情報屋、やってます。
真意のほどは 1
…ー櫻井弘人sideー…
携帯端末の画面をスルスルと指でなぞる。
「んー…」
教室の机に頬杖をつき、諦めて携帯をパタンと伏せて置いた。
授業が始まる前の教室にいるは、俺一人だけ。
静かな環境は集中がしやすくて好きだ。
あと20分もすればこの静寂が嘘のように騒がしくなる部屋の中で、ふぅとひとつため息をついた。
さっきまで調べていたのは、とーやくんのこと。
どんな状況でどんな風にチームを裏切ってるのか、傾向だけでも掴めればと思って掲示板を漁ってみた。
けれども一向に掴めない。
所属していたチームの規模、方向性、裏切るタイミング、全てがバラバラで、一体何を目的にしているんだか。
ただ一つ、推測できるとすれば、とーやくんは明確な意思を持ってここ一帯のチームを潰しにかかっているんじゃないかっていうこと。
チームに対して恨みがある?それとも単に暇つぶし?
でも、あんまりそんな雰囲気感じないんだよなぁ。
とーやくんのチームへの関わり方は、恨んでるってほどヘビーでもないけど、暇つぶしってほどライトでもない。
むむむと考え込んでいると、教室の扉がガラガラと開いた。
お、こんな時間に来る人がいるなんて。早いなぁ。
パッと教室の扉の方を見やれば、非常に見知った顔が。
「マサリンじゃん!おはよー、早いね!」
「ん、はよ」
マサリンは眠そうな目を擦りながら、気だるげに歩いてくる。
俺の前の席に、横向きにドカリと腰掛けた。
ちなみにこの高校に指定席は存在しない。
いや、一応あるんだけど、みんなそれを一切気にかけてないっていう。
「どーしたのさ、いつも早くてもギリギリなのに」
「いや、なんかもー、寝れねーと思って。今急激にねみぃけど」
マサリンが、くぁっとあくびをひとつして、俺の机に頬杖をついた。
訝しげにマサリンの横顔を伺っていると、マサリンがボーッとした顔で呟く。
「俺、今人生で1番幸せかもなぁ…」
「…え、なに、気持ち悪いんだけど」
マサリンがゆっくりと顔をこちらに向けた。
「…マジで運命の出会いだわ」
沈黙が落ちる。
マサリンはそんなことをほざいてまたボケーッと宙を眺めてるし、俺は俺で盛大に引いてるからである。
マサリンがこんな迷言を吐くなんて、あれしかないよねぇ…。
「とーやくんと何かあったんだ?」
またちょっととーやくんに優しくされて付け上がってるんだろうなと当たりをつけた質問だったけど、マサリンの回答は予想の遥か上を行くものだった。
「ん。"bat"とカタついたら、付き合ってくれるって」
「…は?」
「昨日さ…透哉からキスしてきた…」
「……は?」
「もー、耐えらんなくて舌入れちまったし」
「………はぁぁあ?」
最後の情報はどうでもいいとして、とーやくんがマサリンと付き合うって言った挙句自分からキスしただと!?
「マサリン、自分に都合のいい夢見たからって現実と混同するのは良くないよ!」
「は!?最初っから最後まで現実だから!!」
「あ、もしかしてヤク?手出しちゃった?」
「っだぁぁ、そーいうんじゃねぇって!信じろよ!」
「いやいや、無理でしょさすがに」
「そこまで疑うなら透哉に聞いてみろ!」
「……あぁ、なるほど」
マサリンにしてはまともなこと言うじゃん!
とーやくんに聞けば確かに間違いない。
情報屋ってのは、嘘が付けない性分らしいしね。
けど、そこまで言うってことは、ほんとに夢じゃないのか…?
うーん、いよいよとーやくんが何を考えてるのかわからなくなってきた。
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