へと向かうため階段を上った。


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あきゅろす。
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