悪魔の囁き 05.樹さんの帰国 六歳になった。……というか、今日で六歳になる。あと一ヶ月と少しで小学生とは、早かったのか遅かったのか。 偶然ではあるが、樹(いつき)さんが帰国するのも今日らしい。誕生日パーティーよりも樹さんと会える方が嬉しかったりする。 あ、樹さんというのは母方の叔父さんの事だ。フランスに住んでいてプロのテニスプレイヤーだっていうあの。まぁ、世界中を飛び回っているので家はあってないようなものだが。 樹さんは凄い。テレビでもよく見るが、もしかするとサムライ南次郎より強いかもしれない。ぜひとも試合をしてほしいものである。 「啓輔か?でかなったなぁ!」 太陽のような笑みを浮かべる樹さんに、オレはぎこちなく笑い返した。 だってしゃあないやん。前に会ったん二歳やし。尊敬する人の前やで?緊張するに決まっとる。 「啓輔ガチガチー。叔父さんに会うん楽しみにしとったもんなぁ?」 柚姉がにやにやしながら言った。思わず足を踏んづけたのは仕方ないと思う。大人げなくないで、うん。 「ホンマか!うれしいなぁ。啓輔、テニスしとるんやって?」 「うん」 「オレと柚希とおそろいやな!……そや、テニスしよか」 Yesしかあらへんやろ! ……と思ったが、樹さんの頭を叩く母さんによって阻止された。 「何言うてんの!今からパーティーやっちゅうねん。明日にしぃや。どうせしばらくおるんやろ?」 「りょーかい。啓輔、また明日な」 「はぁい」 残念だが、仕方がない。オレのためにわざわざ集まってくれた親戚にも悪い事だし、ここは我慢だ。 あきらめようとした丁度その時、台所から声が聞こえてきた。 「なぁ啓輔って六歳やんなー?」 「そうや。お前とは六歳違いやろ」 オレは思わず苦笑する。下の兄の浩輔(こうすけ)と上の兄の良輔(りょうすけ)だろう。すれ違いなどで会わない事も少なくないため、印象が薄いのかもしれない。 「あー、そや。次小一やったな」 「忘れんなよ。六本やで」 ロウソクの話か?丸聞こえなのだが。 オレが困った顔で樹さんを見上げると、にっこり微笑まれた。 「準備できるまで遊ぼか。……やっぱテニスがええなぁ」 外に連れ出したいのだろう。樹さんはキョロキョロ辺りを見回した。忙しそうな母さんはともかく、柚姉までいつの間にかいなくなっている。 「あ、おったおった。姉ちゃん、啓輔と庭おるわー」 「んー、行ってらっしゃい」 返ってきた生返事ににやりと笑った樹さんは、人差し指を立ててシーッと言った。母さんが見えなくなったのを確認してラケットを持つ。 部屋を抜け出すと玄関にあるオレのラケットを出し、外に出た。 樹さんの帰国 (どんな理由であれラッキーや) (早よ樹さんとテニスできるなんてな!) [*負けたわ…][勝ったで!#] [戻る] |