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哀色
確信
優のことを知ったのは、中学最後の春休み。
その日、俺は高校の生徒会室に呼ばれていた。
中に入れば、すでに3人の見知らぬ生徒と、高校の生徒会役員たちがいた。

「こんにちは」
「こんにちは、成松くん。まだあと一人来てないから、少し待っててくれ」
「はい」
仙道会長と喋ったのはこの時が初めてだった。
一貫といっても、中学と高校は全く別物だからだ。
特に、部活に入っていなかった俺には高校なんて別世界だった。

用意されていた椅子に腰かける。隣には、もうひとつ空の椅子があった。

「時間通りにくるか、あいつ」
会長が隣に座っていた副会長に聞くと、副会長は首を横にふった。
「わからん」

それから約1時間半、他愛ない話をしながらひたすらあと一人を待った。

「もう我慢できねぇ。絶対ぇしばく」
「まあ、落ち着け」
会長があまりの苛立ちに椅子をガタンと鳴らし立ち上がった時だった。

コンコン、とドアをノックする音。

「…入れ」
会長が言うのと同時にドアが開いた。
恐らくは返事を聞く前にドアを開いたんだろう。

「こんちは…」




ドアから控えめに中を覗いたそいつに、なんと俺は一目惚れしてしまった。




「さっさと入れ、上城優!」
「失礼します…って、あれ、なんか怒ってます…?」
「おっせぇんだよバカ優が!」
会長は中学の時の優の部活の先輩だったと、後から聞いた。

「さーせんっ、あれ、何時集合でしたっけ!?」
「13時だバカヤロウ!!」

「何やってた?」
激昴している会長をなだめ、副会長が静かに聞いた。
「あ、部活を…」
「もう引退しただろうが」
「あんま関係なく顔出してるんで」

優は「待たせてすみません」と全員に謝りながら、俺の隣の椅子の足元に部活のバッグをドサッと置き、よっこいせというじじくさい呟きと共に椅子に座った。

なんだ、ギャップってやつか。ギャップってやつを狙ってるのか。
とか考えていたこの時の俺の頭は、どこかネジが飛んでいたんだと思われる。

そっと横顔を覗き見ると、それはそれはキレイな顔をしていた。

「じゃあやっと、全員揃ったから話を始める」

会長は、俺達を見渡して、こう言った。

「結論から言うと、お前らには高校に入学したらまず生徒会補佐になってもらいたい。お前らは有能だ。特に成松、お前には会長候補として頑張ってもらいたいと思ってる」

「…はい」

こんな名誉なことはない。俺はしっかりと頷いた。
それに満足したように、会長はニッと笑った。

「他のやつらの役職は実際補佐の出来を見つつ決めていくつもりだ。頼んだぞ」
俺より先に来ていた3人も、力強く頷いた。



そう、3人は。



ただ一人首を縦に振らなかった優を、会長はじっと睨んだ。

「優、頼んだぞ」
もう一回、有無を言わせないような迫力で会長は言った。

「あー…無理っす」
しかし優は、さらっと拒否の言葉を口にした。



一瞬鬼の形相をした会長は、ぐっと拳を握って角を引っ込めた。…もちろん比喩だ。

「…理由を聞こう」

「俺、部活に専念したいんすけど…」

「…じゃあ俺らがお前を延々と待った時間を全て無駄にすると?」

「あ、俺みんなに差し入れあるんすよ!」

「物で釣ってんじゃねぇよ!」
「まぁまぁ」

そう言うと優は、バッグからビニール袋を取り出した。

「ハー●ンダッツっすよ!はい、どーぞ」
生徒会の先輩たちから順番に、優は一人一人アイスを手渡していった。

ぐるっと回って最後に俺。

「はい、成松さん。生徒会頑張って」
ニコッと笑って手渡された瞬間、確信した。

俺はこいつに堕ちたんだ、と。






「龍聖、ハー●ンダッツ冷蔵庫に発見した」
「俺が買ったんだけど」
「あ、そうなの?なんかね、2個あった」
「お前用のも買ったんだけど」
「あ、そうなの?ありがとう」
スプーンを持ってきて食べる気満々の優の頭をわしゃわしゃ撫でる。

他の誰よりも、可愛くて、かっこよくて、おもしろくて、いとおしい。

「龍聖、あーん」
「ん」

スプーンをこちらに向けてくるので、口を開けて待機。

しかし、そのスプーンは口に運ばれることなく鼻にベチョッとぶつかった。

「んぶっ、冷たっ!」
「ぶはっ!ごめん、手、滑っ、あははははは!!」
「絶対ぇわざとだろっ!ちっくしょ、おかしいと思ったんだよ!お前あーんとかいう柄じゃねぇもん!!」

優はもう爆笑を通り越して過呼吸に陥りかけてる。
ひぃひぃ笑って、なんと楽しそうなこと。

という俺も、過呼吸寸前。
こいつおもしろすぎる。






お前と触れ合うたび、俺の中に新しい色が生まれてく 



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あきゅろす。
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