悪魔の囁き
10.first contact
オレは今神奈川にいる。
突然どうしたって?別に突然やないんや。八津じいちゃんとむつみばあちゃんの家が神奈川にあるから、東京の大会に出るついでに遊びに来たんよ。丁度夏休みやし。
じいちゃんやばあちゃんはよく遊びに来てくれるから、オレがこっちに来るのは二歳の時以来だったりする。その時も思ったが、この家は無駄にでかい。趣味が良いのは救いか。
「じいちゃんばあちゃん出かけてくるわー」
「んー、気ぃつけやー」
返事が返ってきたのを確認すると、オレはラケットとボールを持って外に出た。ちなみに、オレのテニス道具は既にガーボ一色である(シューズどころかジャージや靴下まで)。
今日は近所を散歩がてらに探索するつもりだった。探し物はテニスコートと立海大。後者は近かったらええなぁ、という希望なのでなくても良いが、テニスコートは重要だ。ここには知り合いもいないし、ゲーム以外にする事がないのである。外に出んとなまるやないか。
* * *
で、見つけましたテニスコート。ただ、何と言うかベタな展開になっとる。
状況を説明しよう。
ふらふらと歩いていたオレは道に迷った。いや、断じて方向音痴ではない。ないが、知らない場所を何も考えずに歩いていると誰でもそうなるだろう(アホや、オレ)。
仕方ないから人を探していると、テニスコートを発見。おぉラッキーっちゅー事で近づいたら、何やモメとる声がする。
「ボク達が先に使ってたんだよ!」
「うるせーな。勝ったヤツが使えばいいだろ?」
明らかに体格の違う子供達。小学三年生くらいと中学一年生くらいか。
うわぁ……ベタや。
中学生に呆れながら眺めていると、案の定小学生が負けた。そこで帰ればいいものを、食い下がる小学生。キレる中学生。
うわぁ……ベタや。
泣き出す小学生と、オレに気づいた中学生。にやにや笑いで近づいてきた。
そうや、あんまり言うてなかったけど、オレは同級生の中でも小さい方である。顔もどちらかというと童顔。四年生なのだが、下手をすると一、二歳年下に見える。
良いカモが来たとでも思ったのだろう。なんかテニスで勝負だとか言ってきた。正直こちらにメリットはないっちゅーに。
そして何度でも言おう。ベタや。
「はぁー、別に試合するんはええけどね。後で文句とか言わんとってよ?」
さっきの試合を見ていた限り、オレの相手ではない。先日の大会の決勝の人の方が強かったように思う。
小さい声なので聞こえなかったのか、名前も知らない中学生は無反応だった。
「どっちが先?」
「ゆずってやるよ。かわいそうだからなぁ!」
その自信は一体どこから来るのか。小学生に止められたが、オレはラケットを構えた。
「ほな遠慮なく」
スパァン!
響く音と呆然とする中学生。パワーリストつけてる上に、技でも何でもない普通のサーブやねんけどなぁ?
「何ぼーっとしとんねん。見逃すで?」
* * *
中学生は試合が終わるとすぐにどこかへ行ってしまった。捨て台詞だけは立派だったと記憶している。
「うまいな、お前!」
パチパチと手を叩く音がしてオレは振り返った。
真っ赤な髪に整った顔立ち、ふくらまされたグリーンアップル味だと思われる緑色のガム。
「シクヨロ。俺は丸井ブン太。お前は?」
ピースにウインクというその姿は未来の天才的ボレーヤーで。
first contact
(ってゆーか)
(この頃からガム噛んどったんや……)
[*負けたわ…][勝ったで!#]
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