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リリなのどうでしょう
四人のハンターがとんでもないことに巻き込まれたそうです
「天鱗、欲しいな〜」


 赤い龍鱗の鎧を身につけた赤髪の青年がそう呟きながら目の前に横たわる巨大な亡骸に刃物を入れていた。
 それは、翼の生えた竜だった。
 人一人を簡単に飲み込みそうなほどの巨大さを誇っているが、今では物言わぬ屍と化している。
 青年は竜の屍の前に全く表情を動かさずに、されど良い素材が手に入ることを期待に胸を膨らませながら屍肉に刃を走らせる。
 その時だった。
 剥ぎ取りを行う彼の背後から襲いかかる影があった。


「Ash、隙有りぃいいいぃぃいぃいぃい〜!!!」


 ※味方である。


「のわぁあああぁあぁああぁああぁあぁ〜!!!」


 剥ぎ取りに集中していたため、背後から襲いかかった不意打ちに反応することができず、赤髪の青年は目の前の巨大な死骸に勢いよく顔面ダイブした。
 背中に大剣を背負っていたため意図せず防御していたが、十分過ぎるほどに助走がつけられた一撃の衝撃は凄まじいものだった。何より、容赦がない。


「ぐぅう…ぬ…ま、また、てめぇかぁ…」


 竜の死体に激しく叩きつけられた顔面をゆっくりと放しながら、赤髪の青年はゆっくりと背後に振り向いた。
 そこには角の装飾が付けられた鎧を身に纏ったドレッドヘアの青年がランスを持ちながら、してやったりな顔をしていた。


「あっはははは! 顔面びたーんって行ったなぁ!!…ん?あれ、Ashさん?鼻血出てますよ!?Ashさん!?鼻血出てます!? あははははははっ!!」


 仲間を攻撃したことに罪悪感を覚える所か、自分の攻撃によって鼻血を垂らす青年を見て大爆笑している。
 びきりっ…と、赤髪の青年のコメカミに血管が浮かんだ。そして、背中の大剣の柄を握り、ゆっくりと振り上げた。


「死ねや、ごるぁああぁあぁああああぁああッ!!!」


 青年は物凄い形相を浮かべながら、強烈な怒りを込めた大剣を縦一閃を振り下ろす。しかし、ランスを持った青年は跳躍してそれを避わした。


「はっ!命中率が低いAshの攻撃なんか当たらねぇよ!」


 赤髪の青年が怒声を発しながら大剣を振り回し、それをドレッドヘアの青年は時には避け、時には防ぎ、時には蹴りを入れたりしている。
 仲間同士で何をやっているのやら。そんな彼らを見兼ねて、獣の仮面を被り、弓矢を持った小柄の青年が叱責を飛ばす。


「おい!自重しろよ、お前ら!武器という名のでっけえTINTIN振り回すな!」

「お前が自重しろ、Falt!!」

「『普通に武器を振り回すな』で良いだろ!何が、でっけえTINTINだよ!」


 赤髪の青年は怒りながら、ドレッドヘアの青年は笑いながらツッコミを入れる。


「こらこら、お前らいつまでふざけてんの」


 やや覇気のない口調で三人に声をかけたのは、太刀を背負い、東洋風の甲冑を身につけた黒髪の青年だった。


「早くメシにありつけたいから、剥ぎ取りが終わったらさっさと村に帰るよ〜」

「「「はーい」」」


 どうやら彼がリーダー格のようだ。先程まで怒り狂いながら武器を振り回していた赤髪の青年でさえ、渋々ながらも返事をしながら武器を納めている。


(やれやれ…今日も疲れたなぁ…)


 黒髪の青年は内心でそんなことを呟きながら、懐から出した一本の煙草をくわえて先端に火をつける。
 彼ら四人は、『MHD(モンハンどうでしょう)』というチーム名で登録しているモンスター狩猟集団だ。先程仲間割れのようなやり取りがあったが、一応仲間である。今この場にいるメンバーはほんの一部で、他にも5名の正規メンバーと数名の準メンバーがいる。
 この世界には人間に害をなす凶悪な『モンスター』が数多く生息し、そのモンスターに対抗するための『ハンター』も存在している。金のため、あるいは人のため、ハンターはモンスターを狩る。
 その中でも彼らはG級の称号を与えられたトップクラスのハンター。則ちMHDは、最強の狩猟団と言っても過言ではない。だが、いかんせん。先程のようにふざけて合ってしまうのが玉に瑕だ。


「Nobuちゃ〜ん、剥ぎ取り終わったよ〜」


 獣の仮面を被った青年が黒髪の青年に声をかける。他の二人も剥ぎ取りが終わったようだ。ランスを持った青年が赤髪の青年にまた突っ込んでいる。


「うしっ、じゃあ帰るかぁ」

 村へ戻ったら風呂に入り、仲間たちと共に酒を飲み飯を食らい、寝る。
 そんな平凡な生活が、今日も繰り返される。
 否、繰り返されるはずだった。


 突如、地面が揺れた。


「のあっ!?な、なになに!?地震!?」

「地中にモンスターがいるのか!?」

「にしては揺れすぎじゃねぇかッ!?」

(…いや、地震じゃねぇ…!)


 狼狽える仲間三人を横目で見ながら、黒髪の青年は地震ではないと確信した。
 揺れているのは地面だけではない。空気が、空までも──ここら一帯全てが振動している感覚がする。


(何なんだ、こりゃあ…!!?)


 今まで体験したことがない未知な出来事だ。だが、異変について考えている場合ではない。嫌な予感がする。一刻も早く、ここから立ち去らなければ!
 黒髪の青年は逃げるよう仲間に声を張り上げようとしたその時だった。
 揺れがさらに激しくなると、青年たちの目の前にある空間がぐにゃりと不気味に歪み始めた。すると、歪んだ空間を中心に強烈な吸引力を以て、青年たちを吸い込み始めた。


「こ、今度は何なんだよッ!?」


 赤髪の青年は吸い込まれてたまるかと、地面に突き刺した大剣にしがみつきながら大声を発する。しかし、それに答えられる者はいない。皆、各々得物を地面に突き刺したり、木にしがみついたりして持ちこたえていることに必死であった。
 いや、一人だけ違っていた。


「みゃおおぉぉおぉおおおぉおぉ〜ん!!!」


 ドレッドヘアの青年が奇声を発しながら吸い込まれていた。どうやら木にしがみつくことも、ランスを地面に刺すことも失敗したらしい。


「馬鹿野郎か、てめぇはッ!!」


 赤髪の青年は片腕を伸ばし、彼の鎧を掴むことに成功したが、片腕だけで吸い込まれていく彼の重い体重を掴み続けるのにも無理があるようだ。早くも腕が悲鳴をあげ、手を放してしまうのも時間の問題だ。
 一方、獣の仮面を被った青年は木にしがみついていたが、仮面が徐々に浮き上がり始めたのを確認して焦りの声をあげた。


「う、うそでしょ!?うそでしょ!? おいらのガルルガ仮面がぁ!」


 間もなく彼の顔から仮面がすぽーんと外れ、宙を舞い、歪んだ空間に向けて吸い込まれ始めた。


「や、やらせるかぁ!!」


 青年は銀色のクセっ毛の髪を揺らしながらその場から跳躍し、命の次に大切な仮面を掴まえることに成功した。
 だが、現在空中にいる彼はしがみつくものは何もなく、


「あぁああん!足首ヲ、クジキマシタ〜!!!」


 吸い込まれた。
 しかも吸い込まれていく彼の先には、赤髪の青年たちがいる。


「うぉおッ!? てめぇ、こっちくんな!こっちくんな!ぶあっつッ!!」


 吸引によって加速がつけられた(わざとではない)タックルをもろに受けた赤髪の青年。そこによって大剣の刃が地面から抜け、三人は歪んだ空間に飲み込まれた。


「Ash、SEVEN、Falt!!!」


 黒髪の青年は彼らの名前を叫び、半ば反射的に突き刺していた地面から太刀を抜いて、仲間と一緒に吸い込まれる。

 この歪んだ先には何があるのだろうか?何もなく、吸い込まれたら死ぬのだろうか?
 正直、怖い。
 だが、目の前で仲間たちが危険な目に遭っているのに、自分だけが助かろうなんて真似はしたくなかった。
 残された者のことを考えたら、生き残ることを選んだ方がよかったかもしれない。だが、それでも、仲間を見捨てるようなことはしたくなかった。


─jackたち…すまんなぁ…。


 自分たちの帰りを待っているであろう仲間たちに謝罪しながら、青年は吸い込まれていった。
 やがて、四人の青年が歪んだ空間に飲み込まれると、まるで役目を終えたと言わんばかりに歪んだ空間が正常に戻り、空間の揺れもピタリと治まった。
 先程までいた四人のハンターの影も形もなく、残されているのは巨大な竜の死骸だけであった。


あきゅろす。
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