情報屋、やってます。
情報屋
「水崎、お前また寝返ったんだって?」
朝、俺が登校するなりそう話しかけてきたのは、クラスメート兼友人の原田。
俺の前の席で、興味津々といった風に椅子の背もたれから身を乗り出している。
「人聞き悪いな。潰れたチームからまだ潰れてへんチームに移っただけや」
「潰したのお前だろ…」
原田が芝居がかったようにため息をつく。
「潰したんちゃうで。情報流したら勝手に潰れてん」
「そーいうのを世間じゃ潰したっていうの!」
「一応情報屋やねんぞ、金もろたらしゃあないやん」
「一周まわって尊敬するわ、そのスタンス」
俺が今住んでいるここらへんの地域は、一言で言えば治安が悪い。
学校でグレてたむろするだけじゃあ満足できひん高校生たちにより、不良チームというものが随所で結成されている。
言うてしまえば暴走族のタマゴなわけやけど、もはや警察も取り締まりには若干諦めの色を見せている。
そして俺は、そんな不良連中にいろんな情報を提供してる、いわゆる情報屋。
通り名みたいなノリで"関西弁の情報屋"なんて呼ばれることもあるけど、基本は本名の水崎透哉で名前が通ってる。
俺のモットーは『正確かつ迅速かつフラットに』やから、一応特定のチームには所属しつつも、肩入れはせーへん。
金になるなら敵チームでも情報は渡す。
「"tiger"のやつら敵に回すとか、お前バカじゃねぇの」
「あいつらなんて怖くも何ともないで」
ちなみに"tiger"というのが、俺がついこの間までついてたチーム。
ちょっと金もろたから"rabbit"ってチームに"tiger"の情報流したんやけど、3日であっさり潰れた。
まぁ、潰れたもんはしゃあない。
泣く泣く俺は"rabbit"に移ったわけや。
原田には冗談で人聞きが悪いと文句を言って見せたものの、実際定期的にこんなことを繰り返しているので、「また寝返った」という表現はなんら間違ってへん。
それに対して特別な感慨もなく、強いてコメントするならば、目的を達成するための致し方ない犠牲やったってことぐらい。
あと、至極どうでもいい補足として、このへんの不良チームはなぜか英語の動物名でチーム名が統一されてる。ほんまにどうでもええけど。
誰が決めたわけでもなく、いつからか風習になったそうな。
俺の個人的な意見としては、非常にダサいと思ってるぐらいで特筆することはない。
「ま、気ぃつけろよ。絶対お前って後ろから刺されて死ぬタイプだから」
さらっとえげつないこと言うやん。
ただしあながち有り得ない話でもない。
「ご心配ありがとう」
鼻で笑った俺に、原田はまたわざとらしいため息を吐いた。
「水崎、"dog"なにか変な動きしてないか」
"rabbit"の溜まり場で、総長の加原が聞いてくる。
「してへんよ。"dog"はそんな気にかけるようなチームちゃうで?」
「いや、だって最近メンバー増えてるみてぇだしよ」
「増えてるだけや、害はない。抗争も全然してへんやんか」
「…まあな」
「気ぃつけるべきは"bat"やな。もう怪しい動きしかしてへんで、あのチーム」
「あー、"bat"か…」
この総長大丈夫かいな。普通に考えてもわかるやろ。
"dog"は最近できたばっかのチームやけど、まあまあな人気や。
人畜無害やし、ええチームなんちゃう。
人が集まるのもわかる。
"bat"はそれと真逆。
やることほんまえげつない。
法律どころかモラルすらどこかに置いて忘れてきたような奴らの集まり。
けど数が少ないから、そこまで危険視されへんねん。
早々に潰しときたいチームや。
さて、次は何の情報を流そうか
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