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情報屋、やってます。
旧友(仮) 1
手首を掴んだまま、相田正行が俺側のソファに移動してくる。
「明日なんか予定ある?」
「…なんで」
そしてそのまま座るから、帰るに帰れなくなってしまった。
仕方なく俺もソファに座り直す。

「なんもないなら溜まり場おいで」
「……じゃあ予定あるわ」
「あ、そうなのか」
いまだに手首を掴んでる手を、空いてる方の手で引き剥がす。
「いやいやマサリンちゃんと聞いてた?明らかに接続詞おかしかったでしょ」
「接続詞?」
「じゃあって言ったよ、今」
「…あー、確かに。透哉でも間違えることあんだね」
「…………」
わざとやアホ。
溜まり場極力来たないのを察してくれ。

結局俺はどないな立場で"dog"に関わったらええねん。
こいつのせいでイマイチわからなくなってもた。

「透哉くん透哉くん!」

帰るタイミングを逃して、どないしよ思ってたら、後ろから突然声がかかった。

振り向く間もなく、バチーンと後頭部を勢いよく叩かれる。
「いった!」

「久しぶりやなぁ!元気してた!?」

頭をさすりながら後ろにからだを捻る。
声変わりはしてるけど、顔は全く変わってへんな。

「まさかほんまに情報屋やってるとは思わへんかったわ!」

…白々しいやつめ。
無邪気なデカい声で話すこいつ、速水奈都という。
俺が関西の方にいた時分、ご両親にはお世話になった。
けど、こいつ自体は正直ものすごく苦手。

せっかくこっちに戻ってきて離れられたのに、1年遅れて今度はこいつがこっちに来よった。
決してこいつの意志ではないことだけは、確かやけどな。

奈都は俺のいっこ下で、高校進学を機にこっちに移ってきた。
そしてすぐ"dog"に加入して、俺が"dog"を避けていたのはそれを知ってたからっちゅうのもある。
あと、関西弁は俺とキャラかぶるからやめてほしい。

「え、ナツと知り合い?」
「あー、」
「透哉くんとは中学以来のダチなんすよ!ね!」

「はぁ?ダチ?おかしな妄想やめてくれへん?」

「つーめーたーいー!なんやねん、まだそんなツンデレキャラで通してんの!?」

「ほんっまうるさいお口やなぁ!縫い付けたろか」

「透哉くんに縫い付けられるなら本望やで!」

思ってもいないくせによぉ言うわ。
白い目で奈都を見ていたら、隣で相田正行が「あ!」と声を上げた。

「ナツ!中学生ん時の透哉の写真持ってる!?」
あんたはそうやって意味不明な話題を振るな!
「持ってますよ!100枚以上は確実に!!」
そしてなんでお前はそんな俺の写真持ってんねん!
撮られた覚えないぞ!
「ちょっと送ってくんね!?」
「了解っす!」
「了解すんなボケカス!今すぐ消せ!」

奈都がスマホを取り出した瞬間、それをバシンとはたき落とす。

「ぎゃあああ!!」

持ち前の反射神経で咄嗟にしゃがんでそれをキャッチした奈都のつむじに、親指の腹をグリグリと押し付ける。

「うぎゃあああ!!お腹ピーピーになるからやめて!!」
「後頭部攻撃されたお返しや」
「はぁ!?あんなんただのスキンシップやんか!」
「にしては激しすぎやろ!」

奈都がベシベシと俺の手をはたき、つむじ攻撃から逃れる。

「心の狭さとエセ関西弁は相っ変わらずやなぁ…」

小さな呟きに、向かいのソファで傍観を決め込んでいた櫻井弘人が口をはさんだ。

「やっぱとーやくんって出身こっちなんだ?」

こいつは何かと人の素性を知りたがる。

「透哉くんが来たのいつやっけ、俺が中一んときやからー……中二の秋くらい?」
「忘れた」
「もー、反抗期かいな!」

「へぇ、案外短いね!とーやくん、高校入る時にはこっち戻ってきてたでしょ?」

高一のときから話題になってたもんねぇと言って、櫻井弘人は意味ありげな笑みを浮かべた。

「そんなん知ってどないすんの?弱味になるようなことなんかあれへんで」
「別に弱味握ろうとか考えてないって!気になるだけー」
「……ほなあとは奈都から聞いとって。俺は帰る」

よしよし、ようやく帰れる。

「えー、もう帰ってまうん?」
「お前と話してると疲れんねん」
「ひっど!」

鼻で笑って立ち上がると、相田正行もなぜかソファから腰を上げた。

「送ってく」
「……は?」
「もう外も暗いし!」

俺は女か。
けどまぁ、夜に襲われたことは何回もある。
もちろん恨みを買ったチーム関係者にやけどな。
相田正行ほど牽制になる用心棒もいてへんし、せっかくやから護衛してもらおか。

「悪いなぁ、あとでお駄賃あげるわ」
「え、いいの!?」
「俺んちまで結構遠いし、タダ働きはさすがに」
「あー、いや、そうじゃなくて…」

相田正行は気恥ずかしそうに首の後ろをかいた。

「断られると思ったから」

「……………」

やっぱりあんたはアホやなぁ。
ただ利用されてるだけやぞ。
嬉しそうな顔されてもこっちが困る。

「…交通費くらいは出すから、ちゃんと最後まで送ってけよ。行こか」

「…!おう!!」

ほんまは駅までにしてもらおうかと思ったけど。
まぁ、何があるかわかれへんし、一応な。


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あきゅろす。
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