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情報屋、やってます。
10,000打記念2
…ー櫻井弘人sideー…

12月5日、今日から期末試験。
一夜漬けすらしないこの高校の学生は、テストが始まる前のほんのちょっとの時間で詰め込み作業をする。
朝の教室では、教科書なんて見ても覚えられないだろうと踏んだ教師が作った『ここがデル』というプリントを見ながら談笑するやつらが、チラホラ。
まだ登校してないやつら含め、こいつらにとっての本番は朝のホームルームが終わってからだ。

内心ため息を吐いていると、教室のドアがガラガラと開き、マサリンがお目見えした。
俺の横の席まで来たところで、マサリンは眠そうな顔であいさつをしてきた。
「はよ」

「おはー。遅くまでお楽しみだったのかな?」

誕生日の夜だもんねー。
そりゃ、することするよねー。

「お楽しみ?勉強楽しいわけねぇだろ…」

「…あ、テスト前だから早く帰ったのか」

「何言ってんだ、どこも出掛けてねーよ?」

「…………………」

おいおいおい、嘘だろ?

まぁ、確かに、とーやくんとイチャついてきた次の日はもっと機嫌がいい。
ってことはつまり。

「………マサリン、昨日何の日か知ってる?」
マサリンは椅子に腰掛けながら、不可解そうな顔をする。

「はぁ?何の日って?」

「日付、言ってみ」

「12月よ、……………………っか………」

答えにたどり着いた途端青ざめた顔を見て、悟った。

恋人の誕生日忘れちゃってたな、こいつ。

マサリンは座ったばかりだと言うのに、ガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった。

「やばい、やばいやばいやばい。え、うそ、昨日12月4日?いやいやいや、は?」

今にもぶっ倒れそうな顔で、マサリンがすがるように俺を見る。

「弘人、きょう、何日?」

「12月5日」

「ああああああやっちまったああああ」

頭を抱えて椅子に座り込んだマサリンに、教室中の視線が集まる。

「ど、どうしよう、時間巻き戻せねぇかな、」
「現実逃避はやめなよ」
「あ、電話!電話してくる!」
スマホを取り出しながら立ち上がろうとするマサリンに、慌ててストップをかける。
「まてまて!そろそろホームルーム始まるから!」
「腹壊してトイレこもってるって言っといて!」
「とーやくんとこもホームルーム始まる時間でしょ、どうせ出れないよ」
「う………」
悲しそうな顔をしてマサリンは項垂れた。

「とりあえず放課後までは待ちな」
「…うん」
「まだ今日でも間に合うって」
「……でも、今日はもう誕生日じゃねぇよ…」
「…う、うーん、だってしょうがないじゃん」

「プレゼントも一ヶ月前に買ってたんだって…」
「………」
「なのに何で忘れちまったかなぁぁぁ…」
「………」

だんだん泣き声になっていくマサリンに、慰めの言葉も出て来ない。
いや、出て来てるけど、言ったら余計泣く。
たぶんとーやくんそんなに気にしてないって。
昨日のメールの返信で「忘れてたわ、ありがとう」ってきたくらいだからな。

「あ、そうだマサリン!」
絶望に満ちた目が俺を見る。
「マサリンはどうせ当日祝うだろうからって思って言ってなかったんだけどさ、今週の土曜日にとーやくんの誕生日会企画してるとこなんだよね!」
これはほんと。
"dog"でもとーやくんと比較的交流があった人たちでやろうと思ってる。
「マサリンもそこで祝うつもりだったってことにすればいい、」
「そんなん最悪だ!!」

「……………」

「わ、わりぃ……けど、俺はちゃんと謝りたいし、できるだけ早く直接祝いたい……」

「そっか…」

マサリンにこんな卑怯な手使わせられるわけなかった!
とにかく言えることは、今日のテスト、ボロボロだろうな。






放課後、二人で屋上を貸し切り、とーやくんへの電話に備える。

「か、かける」
「どうぞ」

通話ボタンを押して、ガチガチに緊張した顔でマサリンが待機する。
そのスマホを奪い取って、スピーカーにしてから返却。

呼び出し音がしばらく鳴ったあとで、それが途切れた。

『もしもし』
「あ、透哉!…………」
『どないした?』

「昨日、誕生日、………おめでとう……」

『ああ、ありがとう』
とーやくんは、そんなことかって感じで軽く笑って、さらっと流した。
ほら、やっぱ気にしてないじゃん。

「……………………透哉、」
『ん?』
「今日、家、行っていい?」
『今日?明日あんたテストやろ、勉強せぇよ』
「……………あ、テストか、俺は別に、………透哉勉強したい?」

『…………………うん。また今度おいで』

これはうそ。
とーやくんがそんな一生懸命勉強するはずがない。
俺らの高校より偏差値高いといっても、余裕で50は切ってるわけで、とーやくんにとっては小学生の問題解いてるようなもんだろ。
マサリンがテストやばいと思って、気を遣ったんだろうな。

「テスト終わるのいつ?」
『木曜』
マサリンが、5、6、と小声で数えていく。
「8日………やっぱ今日!ほんと一瞬でいいから、時間ちょうだい」
『もしかしてお祝いしにきてくれるん?』
「……うん」
『そんな気ぃ遣わへんでええよ。また来年祝って』
「それはだめ!来年とか絶対だめ!!」
『………………』

なんでとーやくんもそこまでして会いたくないのかわかんないけど、今日会ってもらわなきゃ、マサリンがやばい。

「とーやくーん、弘人でっす」
『やっぱいたか』
「バレてた?」
『雑音拾いまくりやし声遠いし、わかるわ』
「あははー、まぁそれはともかくさ!とーやくん、どうせ勉強なんてしないでしょ、マサリンと会ったげて」
『別に今日じゃなくても、』
「今日じゃないと、マサリン今回のテスト全滅だから。お願い」

まじで、留年の危機。
なんだろうな、怒ってる感じも落ち込んでる感じも拗ねてる感じもないのに…。
ただ、なぜかひたすら穏やかに、会うのを拒んでる。

『…………わかった』

「ほんとか!?いつ行っていい!?」
『いつでも』
「………じゃあ、4時くらいに行く」
『了解、じゃな』
「あ、おう」

ぷつりと通話が終了して、マサリンが項垂れる。

「はぁぁぁぁ、まじで最低だ俺…」
「とーやくんそんな気にしてなさそうだったじゃん」
「どこがだよ!明らか俺と距離とろうとした…」
「あー、まぁ、うん」
「ああああああしにてぇぇぇぇぇ」
今日は叫ぶねぇ。

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