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情報屋、やってます。
4

自然体でうわっと声が出てしもた。
駆け寄ってくる相田正行の後ろに、今日のお目当ての顔を見つける。

「櫻井さん、また今度お邪魔するわ!」

そう言い捨て、くるりと背を向けて走り出す。
けど、その一瞬が命取りやった。

俺が逃げるとわかってスピードを上げたのか、数歩でバシッと手首を掴まれた。
もう嫌や!
手首掴まれんのトラウマやで!

「な、なんで逃げんの!?」

お前が振り向き様にキスかましてきたからに決まってるやろボケがぁぁぁ!!
もう振り向かへんからな!!

相田正行に背を向けたまま、掴まれた手首を引き剥がそうとしていると、独特な香りが鼻をついた。

「タバコくっさいなぁ、離れろ!今すぐに!」

「あ、あああ、ごめん!透哉来ると思ってなくて…」

「知らんがな!俺に近寄らなければ済む話やろ!」

「っ!!わかった禁煙する…!」

「せやからそういう問題ちゃうねーん!!」

思わず振り向いて叫べば、相田正行はボッと顔を赤くした。
な ぜ や !!

「と、透哉が、怒ってんのは、………その、」

「あぁ?」

「あ、あれ、かな、やっぱ……」

「はっきりしぃや、絞め殺すぞ」

「いきなり、き、キスしたからかな!」

「わざわざ聞かへんでもわかれや!!!」

さっきから周りの目が痛いねん!
さっさと帰らせろ!
なんで俺がこんな辱しめを受けなあかんのや!?

工場内がどよどよと騒めきだす。
やめてくれーーー!

ギリギリと奥歯を噛みながら、どうにかしてここから脱出する方法を考える。
まずはこいつの拘束から逃れへんと話にならん。

顔を赤くしてはわはわしている相田正行を睨みつける。

「手を離すか絶交か選べ」

「えっ!」

パッと相田正行の手が離された。
やっぱ脳筋にはこっちのが効くな。よしよし。

今度は相田正行の肩越しに、含みのある表情でポッケに手を突っ込んで立っている櫻井弘人へ言葉を投げる。

「櫻井さん、ちょっと外一周歩こうや」
「おっけい!」

櫻井弘人は食えない顔でヘラりと笑った。

「あ、じゃあ俺も」
「なんで当然のようについてこようとしてんねん」
「マサリンはお留守番ね。ややこしくなるから」
「え!!」

見るからにしょげている相田正行を置き去りにして、櫻井弘人を連れ立ち倉庫の外へ足を進めた。
ようやく脱出できた。難儀や。

知らずため息を吐いたら、櫻井弘人が隣で小さく笑った。
敢えて無視をする。

騒がしさをシャットダウンするように、倉庫の扉をガラガラと閉めた。

「さて、なんの御用かなぁ?」

こっちから回ろぉと左方向を指さし、櫻井弘人がダラダラと歩みを進める。

「"bat"について共有」
「やっぱそれか」
ま、それ以外で櫻井弘人に用事なんかあるわけないやろ。

「そろそろ狙ってくんで。あんたらんとこの情報嗅ぎ回ってる」
「…へぇ」

半歩先を歩く櫻井弘人の表情は、見えへん。

「いつ来る?」
「…どーやろな。狙いやすいのは7日やろけど」
「……」

櫻井弘人が僅かに首を捻り、じとりとした目で俺を捉える。
「何で知ってるのさ。プライベートなんですけどぉ」
「別に邪魔するわけちゃうねんからええやろ、知ってても」

ちなみに、"dog"のメンバー数人と総長副総長でちょっとした旅行に行くのが6、7日。
幹部も何人かそっちに割かれるのはもちろん、トップ2人が不在とあれば、絶好の機会でしかない。
もしこの情報があるならば、"bat"は7日の昼に奇襲をかけてたまり場を侵略し、人質をとった状態で帰ってきた"dog"の奴らを呼び出し解散宣言させる、と容易に想像がつく。

「それ、"bat"は知ってんの?」
「まだやけど、もうすぐやな。あと2,3日で伝手が繋がるみたいやで」
「……なんでそこまでわかるかなぁ、怖いよ」

櫻井弘人が、うーっと唸る。

「どうするかなぁ…」

おそらくこいつの頭にある選択肢は3つ。
その一、旅行自体を取りやめ、奇襲計画を事前に潰す。
その二、自分たちは旅行に行き、他のメンバーはその日たまり場に来させないよう手を回すことで奇襲を避ける。
その三、旅行に行き、7日は急遽という名目で早く切上げ、"bat"の奇襲を迎え撃つ。

温厚派の"dog"は抗争を嫌う。常でいけば、その三は論外。
ただし、このところのチーム情勢で言うと、拮抗してるのは"dog"と"bat"のみ。
ということは、遅かれ早かれぶつかることになる。

長引かせるよりも早々に蹴りをつけて安泰な生活を手に入れるという決断が、抗争嫌いなこいつにできるかどうかやな。

"dog"に関しては、俺は作戦への口出しはせーへん。
まずもって櫻井弘人は俺自体を全く信用してへんし、こいつは頭が回るから自分で考え自分で動かしたいタイプ。
俺ができるのは、情報提供だけ。

「ちなみに、俺らと"bat"で正面衝突したら、勝てる見込みは何%だと思う?」
「99%やろな」

即答する。これはほんと。
母数も上位層の力量も、明らかに"dog"が上。
"bat"が怖いのはあの卑劣さだけや。
それが何よりの凶器なんやけどな。

「………"bat"が7日、攻めてくる確率は?」
「確率までは知らんがな。けどまぁ、リアルタイムでお知らせすることはできるで」
「……んー、おっけー。また教えて」

そうこう話しているうちに、どうやら倉庫の外を一周し終わろうとしていた。

「ほな、そんだけやから。帰るな」
ひらりと手を振り、櫻井弘人と反対側に体を向ける。

「あ、そうだ、とーやくん」

呼び止められ、顔の向きだけそちらに寄越す。

「マサリンに気に入ってるって言ったのはどういう風の吹き回しー?」

表情は、特に毒気があるわけではなかった。
純粋に気になるらしい。
いや、そもそも何でそれ言いふらされてんねん。

「…あいつが奈都に嫉妬してウザかったから」

「……ふーーーん」

こちらを見る目がスっと、腹の底を探るように光った。
なんや、どいつもこいつもうざいな。
今度こそ帰路につこうと歩き出す。

もう呼び止められることはなかった。

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