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小説(人間話)
ユキと空の場合・・・本当は、1





『ユキと空の場合・・・本当は、』






「なぁ、眼鏡ってなにがいいの?」

そう尋ねてきたのはとある集合住宅"sheep's rest・・・シープズ レスト"403号室の隣、つまり404 号室の主、黒沢空だ。

尋ねられたのは、403号室に住む空の友人のユキ。フルネームは字数をとるし、誰もユキを本名で呼ぶ人がいないので記載しないでおく。

ユキは己の眼鏡のブリッジを指で上げて、空を見た。
ソファに寝転がった友人の顔には普段見ないものが乗っかっていた。
黒の四角いプラスチックフレームの眼鏡だ 。

空の目は悪くない。
むしろいい。
絶対2.0以上ある。

ユキが空に言われるまで存在も知らなかった、視力検査の時に使うあの一部が欠けた円が大量に書かれた器機の、脇に書かれた小さな数字が読み取れるくらいいい。

または高校野球の応援時に一番遠い席にいるのにも関わらず人の顔を識別てきたり、というかボールが見えてたり・・・。

眼鏡をかけてなお窓の向こうで揺れる葉っぱの枚数もわからないユキとは違う。こいつは葉っぱの数どころかそこに隠れる小鳥さえも数える。

それがどうしたことか、今日は眼鏡をかけている。

だが、その理由をユキは知っていた。

「似合うな」

「どーも」

ソファの背に肘をついてユキが空に言った。
覗きこむ人と、それを見上げる人。

「・・・お前も似合うぞ?」

ユキがじっと見ていたら、空がそう返した。
別に誉めかえされたかったわけではなかった。
しかし、悪い気はしない。
ユキはそれを自覚していてわざと眼鏡をかけているのだ。

「・・・?」

空がユキを見つめる。
黒い瞳が偽物のレンズの向こうで疑問の色をにじませた。

・・・今日はなんだかいつもに増してモノクロだ。

光がレンズに反射して、
いつも見えるはずのその透明な色がよく見えない。

だから、空の顔に手を伸ばして邪魔な眼鏡を取り払う。

眼鏡を奪われた空は、戸惑った表情を見せた。

ユキは空がかけていた黒い縁の伊達眼鏡を、空に見えるようにかがげた。

そして、それを自分の顔に。

「ダブルメガネ」

「・・・伊達じゃ、意味なくないか?」

ユキは2枚のレンズの向こうから楽しげに笑った。

片手に空の眼鏡をぶら下げて、ソファの背に体重を預ける。

「眼鏡のよさ、だったな。

空、眼鏡のレンズの形には意外と種類があることは知っているか?凹凸の話じゃないぞ?四角とか丸の話。

フレームも、色、太さ、素材のほかにどうレンズを囲むかってデザイン豊富だ。全縁とか上縁とか。
眼鏡ってのは沢山ある選択肢から選ばれて選ばれて選ばれて、完成する・・・いわば、服と同じさ。けど服と違って眼鏡ってのは、人の顔のど真ん中に鎮座する。人が他人に一番見られるところだ。
眼鏡はな、ただの視覚を補う機器じゃあない。
眼鏡は・・・

おい、空。聞いてるか?」

気づくとソファの上の友人は両手を組んで目をつぶっていた。

それをじっと見つめて、ユキは空の鼻をつまんだ。

「・・・ひひゃい」

「お前が悪い」

聞き取りずらい声で『鼓膜が破れても金がないから耳鼻科に行けない。離してくれ』と言うので手を離す。

「お前、現実的な自虐ネタはウケないぞ」

「眼鏡のよさを訊いただけなのに、眼鏡そのものを語るよりはいいだろ」

「・・・・・タヌキ」

「キツネ」

「ネイティブアメリカン・・・まあ、とにかく結論は、眼鏡一つで顔が変わるってこと。理解しましたか?」

「・・・・・今日はインテリの顔?」

「ん?あぁ、そうそう。上昇ライン直線シルバーメタルフレームでインテリちゃんを演出しつつフレームは太めにして智とテンプルにデザインをいれる遊び心も忘れない。流石俺」

「・・・・・・」




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あきゅろす。
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