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風の中
幸せなんです
久々にお気に入りの曲を口ずさみながら風紀室へ向かう。

ふんふふーん。

…………あ。

あー!なんかピーンときてしまった!

駆け足で風紀室まで戻ろうとしたけど、そう言えば副委員長に騒がしいと怒られるんだった。

だから、落ち着いて落ち着いて、時速8キロくらいで歩いた。

風紀室の扉を開けると、長谷川さんがパッとこっちを向く。

長谷川さんのデスクまで急ぎ足で近寄って、会長さんから託された書類を長谷川さんに手渡した。

「ただいま書類届けて参りました!あと、これ生徒会からです」

「ああ、サンキュ」

「うす!それとですね、」

俺から書類を受け取った長谷川さんは、何かあったのかと不思議そうな顔をしてる。

「長谷川さん!」

「ん?」

「俺長谷川さんにピッタリの歌見つけてしまいました!」

「……歌?」

「うす!……地●の星であります!」

「………………うん?」

「あの冒頭の歌詞思い出してください!かぜのなかのすーばるー…ほら!」

「………………うん??」

「風紀委員の中の風紀委員、長谷川昴さんにピッタリじゃないすか!?」

「………ピッタリ、つか……ぁー……まぁ今の略すと、そうなる、な…」

「ですよね!ですよね!!俺一生分のひらめきを使い果たした気分です」

「………………うん…」

俺がすげぇ歓喜に浸っていると、なぜか副委員長に吹き出された。

「北原、おま……サイコー…」

肩を震わせている副委員長。

おおぉ、そんなに感動してくださらなくとも!

「北原」

長谷川さんに名前を呼ばれて、意識を副委員長から長谷川さんに戻す。

「なんでしょうか」

「今日、……俺の部屋来て一緒に地●の星歌う?」

「……?うす!………?」

副委員長はついに声をたてて笑い始めた。

「長谷川っ、誘い方、へったくそ!」

「うっせぇよ!」

「北原全然わけわかってねぇじゃんっ」

「?」

副委員長は何かがツボにハマったらしく、クールな普段と違ってすげぇ笑ってる。
む、こういう副委員長もいいと思います!

「北原!」

「はい!」

「今日俺の部屋来ませんか!」

「………!!いいい行きますー!!」

そういうことだったのか!
そして地●の星を歌うわけですね!!

くぅぅ……なんて幸せなやつなんだ俺!!









午後7時。長谷川さんとの約束の時間。

部屋の前でインターホンに手をかける。
押していいかな。
もう風紀室から戻ってるだろうか。

まぁ、とりあえず押してみよう。

ピンポーン。

部屋の中から足音がして、すぐに扉が開く。

「北原、いらっしゃい」

「うす!おじゃまします!」

長谷川さんの部屋の玄関へそっと足を踏み入れる。

やっぱ風紀委員長の部屋ともなると一人部屋。
一人だと、同室者に気を使う必要はないけど、寂しくねーかなぁ。

廊下を進んでいく長谷川さんのあとをついていく。
むむ、リビングだ。
広さはそんな俺らの部屋と変わらない。

リビングに入った長谷川さんはソファに座った。



「――琉衣」



「………!!」


名前呼びだ!!名前呼びだ!!!

「おーいで」

「うす!!」

長谷川さんが、隣に座れというふうにソファをポンポンと叩くので、一礼してから座らせていただいた。

「顔すげぇ弛んでる」

「不可抗力っす」

ほっぺをプニプニされる。
そんなことされたら余計に弛んじゃいますよー。


「琉衣、俺の名前」


「えっ、いいんすかっ?」

「むしろ呼んでほしい」


「す、――昴さん、」


あああ呼んでしまった!

長谷川さん、もとい昴さんは、柔らかーい笑みを浮かべてポンポンと頭を撫でてくる。

「なぁ、……調子はどう?」

「完全復活いたしました!」

「そうか、よかった……」

頭を撫でていた昴さんの手が、俺の側頭部にそっと添えられた。

お、お、この雰囲気は!

昴さんの顔がゆっくり近づいてくる。

「ん……」

キスですね!幸せです!!

夢みたいだ。
昴さんと恋人だなんて、ほんと信じられない。

キスの合間に俺が好きって言うと、昴さんもおんなじように好きって返してくれる。

こんな幸せな人生が待ち受けていようとは、ついこの間まで本当に予想してなかった。

確かにここ1ヶ月マジで辛かったけど、なんかもうすでにそれがチャラになるぐらいの幸せを頂いている気がする。

俺は昴さんが大好きだ。

大好きなんだ。


「「―――好き」」


目が合って、二人で笑って、また唇を重ねた。













幸せなこの時間が、どうかいつまでも続きますように




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