情報屋、やってます。
2
うわ、と、自然に声が出てしもたのは昨日に引き続き2回目。
「透哉!」
「なんでおんねん!」
カフェバーからそのまま自宅へと帰路につき、ホッと一息家でゆっくり休もうと思てたら、なぜかラスボスが待ち構えとったという悲劇。
間違いなく俺の家の玄関先にドカリと座り込んでいたのは、言わずもがな相田正行やった。
相田正行は俺を認知すると、パッと立ち上がり小走りで近寄ってくる。
怖い怖い怖い。
「もう昨日は知らねー内に帰ってたし、メールも電話もダメだし、会いに来た」
「あんたのメンタルはどこでそんなに鍛えられたん」
ここまで来ると立派なストーカーやないか。
警察に突き出しても文句言われへんやろ。
いやしかし、まさか自分が、とよくある被害者の所感に浸りかける。
「あんたと話すことないから帰れよ」
「あー、と、マジでごめんな。いきなりき、…キスとか、俺もするつもりじゃなくて、俺もびっくりしてるってか、あれは事故みたいなもんで…」
「事件やろドアホ!猥褻容疑で訴えんぞ!」
「ああああごめんて!」
もう一度ごめん!と大きな声で謝った相田正行は、両手を足の付け根のあたりに押し当て、勢いよく頭を下げた。
いやいや、総長様が何威厳のない姿晒してんねん。
「もう諦めろや…」
ソロソロと顔を上げた相田正行と目が合う。
「…お前、なんでそんな壁作ってんの」
真っ直ぐな瞳は、先程の青年の射抜くような目ではないのに、何故か心臓を縫い止められた気分になる。
ぞわぞわする。
「…邪魔や、入られへんやろ」
不快感をかき消すように目の前のガタイのいい体を押しのけ、玄関までズカズカと歩みを進める。
「透哉…!」
後ろで立ち尽くしている気配に、振り返って、
「立ち話も何やし、入れば」
告げた。
いや、冷静に考えて何してんねん俺。
リビングに置かれた二人がけのソファに相田正行と並んで腰掛けながら、この状況を作り出した自分に対してシンプルに問いかける。
おかしい。立ち話がどうこう以前に、そもそも話すことはなかったはずや。
混乱している俺を他所に、相田正行はマイペースにしゃべり出す。
「いやー、マジで絶交かと思ってビビった」
俺一人と縁が切れたところで、こいつは何が問題なんやろ。
ふにゃふにゃと破顔するアホに、思わず毒気を抜かれそうになる。
「物好きやな、あんた」
「ん?…透哉のことは好き」
「ッだから…」
ストレートすぎんねん!
くそ、調子狂うな。
愛おしげな眼差しにまたもぞわぞわして、ふいと顔を逸らす。
「…透哉、6日と7日でみんなで旅行行くけど来る?」
「行かへん」
「早っ」
隣でしょぼくれる気配がした。コロコロと忙しいやっちゃ。
「どうしたら透哉がチームのこと好きになれるかずっと考えてんだけど、全然わかんねーや…」
「はぁ?あんたそんな意味不明なことを、大して詰まってへん脳みそで考えてたんか」
「うっ、だって弘人あんま協力してくれねーし」
「そらそうやろ。意味不明やからな」
「いや、だってチームのこと透哉が好きになったら、裏切ることもなくなって、傷つく人減るし透哉を悪くいうやつも減るだろ?絶対ぇその方がいいじゃん!」
あまりに単純なロジックに、思わずツッコみそうになる。
そんな、チームを好きになったぐらいで俺が今の行動改めるなら、端からチームなんてやってへんわ。
けど、そのちゃっちい脳みそじゃ、俺が個人の感情のみに行動を左右されてるっていう前提条件しか思いつかへんのやろな。
「…マサリンさん、2つ勘違いしてるらしいな」
「え?」
「まず、俺がチーム好きになることはあれへん。そんでもって、もし億が一好きになったとして、俺の今のスタイルは変われへん」
「……む」
相田正行が分かりやすく顔を顰めた。
「…透哉がチーム入ってる理由がマジでわかんねぇ」
「せやろな」
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